北朝鮮が参戦国となる時:ゼレンスキー大統領は「世界大戦への一歩」と警告

「ウクライナとロシア間の戦争の行方は北朝鮮が握っている」・・ウクライナのクレバ外相(当時)はユーモアと少しの皮肉を込めて発言したつもりだろうが、それは暴言でも失言でもなく現実となってきた(「ウクライナ戦争の行方を握る北朝鮮」2024年1月26日参考)。

オースティン米国防長官(右)と会見するゼレンスキー大統領。米国は総額4億ドルの新たな防衛援助パッケージをウクライナに割り当てると発表(2024年10月21日、キーウで、ウクライナ大統領府公式サイト)

北朝鮮がロシアのウクライナ侵攻を支援するために自国兵士を派遣していることを受け、欧米諸国では警戒心を強めている。韓国情報機関筋によると、これまで約3000人の北朝鮮兵士がロシア入りし、ロシア側からロシア兵士の制服、身分証明書、軍事器材を提供されているという。その後、一定の軍事訓練を受けた後、戦場に派遣されると見られている。北側は年内にも1万人以上の兵士をロシア側に派遣する予定という。

韓国情報機関筋によると、派遣された第一陣の北朝鮮兵士はウクライナ軍が8月6日以来、ロシア領土に越境して占領しているクルスク州に送られ、苦戦するロシア軍を援助するのではないかという(ウクライナ軍事情報機関)。

北朝鮮が自国兵士をロシア側に派遣するのは、今年6月19日、両国間で締結された軍事協定「包括的戦略パートナーシップ条約」に基づくもので、第3条、4条には「いずれかの締約国が一国または複数の国から武力侵攻を受け、戦争状態に置かれた場合、他方の締約国は、国際連合憲章第51条および朝鮮民主主義人民共和国およびロシア連邦の法律に従い、遅滞なくあらゆる手段で軍事的およびその他の支援を提供する」と明記されている。ただし、ロシアはウクライナに侵攻したのであり、攻撃を受けたのではないから、厳密には、北朝鮮側の兵士派遣は軍事協定外の行動だ。

韓国聯合ニュースによると、北朝鮮兵士一人当たり2000ドルの代価がロシア側から支払われるという。すなわち、金正恩朝鮮労働党総書記は自国の若い兵士を戦場に送ることでロシア側から経済的支援などを得ているのだ。北朝鮮の海外労働者と同じ仕組みだ。

北朝鮮軍のロシア派兵がウクライナ情勢にとってゲームチェンジャーとはならないものの、ウクライナばかりか、欧州全土にも少なからず影響を与えることは必至だ。北朝鮮がウクライナ戦争に参戦したのだ。ドイツ外務省は23日、北朝鮮がロシアに兵士を派遣し、ウクライナでの戦闘に参加しているという報道を受け、ベルリンの北朝鮮代理大使を召喚した。同外務省はXで「もし北朝鮮がウクライナでのロシアの侵略戦争を軍隊で支援するなら、それは重大な事態であり、国際法違反である」と声明を出した。また、北朝鮮のロシア支援は「ドイツの安全保障と欧州の平和秩序をも直接的に脅かす」とも述べている。オーストリア外務省も同日、ウィ―ンの北朝鮮の崔康一大使(外務省前北米局副局長=Choe kang il)を召喚し、北朝鮮の派兵に対して懸念を伝えている。

ちなみに、ドイツは年内にも平壌の同国大使館を再開する計画だ。ドイツは2020年3月、北側が新型コロナウイルスの感染防止のために国境を閉鎖したことを受け、平壌の大使館を閉鎖し、中国の北京に移動した。しかし、今年2月、ドイツは10人から構成された使節団を平壌に派遣して大使館再開に向け準備している。北朝鮮がロシアに兵士を派遣したことを受け、ドイツ側の大使館再開が遅れる可能性がある。スウェーデンや英国など他の欧州諸国も平壌での外交活動を再開する準備を進めている一方、ロシア、中国、モンゴル、ベトナムは平壌の自国大使館を再開済みだ(「ドイツ、今秋にも平壌の大使館再開か」2024年3月15日)。

ウクライナのゼレンスキー大統領は北朝鮮軍の介入を「世界大戦への一歩」と警告を発し、ロシア側との停戦の見通しが更に遠ざかったと受け止めている。北朝鮮とウクライナは現在、敵対的な外交関係にあるが、その主な原因は、戦争における北朝鮮のロシア支援にあることはいうまでもない。この関係は2022年に北朝鮮がウクライナ東部のドネツク州とルハンシク州の分離地域の独立を正式に承認したことで大幅に悪化した。

なお、北朝鮮が軍事協定に基づいて自国兵士をロシアに派遣したことにより、朝鮮半島で韓国と軍事衝突が生じれば、ロシア軍が北朝鮮を支援するというシナリオが生まれてくる。いずれにしても、ロシアへの派兵は、北朝鮮がウクライナ戦争で参戦国となったことを意味する。もはや単なる武器支援国ではない。金正恩総書記には戦争の責任が出てくる。無傷では済まされない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年10月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。