育つのか、次世代のビジネスリーダー :旬を過ぎた創業系のリーダーたち

創業者系のビジネスリーダーとして名をはせた孫正義、柳井正、永守重信各氏も最近はかつてほどメディアへの登場がないように感じます。永守氏は今年80歳で創業のニデック(日本電産)の陣頭指揮から今度こそ退却しつつあるようです。私財を投じた京都先端科学大学の理事長として学校運営や教育に力を入れていくと伺っています。

孫正義氏(67歳)も最近は決算発表の席に来なくなり、ステージの上でスポットライトを浴びながら派手やかなアナウンスも控えめになりました。孫氏はまだ若いですが、私が長年、見続けた孫氏の華の時代は過ぎていてAIを含む新しい投資について若干ストラグルしているように感じます。つまり仕組んだ既存のビジネスモデルは十分な規模がありますが、これをあと数段別次元まで引き上げるようなパワーを感じないのです。

柳井正氏(75歳)は若干成功体験に酔いつつあるなという感じがします。柳井氏のビジネスは七転び八起きだったと思います。氏はずいぶん昔に「1勝9敗」という書籍を出しましたが、それでもこの10年以上は目立った失敗はなかったものの目立った成功もなかったと思います。つまり自身が60代前半までに作り上げたビジネスモデルからは改革が進んでいないとも言えます。正に自動運転で規模だけが成長している感じです。

10年前は上記3人が創業系のビジネスリーダーとして様々なビジネス系雑誌やメディアに派手に登場していたのですが、残念ながら旬は過ぎたと思います。

では次のリーダーは誰なのか、これが問題です。名前はいろいろ上がると思います。三木谷浩史氏(楽天、59歳)、新浪剛史氏(サントリー 65歳)などはメディアでもよく取り上げられますが、破壊的能力を持っている現役はそういるものではありません。例えばアパホテルの元谷 外志雄 芙美子夫妻も息子に社長兼CEOのポジションを譲っています。日本製鉄を復活させた剛腕、橋本英二氏は創業系ではありませんが、会長職に収まってしまいましたし、ドンキの創業者、安田隆夫氏(75歳)も一線から退いています。

外から見る景色としては平成時代に大きく業績を伸ばした企業のリーダー達が今、どんどん退出しているタイミングになっているのです。

ではこの次のリーダーは誰なのだろう、と考えると浮かばないのです。もちろん私が知らないか、気がついていないだけかもしれもせん。ただ、日経ビジネスを毎週欠かさず25年以上読み続けていると次世代リーダーが何らかの形でインプットされるものなのですが、最近、その手の記事が少ないのです。どちらかというと敗軍の将の記事の方が目立ってしまっています。

若くしてIPOをするアントレプレナーが多いのは知っています。が、その次が出ない、つまりシリアル アントレプレナー(連続起業家)が育っていないのです。なぜだろう、と考えるとIPOでひと稼ぎして落ち着いてしまうのだろうという気がするのです。「YouはなぜIPOをしたのか」と聞けば表向きはいろいろ言うけれど、本音は大金持ちになりたかった、ではないかと思います。

もちろん事業を大きくしていく、そして次々と新しいことにチャレンジしていこうという野心は当初はあったはずです。ですが、IPOをすると突然に外野がうるさくなるのです。株主とか、銀行が決算の数字に対してあれこれ口を出してきます。株式掲示板あたりにカキコするぐらいならかわいいものですが、会社に「突撃隊」して文句を言う人も当然出てくるのです。

楽天が携帯事業の赤字脱却がなかなか進まず株価が500円を切ったころ、三木谷浩史氏が何かのインタビューの際、「僕は外野の声は聞かない」と述べていました。我が道を爆走する、それだけの太い魂と信念があればよいのですが、なかなかそれだけの玉はいないでしょう。特に50代以下の方々はSNS世代で否が応でも外からの声が聞こえてきてしまうのです。これが萎えさせるのです。

私がまだ雇われ社長だった頃、マリーナの開発で約2億円ほど投資することになりました。現地の資金調達で、東京の親会社の保証などは一切ありません。ところが親会社のメインバンクの本店法人営業部から私に国際電話があり「そんな金にならないビジネスに投資をするのは認めない」というわけです。曰く「マリーナのビジネスなど誰もやったことがないし日本にもほとんどそのようなビジネスモデルがないからお前の投資が花咲く保証など何もない」というわけです。1時間も電話で大げんかし、最終的に「私が全責任をとり失敗したら銀行様の言うとおりにする」という言質と引き換えに渋々承諾を得ました。私は絶対の自信があったので命を懸けてでもやりたかったのです。事実、その開発は完成後、半年で満杯になり、「お宝」になりましたが、ビジネスなんてそれぐらいの迫力でやらなくては勝てないのです。

でも私を含めそんな切った張ったの勝負をするのは昭和生まれの世代までなのかもしれません。若手経営者はスマートで上手な世渡りをする、そういうことに長けているように感じます。

経営者って何だろう、と考えた時、私はビジネスが本当に好きで新しいアイディアに次々挑戦することではないか、と思うのです。給与がいくら、配当金がいくらという金勘定はしないし、ただただチャレンジ精神を維持することだと思います。私も細々とながらも老後を過ごせる程度の貯金はありますので無理なチャレンジは不要です。しかし、血が騒ぐのです。やりたいって。

40代から50代の次のビジネスリーダーが頭角を現すことを期待しています。世界に羽ばたき、誰でも知っている世界的経営者を一人でも多く輩出してもらいたいものです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年10月8日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。