ドイツ、今秋にも平壌の大使館再開か

北朝鮮の最高指導者金正恩総書記は今年1月15日に開催された最高人民会議での施政演説の中で、憲法を改正して韓国を「第一の敵対国」とすると表明し、武力による朝鮮半島統合に向けて檄を飛ばした。同時に、ロシアの要望に応えて武器を供与する一方、ロシアからは軍事衛星関連のノウハウや近代兵器の情報を入手するなど、ロシアとの関係を急速に緊密化してきた。

ロシアとの関係強化に乗り出す北朝鮮の

米国の核科学者ジークフリード・ヘッカー氏ら北朝鮮専門家は1月11日、北朝鮮分析サイト「38ノース」の中で、「朝鮮半島は1950年の朝鮮動乱後、最も危険な状況だ」と指摘し、金正恩総書記は核兵器の開発を促進し、軍事強化に乗り出すなど、「戦争する用意がある」と警告を発したばかりだ。

そのような中、コロナ感染後、平壌の大使館を閉鎖してきたドイツは先月25日、10人から成る使節団を平壌に派遣したことが明らかになった。使節団には外交官、通訳、医者、北朝鮮滞在経験者などが含まれている。独週刊誌シュピーゲル最新号(2024年03月9日号)は「ドイツ外務省は朝鮮半島の状況が緊迫してきたのを受け、現地からの情報を得るために大使館を再開する方向で検討に入っている」という。

ドイツは2020年3月、北側が新型コロナウイルスの感染防止のために国境を閉鎖したことを受け、平壌の大使館を閉鎖し、中国の北京に移動した。平壌に駐在する外国大使館はほぼ全て閉鎖された。すなわち、北朝鮮では過去4年間、西側外交官ばかりか、国連関係者、非政府機関(NGO)関係者は誰も駐在していない状況が続いてきた。しかし、北朝鮮が約3年7カ月ぶりに国境を再開放したことを受け、大使館を再開する国が出てきた。シュピーゲル誌によると、これまでロシア、中国、モンゴル、ベトナムが平壌の自国大使館を再開している。

シュピーゲル誌によると、ドイツ使節団は北京から列車で中朝国境線に向かい、国境からは北側が用意していた2台のバスで平壌に向かった。同使節団は北滞在中に北朝鮮外務省高官などと会談し、大使館の再開問題について協議したもようだ。4年間閉鎖されていたドイツ大使館には変化はなく、平壌を離れる前のような状況だったという。大使館の再開問題では「即、再開というわけではなく、この秋頃を目安に再開を目指している」という。

ドイツの大使館再開の動きについて中国側も歓迎している。シュピーゲル誌によると、北朝鮮がここにきてロシアとの関係を急速に強化していることに北京側は少々懸念している。西側情報筋によると、北側は約7000のコンテナでミサイル、砲弾など武器をモスクワに送っている。中国側は、ドイツが北朝鮮に大使館業務を再開することで北側のロシア傾斜にストップがかかるのではないかと期待しているという。

北朝鮮外務省は昨年末から在外公館の見直しを推進し、ウガンダ、アンゴラ、スペイン、在香港の総領事館、バングラデシュ、コンゴ民主共和国、ウガンダ、ネパールなどの大使館を次々と閉鎖した。これについて「外交的力量の効率的な再配置」と主張しているが、韓国側は、「国際社会による制裁の強化で外貨稼ぎが困難になり、公館の維持が難しくなっているため」との見方をしている。

韓国情報筋によると、北側が武器をロシアに供与する代わりに、先述したように軍事関連ノウハウをモスクワから得ると共に、食糧などを大量に援助されているという。北側が韓国を含む国際社会に対し、強硬姿勢を取れる背後には、中国からだけではなく、ロシアから大量の食糧援助などの物質的支援が大きいことがある。

ちなみに、北朝鮮の最大の外交課題は、米国との関係改善、対北制裁の解除だった。その意味で、金正恩氏は2019年、トランプ前大統領と首脳会談を通じて米朝関係の改善を図ったが、その外交は成果なく終わった。金正恩氏にとって米朝交渉の失敗は大きな痛手となって残っているといわれる。金正恩総書記はその後、核戦力の強化に乗り出す一方、中国、ロシアとの関係拡大に腐心している。ハノイの米朝首脳会談の暗礁後、北は非核化交渉を放棄し、核保有国のステイタス獲得を目指してきた。北側の国家戦略が大展開したわけだ。

なお、ドイツが朝鮮半島の状況には強い関心を持っているのは、ドイツが東西両ドイツの分断国家であったこと、そして1990年に再統合を実現したという歴史的な経験が韓国と北朝鮮の南北分断国家の再統合に何らかの貢献ができるのではないか、という思いがあるからだという。金正恩総書記が韓国を「第一の敵対国」と位置付けた現在、ドイツは強い危機感を持っている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年3月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。