当方は「世界年金制度ランキング」(Global Pension Index)という指数ランキングがあることを知らなかった。スイス・インフォから17日、ニュースレターが届いたが、その中に「世界年金制度ランキング」(2024年度)が言及されていた。健康医療の向上もあって、人は長生きするようになった一方、先進諸国では合計特殊出生率は久しく2以下で子供一人の家族が多数を占めてきた。それゆえに、現代人は退職後の長い隠居生活を支える年金制度に関心が高い。
多くの日本人は退職後、政府から供与される年金が少ないので生活苦に陥るケースが少なくない。持ち家ではなく借家の場合、夫婦2人の年金では生活もままならない。医療負担も年々増える。健康で悠々自適な老後生活をエンジョイするという年金者の夢を実現できる日本人は多くはいないという。年金制度への政府予算が増大する一方、若い世代の数が減少する中で、年期制度自体が揺れ出してきている。
退職後の経済的保障の提供は、個人にとっても社会にとっても極めて重要となっている。というのも、ほとんどの国が現在、高齢化社会による社会的、経済的、そして財政的な影響に直面しているからだ。世界経済フォーラムが指摘しているように、「人類の歴史上初めて、65歳以上の人口が5歳以下の子供の数を上回った」というのだ。
コンサルタント会社マーサー(Mercer)CFA協会は48カ国の年金制度への評価からランキングを公表している。48カ国の年金制度を「十分性(いくら受け取れるか)」、「持続性(将来も機能する制度化か)」、「健全性(信頼できる制度か)」の3つのサブ指数を用いて、それぞれの退職所得システムを50以上の指標に基づいて評価する。
なお、各システムの総合指数値は、充実度サブ指数が40%、持続可能性サブ指数は35%、健全性サブ指数は25%というふうに評価の重みで異なる。評価では充実度サブ指数が最重要視される。持続サブ指数は将来に焦点を当てており、既存のシステムが今後数十年間にわたって給付を提供できる可能性に影響を与えるさまざまな指標が含まれる。健全性サブ指数は、各国の市民が自国の年金システムに対して抱く信頼感に影響を与える多くの法的要件を含んでおり、システム全体のガバナンスと運営に関係する。
2024年度のランキングから見ると、オランダが昨年に続いて世界一の年金制度を有していると評価されている。2位はアイスランド、3位デンマーク、4位はイスラエルと続く。3項目の総評価をAからDまでランキングしているが、Aランキングは先の上位4か国だけだ。日本は36位でCランキング、米国29位で最下位はインドでDランキングだ。アジアで最も高い評価を受けた国はシンガポールだ。欧州で少子化が進み、出生率が低下しているイタリアは年金制度の「持続性」(Sustainability)のスコアが低い、といった具合だ(「犬の数が人より多い社会に生きる」2016年2月24日参考)。
2024年にベトナムが加わったことで、この調査は世界人口の65%を占める48の退職所得システムを含むようになった。世界のシステムには大きな多様性があり、指数のスコアはインドの44.0からオランダの84.8まで幅がある。
マーサー社は「退職者は、インフレの再発や高金利に伴うリスクの増大にも直面している。既存の政府債務のコストが上昇し、いくつかの政府が現在のサービス水準を維持する能力が低下する可能性がある。OECD(経済協力開発機構)は『現在の財政的および経済的不確実性、ならびに生活費の上昇により、政策立案者、規制当局、監督者が年金制度を改善する改革を先送りにする可能性がある。しかし、必要な改革を遅らせることは、現在および将来の年金受給者の福祉を危険にさらすことになる』と警告を発している」と強調している。マーサー社は「貯蓄の助言を十分に得られないまま多くの人が退職している」というのだ。
ちなみに、今回12位にランクインしたスイスの年金制度について、スイス・インフォは「わが国の年金制度は依然として、資産運用の幅広い多様化と、それに伴う魅力的な長期リスク・リターン比率を持つオルタナティブ投資の活用をあまり重視していない」と指摘し、「世界中の年金制度は一般的に、人口動態とコストの上昇により大きな課題に直面している」と説明している。
<ランキング>Grade Index value Systems
A>80
Netherlands
Iceland
Denmark
Israel
B+75-80
Singapore
Australia
Finland
Norway
B65-75
Chile
Sweden
UK
Switzerland
Uruguay
New Zealand
Belgium
Mexico
Canada
Ireland
France
Germany
Croatia
Portugal
C+60-65
UAE
Kazakhstan
Hong Kong SAR
Spain
Colombia
Saudi Arabia
USA
C50-60
Poland
China
Malaysia
Brazil
Botswana
Italy
Japan
Peru
Vietnam
Taiwan
Austria
Korea(South)
Indonesia
Thailand
D35-50
SouthAfrica
Turkiye
Philippines
Argentina
India
(出所・MercerCFA Institute Global Pension Index 2024)
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年10月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。