2つのタイプの中小企業の社長さん:業種問わず経営できるというMBAの発想

中小企業には2つのタイプの社長がいる、それが私が長年様々な方々と接してきた中で感じていることです。大企業はおおむねタイプは固まっていて、組織に対して上から発信型か下からの提案を吟味して選択するタイプの方が主体です。なぜなら従業員や関連会社、取引先、株主を考えると大企業の社長の自由度は割と狭められ、既存の枠組みから外れることが難しいのです。仮に大きく外れ、業績が伴わなければ株主総会で役員としての信任が取れず、お役御免になりやすくなります。

一方、中小企業で上場していない創業型や創業家の社長さんには2通りあるように感じます。1つ目のパタンは自分の専門を生かして業務改善に邁進するタイプ。基本的に自分の特性、技能を生かして専門性に特化し、磨き上げるタイプ(「専門極み型」と称しましょうか?)なので没頭してその世界で深堀しています。経営チームも熱い熱量で頑張っているケースが多いと思います。

もう1つのパターンは社長さんが投資家的な場合です。資金を投じるも実務はほとんど自分の子飼いの人間に任せる、というケースです。このような社長はとにかくリターン重視で次々と新しいビジネスを立ち上げていきます。国内や世界を飛び回り、人材交流を盛んにして情報を集め、面白い投資話に飛びつく、そしてまた子飼いをそこに投入し、新規事業を展開するというパターンです。

AscentXmedia/iStock

前者の場合、専門性を強みとしている一方、時として事業センスやバランスに欠けることもあり、案外資金繰りで金融機関と苦戦している方もいらっしゃるようです。企業経営は良い製品やサービスを生み出すだけではなく、それを売り、拡販し、次の商品/サービスを開発し続けることが重要です。ところが時として一つの事業アイディアに過信しすぎることでそこから抜け出せなくなり、ドツボにはまるケースも見てきました。

専門極み型の場合、Aという製品からA’とかaといった連関性あるものへの展開は得手ですが、BやCといった全く違うものにはなかなか転嫁できないケースが見受けられます。その場合、日々激変する経営の世界において1年たてばホコリが溜まるような世界においてフレキシビリティが不足し、打ち上げ花火的なビジネス展開になりやすいかもしれません。私が東京に行くたびに商店街を歩くと「おっ、新しい店か?」「おっ、ここ、この前開店したばかりなのにもう店を閉じたのか?」といった激しい変化をよく見かけるのですが、「はやりビジネス」に飛びつく方や「信者ではないかと思うほど特定分野に過信している方」にお手つきをするケースが見られるようです。

では後者の要領よく人を使い、次々と事業を立ち上げる方が優秀なのでしょうか?私はその手の方々とも時折お会いしていますが、今一つ話しが盛り上がらないのは彼らに事業愛がほとんどなく、話の主体が「なんぼ儲かったか?」であり「どうやって節税し」「自分がどれだけ面白いことをして」「飛行機やホテルのポイントを使ってアップグレードすることをひそかに自慢し」「自分の子供がどんな教育を受けているか」といった事業から生み出されたマネーの成果といかに自分が面白いライフをしているかという御披露話が多かったりします。

そういう方との会話で必ず出てくるのが「えぇ、ひろさん、ご存じないのですかぁ?」的な会話です。それは一種の会話のテクニックで知らないことに対して一旦、辱めておき、さもありなんという話を聞かせるのです。聞く方は「へぇー」ですよね。まぁだいたいこの手のトークは話半分で聞いておけばよろしいと思います。

私の想像ですが、後者の積極投資型の社長スタイルがポピュラーになったのは2000年代初頭にあったMBAブームが一つの背景ではないかと思います。当時20代後半、つまり今なら50代前半ぐらいの方です。MBAを一概に括るつもりはないのですが、MBAでは経営学的に突き詰めればどんな業種でも経営できるという学問的発想があり、MBAを取得したような方は万能型になりやすいと感じています。また事業を数字で判断する教育を受けているので数字が主体であり、それを読み込み、割り切ります。その結果、継続できるもの、できないものを仕分けし、ドライな経営が主体になるようです。

では2つのタイプの社長さんのどちらが良いか、と聞かれれば私はどちらも一長一短で足して2で割るぐらいのバランス感覚が必要ではないかと考えます。社長が専門極み型になると時として従業員がついていけない問題が生じます。社長はその分野に自信があるので下からの意見を聞かなくなるのです。するとワンマン型になりやすくなり、社長が全て判断することになります。これが深化すると社長は営業、技術改革、人事、財務、経理…といった必ずついて回る業務に時間配分で苦戦します。「アッと思ったら口座にお金がなかった」ということも起きるわけです。急いで銀行に駆け込んだ、というドラマのような話も事実ありました。また、組織が育ちにくく、経営環境の変化対応も鈍いものになります。

お前はいろいろやっているようだが、どうなのか、と言われると基本的に任せる方向にあります。私は実務型でむしろ事業がいろいろありボリュームが多すぎるので基本部分は私の片腕とシェアし、半分ずつ実務をこなしながらも少しずつ、自動化や簡素化をして実務のウエイトを落としながら次のことを展開する、そのような感じです。

なにが一番大変か、といわれると経理作業でしょうかね?私の担当分だけで一社あたり年間で伝票数が1000-1500行の会社が3つあります。私の片腕が担当している入力も500-1500行が3つあります。この作業は確かに時間がかかります。ただ、ポジティブシンキングで、自分でマシンガンのように会計データを会計ソフトに入力しているからこそ数字は完全掌握できる強みが私の会社の特徴かもしれません。

まぁ私のような仕事の仕方をすると会社は大きくはなりません。もともと選んだ道が「規模より質」でしたし、私もいい歳になって来たので事業展開は思惑通りですが、これから起業する方、あるいは今、事業をされている方は自分自身の特性や性格と会社経営の方向性だけはしっかり確認した方がよいと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年10月23日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。