流動性が高くて売れるから流動性が低くなるという投資の矛盾

金融機関は、投資において、流動性を高く維持する、即ち、取引費用を小さくしようとする。それは、投資対象の売買によって、リスク管理を行っているからである。リスク管理によって、投資対象の諸属性について基準値を設けているので、例えば、信用格付の引下げなど、環境に応じて諸属性が変化するとき、基準値への抵触が生じて、その都度、保有資産の売買が生じるために、流動性を高く維持しておく必要があるのだ。

everythingpossible/iStock

また、別の理由からも、金融機関にとって、流動性は重要なのである。資本規制を受ける銀行等の金融機関にとって、投資対象の価格の下落によって発生する評価損は、資本の控除項目になるが、資本が減少すれば、規制上、保有できる資産のリスク総量も減少し、一部の資産の売却が必要になるからである。つまり、資産価格の下落により、強制的な資産売却が誘発され得るので、保有する資産には、高い流動性が要求されざるを得ないわけである。

この資本制約の構造問題は世界共通だから、全世界の多数の金融機関が一斉に資産売却をすることになりかねず、そのことに起因する市場への大きな影響は、更なる価格の下落を誘発し、それが更なる売却を誘発するという連鎖を招き得るわけで、これが危機、あるいはプロシクリカリティと呼ばれる現象なのである。

シクリカリティは、下がれば上がる、上がれば下がるという価格変化の交替的循環だが、プロシクリカリティは、下がれば下がる、上がれば上がるという価格変化の一方向への累積である。シクリカリティのもとでは、一般に、取引費用は小さい、即ち、流動性は高いのだが、プロシクリカリティが起これば、取引費用は激増する、即ち、流動性は極端に小さくなる。

つまり、金融機関の投資は、流動性を高くしようとすることで、極端に流動性を低くするのである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
twitter:nmorimoto_HC
facebook:森本 紀行