地方創生、聞こえはいいけれどハードル高し:都市より稼げない明白な事実

石破首相が地方創生を主張していることもありますが、日本の地方をどう活性化させていくかは誰が首相であろうと大きなテーマだと思います。既存の考え方にとらわれない切り口で実現性を含め、考えてみたいと思います。

石破首相 首相官邸HPより

人はなぜ都市に集まるのでしょうか?たぶん、誰でも3つや4つぐらいの理由はすぐに思い浮かぶと思います。つまり都市に人材の吸引力があるのはどう逆立ちしても覆せない事実なのです。1950年代、地方から上京する中学、高校卒の子供たちが集団就職で上野駅に集まって来た話を知っているのはもう一定年齢以上の方だけでしょう。都市部では人出が必要だったのです。だから家業を継ぐ長男を残して、残りの子供たちは都会に稼ぎに行く、そんな構図だったと思います。

ところが子供の数が減り、長男ですら家を継ぎたくない人が増え、長男ですら都会に出る、という流れがその後生まれます。若い人に都会は刺激的でした。そしてそれは今でも変わらないのです。若者は刺激が大好きなのです。

一度都会に出てくればそれなりの理由がない限り出身地には戻れないでしょう。理由は今より稼げないという明白な事実があるからです。出身地に戻っても役場しか働くところがない、だけど給与は今の5割減。どうする?と聞くまでもないのです。

日本のある高校生が私のところに訪ねてきて「『地方創生』について調べているのでアイディアを聞きに来ました」と。その町の名前は知っているけれど行ったこともないし、何ら特徴的な町でもありません。観光地でもなく、町には大学もありません。大学進学者は都市部に行かねばなりません。「あなたは将来どうしたいの?」と聞けば「早稲田か慶応に入りたい」と。東京に行きたいのだと明白な目標を持っていました。つまり地方創生や地方活性化を調べているけれど実は本人もそこからはいなくなろうとしているのです。

私流に考える地方創生の活力の源は企業誘致、観光地化、若者がそこに残りたくなるような仕組みのどれかがないと持続性は保てないとみています。一方で地方に企業誘致をするのはたやすいことではありません。企業からすれば地方に行かねばならない理由が必要なのです。例えばTSMCが熊本を選んだのは電力と水資源、新幹線、そして熊本という地方都市ながら一定規模の街へのアクセスなのです。北海道のラピダスもほぼ同じ理由。新幹線の代わりに空港があります。つまり日本のどこでも地方創生ができる条件を持っているわけではありません。

兵庫県養父市。国家戦略特区になったのが2014年。つまりちょうど10年です。私は昨年、養父市に行ったのですが、山間の町でした。特区指定10年が経って目立った変化があったのか、情報は拝見しましたが研究者ベースでは一定成果を認識しているようですが、目立った形ではまだ具現化できていないように感じます。人口減は止まらず、10年で10-15%減のペースが今後も予想されています。では特区として今後何が期待できるのかここはまだわかりにくいと思います。

カナダの地方と比べると農業が企業化されているか小規模自営農家のままかの違いは大きいのだと思います。企業化されていると業務がシステマティックに流れるし、自営に比べてムラが少なくなります。また収入増が期待でき、町に落ちるお金が生まれます。カナダの地方の町の人口は少ないけれどいわゆる成功者が散見できるのもまた特徴なのです。日本で自営農家の場合、JAにすべてを頼らねばなりませんが、企業化することで直接的な取引を含めた農業ビジネスの構造改革ができるのではないでしょうか?本来であればこれを養父市はもっと推し進めるべきかと思います。「小作農が土地を手放さないだろう」という点は農地をリースにすればどうでしょうか?20年とか50年といった長期リースにより企業側も地主側もメリットある形にすれば機能すると思います。

観光地化も優れた地方創生のアイディアだと思いますが、何もナッシングの田舎でどうしろ、と問われれば面白いことを作り出せばいいじゃないか、と思うのです。先述の高校生に「海がある、魚がおいしい、ならば民宿でBBQをやらせればどうだろう?」と提案しました。典型的な1泊2食付きの民宿ではなく、自分で釣り船で釣りに行き、釣った魚をBBQで自分たちで焼いて食べる、あるいは肉を焼いてもいい、つまり楽しいことはクリエイティブにすればよいだけのこと、と申し上げました。別にその町出身の歴史上の人物がいなくても、観光地がなくても面白おかしく過ごせる仕組みを作ればよいだけの話です。そうすれば民宿経営も楽になるでしょう。

私の思う地方創生とは起業化と同じで全然違う切り口からアイディアを創造すべきではないかと考えます。つまり地方創生ではなく、地方創造だと思います。これは役人だけではなかなかできません。広くアイディアをつのり最も現実的なものから手を付けていくべきでしょう。時間は止まらないのです。立ち止まって考えてばかりいては何も起きないと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年10月18日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。