最近、中国のネットで「献忠」という言葉をよく見かけるので、ググってみたら、ヤバイ言葉だった。
2021年ごろから、中国のインターネットでは「献忠学」というワードが無差別殺人を指すインターネット・ミームとして使われるようになった。2021年6月ごろには中国において無差別殺人事件が多発し、その多くが社会に報復することを目的としたものであったことから、上述の屠蜀のエピソードと関連して、これらは「献忠事件」と呼ばれるようになった。 (wikipedia 「張献忠」)
そもそも「献忠」は、明末1630年頃に四川で起きた農民反乱から身を起こして、一時は四川に「王朝」を建てて皇帝を名乗った張献忠なる人物の名前に由来している。この男が四川で無差別の殺戮を繰り返した(「屠蜀」)結果、人口が激減してしまったという(上掲wikipedia、なお、タイトル写真の原典はココ)。
下表はネットで見かけた「献忠」事件をリストアップしたものだ。こうして見ると、最近毎週どこかで事件が起きている。蘇州や深圳で日本人学校生徒を狙って起きた事件もここに含まれているが、数の上からは中国人を狙うものがずっと多い。
広い中国のこと故、「こういう凶悪事件は昔から頻々と起きていて、別に最近増えた訳ではない」のかもしれない。しかし、これら事件に「献忠」というタグが付いてネットで増幅されると、おぞましい流行が加速しそうだ。
気になるのは、コロナで中国社会が大打撃を受けたこと、最近の不動産バブル崩壊で現場仕事を失ったり、景気低迷で会社が倒産したりしたせいで、「人生に絶望し、社会に復讐するために、無差別に被害者を殺傷する」事件が増えているのだ、と中国で言われていることだ。だとすると、この種の凶悪事件は、今後ますます増えるのではないか。経済的困難によって中国社会が傷んでいるのだ。
日本でも「失われた30年」や貧困の増大などで、社会が傷んできている印象はあって、その動きがコロナで加速したように感じる。
しかし、日本はコロナ期間中、企業や個人に各種給付金を配り、破格の「ゼロゼロ融資※」も行った。やり方が拙くて「ワイズ・スペンディング」ではなかったり、金融常識にも反するものだったりしたが、あれをやっていなかったら、日本社会がどれほど荒(すさ)んだかを想像すると、仕方なかった気がする。
※ コロナで打撃を受けた中小企業などを対象に、2020年から行われた無担保、実質無利子の融資
個人や零細企業に対して、日本のような現金給付や救済的融資をいっさい行わなかったのが中国だ。おぞましい「献忠」の流行は、そのツケで加速されている気がする。
編集部より:この記事は現代中国研究家の津上俊哉氏のnote 2024年10月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は津上俊哉氏のnoteをご覧ください。