現代「ダビデとゴリアテの戦い」の教訓:圧倒的な攻撃力を誇るイスラエル

少年ダビデが巨人ゴリアテとの戦いに勝利した話は旧約聖書「サムエル記上」第17章の中で記述されている。天使との戦いに勝利したヤコブは神から「イスラエル」という呼称を与えられた。そのイスラエル国民は多くの偉人、指導者の中でもダビデを最も愛している。だから、6角の星を表す「ダビデの星」はユダヤ民族を象徴する印となっているわけだ。

イスラエルのネタニヤフ首相 同首相インスタグラムより

ところで、羊飼いの少年ダビデがペリシテ人の巨人ゴリアテに勝利できたのは、ダビデがゴリアテの急所を知ってそれを目掛けて小石を命中させたからではない。ユダヤ民族の神がダビデの背後にあって彼を助けたからだ。神の助けを得たダビデに対し、いかに巨人とはいえゴリアテは勝てなかったのだ。異教徒から迫害されて来たユダヤ民族にとってダビデの話は忘れることが出来ない神の証と受け取られてきた。

ところで、現代のイスラエル軍は中東地域では最高の軍事力を誇り、先端の軍事技術に裏付けされた武器でアラブのイスラム教国を圧倒している。レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラが調達したページャーを同時爆発させたパワーは現代のイスラエルを表示する好例だろう。旺盛な戦闘意欲を有するヒズボラのメンバーですら宿敵イスラエル軍の高度な戦闘力の前に怯えてきているというのだ。

レバノンで17日、ヒズボラのメンバーが所持していたポケベル同時爆発、無線機の爆発で多数の犠牲者が出たばかりだ。ヒズボラはイスラエルへ報復攻撃に出てきたが、それに対抗してイスラエル軍はベイルートのヒズボラの拠点を空爆し、ヒズボラの軍事部門幹部イブラヒム・アキル氏ら多数のヒズボラのメンバーを殺害した。

レバノン保健省は23日、イスラエル軍の空爆でレバノン全土で死者が少なくとも492人、負傷者は1645人となったと発表した。イスラエル軍は24日、ヒズボラの拠点約1600カ所を攻撃したことを明らかにした。

イスラエル軍の空爆によるレバノン側の犠牲者数が余りにも多いことに正直言って驚かされた。ただ、明確にしなければならない点は、イスラエル軍の空爆の前にヒズボラ側はロケット弾150発以上をイスラエルに撃ち込んでいるのだ。

しかし、そのほとんどがイスラエル軍が誇る対空防衛システムに撃ち落とされ、爆発したミサイルは限られている。その結果、被害は少なく済んだという事実だ。ヒズボラの攻撃を回避するためにイスラエル国民はシェルターに避難した。イスラエル軍の軍事目的は避難しているユダヤ人を帰還させるために、ヒズボラの軍事拠点を破壊することにあった。

すなわち、発射したミサイルの数や爆発量はヒズボラとイスラエル空軍の間では大きな差はなかったが、結果は、イスラエル側には数人の死傷者が出ただけで、ヒズボラ側には492人以上の犠牲者がでたわけだ。国連側はレバノン側の犠牲者の数の多さにショックを受け、イスラエル側に自制を要求している。

同じパターンがパレスチナ自治ガザでのイスラム過激派テロ組織「ハマス」とイスラエル軍の戦いでもみられる。ハマスは昨年10月7日、イスラエル領に侵入し、1200人のユダヤ人を殺害し、250人余りの住民を人質にした。それが契機となってガザ紛争が始まった。

イスラエル側はハマスの奇襲テロに報復するためにガザを攻撃。ガザ保健局の情報によると、これまで4万人以上のパレスチナ人が犠牲となっている。ハマス側も可能な限りの武器でイスラエル側を攻撃したが、イスラエル側の被害はパレスチナ側と比較できないほど少ない。

レバノンでもガザ区でも同じことが繰り返されているのだ。イスラエル軍はパレスチナ自治区ではハマスを、レバノンではヒズボラを攻撃し、ハマスとヒズボラもイスラエル軍に負けないほどのミサイルをイスラエル領土に打ち込んだが、被害状況では大きな差が出た。戦闘で圧倒的な攻撃力を誇るイスラエル側はそのパワーゆえに国際社会から批判を受けることになる。

イスラエル軍はガザ攻撃でも事前にパレスチナ住民に避難を呼び掛けたし、レバノンでもヒズボラ拠点への空爆前に住民に避難を呼び掛けていた。一方、ハマスとヒズボラはイスラエル軍の攻撃を避けるために住民を盾に利用してきた。そのため、多くの民間人、女性、子供たちが犠牲となってきた。

以上から一つの教訓が生まれてくる。中東のイスラム教国はイスラエルとの戦闘は可能な限り回避すべきだ。勝利するチャンスが少ないばかり、国民に多大な犠性を強いる結果となるからだ。もちろん、白旗を掲げて屈服せよといっているのではない。イスラエルとの問題では戦闘で解決する選択肢を排除し、外交、対話で解決の道を模索すべきだということだ。

一方、イスラエル側は自身がもはや少年ダビデではなく、筋力隆々の成人ダビデであることを認識し、拳を挙げることを避け、隣国のアラブ諸国との共存の道を模索すべきだということだ。力で問題を解決しようとしたならば、イスラエルは必ず国際社会で孤立する危険性が出てくる。ユダヤ民族は昔は国もなく世界に離散していて他民族から迫害されたが、今は強いから国際社会から嫌われているのだ。戦いは必ず恨みをかうのだ。

中東地域にはアブラハム・イサク・ヤコブの神が導いてきた多数の民族が生きている。イスラエルは中東のイスラム国と共存できない理由はないのだ。戦闘は外交の敗北を意味するといわれている。今こそ民族間の対話(外交)を蘇らせるべきだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年9月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。