今日の報道には驚きを隠せませんでした。ヒズボラ戦闘員が所持するポケベルがほぼ一斉に「爆発」し、2750名もの死傷者が出たというのです。誰がどうやって爆発させたか、これを書いている段階でポツポツ情報が入り始めていますが、あくまでも推測としてポケベルにマルウェアが入り、ある時間に一斉に爆発するように仕組んだとみています。爆発の瞬間の画像を見る限り威力はさほど強いものではなくポケベルの電池を爆発させたのではないかと思います。
一部の報道では出荷段階で爆薬を仕組んでいたのではないかとされますが、2750台のポケベルすべてが爆薬装填済みだったのかと考えるとやや怪しい気もします。もしかするとモノによっては爆薬が入っていたものもあり、爆発が軽微なもの、シリアスなものが入り混じっていたのかもしれません。
たまたま私は今日の午後にイスラエルの立場から見たガザ地区問題の円卓会議にオブザーバー的参加をするので当然話題にはなってくるのでしょう。今回のポケベル爆破事件の犯行はたぶん、イスラエル、そしてその目的はヒズボラ戦闘員をあぶり出すことだったと思います。またポケベルという通信手段がなくなったことでヒズボラ戦闘員のコミュニケーションが断ち切れた点も大きいでしょう。爆薬がなくてもマルウェアで電池を爆発させることができるなら携帯電話(スマホ)はもっと大きな爆発を引き起こすわけでヒズボラ側もそれゆえに前近代的なポケベルを持たせていたとされます。
戦争の手段は我々が狭義の意味で使う肉弾戦、つまり地上戦を含む激しい「人対人」の戦いから高度、かつあらゆる手段を使ったものに変わってきています。戦略物資の輸出制限、イラン、ロシア、中国、北朝鮮など特定国への強力な貿易制限、入国制限や外国人の不動産購入制限、さらにはテロもあります。トランプ氏は短い間に2度も暗殺されかかっているし、安倍元首相は暗殺され、岸田首相にも暗殺未遂事件がありました。いかに特定のターゲットを抹消するか、007の映画顔負けの事態が今や日常的に行われているといって過言ではありません。
敵対者を作らなければよい、という発想はあります。しかし、現在進む自民党総裁選の各候補の主張を見ても面白いことが起きています。本来同じ政党仲間のはずがあのような論戦を繰り返し、それぞれの考えと主張をし続けることで候補者双方に敵対関係の意識を醸成します。保守派から中道派までその温度はバラバラ、支持層もバラバラにするのです。これは保守派にしろ中道派にしろ、将来、当選者に対する反発を生むことになり、当然、敵対者が生まれるのです。自民党が分裂の芽を生み出しているのです。
同様にトランプ氏の2度目の暗殺未遂事件は犯人がトランプ氏の対ウクライナ政策案について不満を抱いたからともされています。敵は常に存在するのです。
昨年、アメリカ、ダラスに行った際、ケネディ氏が暗殺された場所に行きました。犯人がどこからどう狙撃したか見ましたが、狙おうと思えばそんな場所は無数にあると言わざるを得ないのです。あの時、オープンカーではなければまだ犯行の可能性は低かったかもしれません。では犯人から見てターゲットが常に絶対防備されているかといえばそんな可能性はほとんどないのです。
私が恐れるのは国家元首級や戦闘相手といった犯人にとって明白なターゲットに限らず、ちょっとしたいざこざ相手を報いる手段が我々の社会にはあふれ、高度な手段も可能になってきている点です。殺人へのハードルが明らかに下がっています。チベット密教の述語である「ポア」とは嫌な奴を抹消せよとの意ですが、人間の理性のブレーキが利かなくなっている点に極めて大きな懸念が生まれています。
では現代において敵はどうしてできるのか、といえば国際関係や人間関係などがこの数十年間で大きく発展し、複雑化したからだと考えています。国際関係はグローバル化と地域や経済を通じた同盟づくりが進みました。日本が加入している各種同盟の集合を合わせていくと結局誰が友達で誰が敵かすら不明瞭になります。敵の敵は仲間ではなく敵かもしれない時代になったのです。人間関係もSNSでつながり、お互いの影響力がぶつかり合います。組織の中では常に醜い人事などの争いごとが起きています。憎しみが絶えず、その仇の取り方が問題である、ということです。
敵から守る危機管理はあるのか、と言われると正直ないかもしれないです。もしも私が人間社会から完全に離脱し無人島で孤独な人生を送れば人間という敵はいなくなるかもしれません。ですが、自然災害とか、ジャングルに潜む毒蛇や人を襲う動物が敵になるでしょう。
とすれば敵との共存という逆説的な考え方が有効なのかもしれません。人間が高度で知的である限りにおいて対話をし、一定の妥協のもと共存共栄をすることしか有効な手段は思いつかないのであります。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年9月18日の記事より転載させていただきました。