大混乱の選挙結果が出た日に、xスペース(ラジオみたいに配信しつつ色んなアカウントに発言してもらえる場)で、小選挙区・比例ともに「自民・自民」の人から「共産・共産」の人まで、色々なタイプの人が何を考えて投票したのかを延々と聞いていくようなイベントをやりました。
その中のお一人が、(その人にとっては)今回の選挙は
「パワハラする側」vs「それを止める側」の戦いに見えていて、そして「自民・維新」だけでなく「共産」も「パワハラする側」の認識なのだ
…と言っていてかなり印象的でした。
今回はその話をします。
ちなみにこのイベントの録音は以下リンク先下部から聞けます。
このリンクをクリックすると、2時間のイベントのうち「聞き所」が何分ぐらいのところにあるのかの目次もあります。そこの部分だけでも面白いと思うのでぜひ聞いてみてください。
特に、著名な半導体ジャーナリストや現役外資コンサルの人が参加してくれて、高齢の自民党支持者とアベノミクスの賛否について議論している部分や、現役政治学者の方が乱入してくれて「ポピュリズムとしての国民民主党」について分析してる部分などがオススメです。
それ以外にも色んな人のナマの声が面白いイベントになったと思うので、お暇な時間に聞いてみていただければと思います。
一緒にファシリテーションしてくれたのは左翼で立民支持者のフリー編集者神保さんなんですが、彼は終わったあと、
「”ちゃんと政治の話ができる場””否定されない安心感を持って自分の考えを話せる場”っていつもそれが必要だってリベラルが言ってるけど、いざリベラルでそういう事をすると”お前は間違ってる!”って怒り合う場になって実現しないような場がちゃんと実現できていて感動した」
…と言ってくれていました。
ちなみに、今回選挙関連記事としては、一個前の以下記事なども選挙前に書いたものですが大きく評判を呼んでますのであわせてどうぞ。
1. 「共産」もパワハライメージで捉えられる時代
その発言者は、30代男性で非常に”毒親”育ちであり、体調を崩して働けなくなってしまったために、実際に炊き出しなどのお世話になる事もある境遇の方だったんですが…
その方からは、今回の選挙が
ジャニーズ・宝塚・ビッグモーター…のような「ハラスメントする側」
vs
「それを止める側」
…という風に見えていて、
自民・維新・そして共産も「パワハラする側」であり、立民や野党共闘は「それを止める側」に見えているという話
…をしていてなかなかナルホドと思いました。
今回、「裏金報道」とかで自民党を追い詰めた”功労者”みたいなところが共産党にはあると思いますが、結果として議席を減らす結果になりましたよね。
ひょっとするとこの「オールドタイプ左翼政党」自体も、ある種の「パワハラ体質日本」みたいな存在の同類だと思われてる気分というのはあるのかも、みたいに思うところはありますね。
上記の発言者の方は、富田林市の事例↓などを話していましたが、
SNSを見ていると自民・維新が「パワハラする側」に見えているというのは、(支持者には異論があるでしょうけど)まあわかるとして、そういう時に「共産」もそのイメージに上がるというのはなかなか考えさせられますね。
昔は「権力支配勢力と戦う正義の戦いなのだから、その集団は権力を集中させて結束を守るのが当然」みたいな事を堂々と言って喝采される時代もあったわけですが、だんだんそれが説得力を持ち得ない時代になりつつあるのかもしれません。
こういう発想をイニシエの左翼文明の用語では「民主集中制」と言って、今でも日本共産党はそういう主張をしているんですが、その「釈明文」とか読むとかなり時代を感じて正直キツイなという気持ちになります→試しに読んでみていただければと。
これに限らずなんですが、結構なんというか「古いタイプの左翼運動」に関わった(主に女性)が、そのパワハラ体質とか男性主導体質を告発する、みたいな話が最近増えてるな、という印象はありますよね。
これが実は、かなり今後の日本の政治における「重要な転換点」を生み出すんじゃないか、と思っているという話をしたいんですよね。
2. 女性活躍が徐々に進んで、女性候補であることが「左派の特権」ではなくなりつつある。
今回の選挙で非常に注目されていたのが、”あの”菅直人氏がずっと抑えていた東京都18区(武蔵野・小金井・西東京市)を、福田かおるさんっていう自民党の若い女性候補が取ったところなんですよね。
なんか、普通に東大出てるインテリで元官僚で、海外経験も豊富で、しかも30代の若い女性で、「基本的にはリベラル寄りの感性」があって、かつ自民党から出ているというような例が結構当選するようになってきた。
一昔まえの「ガチ保守派界隈のマドンナ」的な自民党女性議員だったら、オールド左翼の人が
「あの人は女性だけど中身は安倍だから」
…みたいなことをいうのもギリギリ許された(賛同されていたかは別として)ところがある。
あるいは、安倍時代にはよくあった「元アイドルの女の子」を知名度だけで引っ張り出すみたいなのも反感を買ってましたよね。(一方でそういうアイドルに地道な政治活動をさせて結構鍛え上げるシステムが自民党にはあったという話もちょっと聞いたことありますが…今井絵理子さんとか森下千里さんとかは、案外そういう叩き上げの訓練を受けてまあまあ政治家らしくなっているという話を結構左派寄りの人から聞いたことがあります)
ともあれ、その
・女性だけど中身は安倍じゃないか
・元アイドルを知名度だけで引っ張り出してくるな
…っていう定番の批判は、福田かおるさんには全くあてはまらないですよね。
こういう「ニュータイプ自民党女性議員」って実は草の根にかなり増えていて、以下の川口市のクルド人問題の僕の記事がめっちゃバズって、それで川口市議と支持者の集まりに呼ばれたときも、
・若い子育て中のワーママ女性で政治に興味が出てきたので自民党の公募に出て当選した
っていう女性市議(荻野梓さん)が参加されていて、失礼ながら「こういう自民党議員っているんだなあ」みたいな気持ちになりました(笑)
荻野さんは福田さんほど「ガチインテリエリート系」って感じじゃないですが、庶民派で頑張るママさん的な感じで、「いわゆる自民党議員」の古いイメージからはかなり遠い感じの素敵な人でした。
なんかこの、
・普通にリベラル寄りの価値観だが”woke”型左派からは距離を置いている
・外交・経済・移民政策その他は”現実路線”
…みたいなだいたい30代の女性政治家が結構増えてきていて、それが日本では新しい局面を作っていくのではないかな、という印象があります。
諸外国の例を見ていると、「この層がちゃんといる」状態にならない例も結構あるんじゃないかと思っていて。
例えばアメリカなどは日本よりも圧倒的に政治的分極化が激しいので、民主党系女性政治家は「バリバリにwoke型」にならないと支持が集まらない感じになりがちな反面、逆に共和党の女性政治家とかたまに引いちゃうぐらい反動的な発言しまくってて「そんなことまで言って見せないと支持されないのかね?」という気持ちになる人がいたりする。
いや↑僕はアメリカの政治家を隅々知ってるわけじゃないから、多分実際にはそうじゃない人もいるでしょうが、とにかく「非常に演技臭い」感じでどっちかにイデオロギーを寄せた発言をせざるを得ない磁場がアメリカにはあって、それはあまり健全なことではないと思うんですよね。
今回僕が小選挙区で投票したところも、そんな感じの「普通に働いて子育てしてるワーママ30代」の国民民主党女性候補が、「自民党ウラガネ議員」を相当突き放して勝ったんですが、「いわゆるガチ左派だけが女性候補を揃えている」時代ではなくなってきた事の変化というのを感じました。
こういう「ミドル世代の女性で普通に働いている人」が新しい流れを生み出しつつあるというのはすごい感じてるんですよね。
僕は経営コンサル業のかたわら趣味で色んな人と「文通」しながら人生を考える仕事をしてるんですが…(ご興味があればこちらから)
その「文通」のクライアントはだいたい男女同数なんですが、「30代〜40代のミドル世代の女性」で普通に大企業やら官庁で働いている人の目線は、「それより上の世代」で働いている人よりもかなり「具体的に自分の望みがある」ようになってきてるなと思うんですよね。
もちろん、出産前後の制度的問題みたいなのにはちゃんと戦うけど、一方で今の自分が属している組織の課題を考えつつ、そこで自分がどういう価値を提供していけるかについてかなり主体的な参加意識を持っている人が多い。
そういう「新しいミドル世代のちゃんと働いている女性」層が、「オールド左翼型の紋切り型の社会意識」を超える新しい具体的な方向性を出していってくれる流れが徐々に日本に定着しつつあるなと感じています。
そうやって「そろそろ具体的な課題解決しなきゃ」ムードが高まってくる流れの結果、古いタイプの「教条的な党派性」というものが嫌われる大きな流れが生まれているのではないでしょうか。
3. 教条的な左派OUT、ポピュリズム政党IN
結構衝撃的だったのが、「れいわ新選組」の議席が共産党を上回った事なんですよね。
他にも、今まであまり相手にされない感じだった「参政党・日本保守党」が軒並み議席を確保していて(なんせ名古屋なんか河村たかし氏がゼロ打ちで圧倒的な勝利を収めていて)、時代の変化を感じました。
「教条的なイデオロギーがあり、軍隊的な上意下達組織がある」というオールドスタイル左翼勢力がだんだん厳しい状況に追い込まれることで、いわゆる「ポピュリズム」政党が右も左も伸びてきたことになる。
冒頭で紹介した僕の「xスペースイベント」に、政治学者の木下ちがや氏が参加してくれたんですが、「ポピュリズム政党としての国民民主党」という見方について議論していてなかなか興味深かったのでぜひ聞いてみていただければと思います。
木下氏も言ってましたが、今回の選挙は、前回の都知事選の影響がかなりあるところはありますよね。
蓮舫さんの敗北→「共産党と距離を置く野田路線の立憲になる」→中道票が入りやすくなって躍進
石丸氏の躍進→既存政党はバカにしていたが、玉木さんは必死にその手法を学んで取り入れて実現した
「石丸旋風」はその前に「参政党の躍進」があってそれを取り入れた面があるんですが…
「参政党→石丸旋風→玉木国民民主党」とバトンが受け継がれるうちに、「ポピュリズム政党」ではありながら「現実的な政治の着地点を構想できる能力もある」みたいな状況になってきているのを感じます。
選挙なんだから、「フカシ発言」みたいなのはやっぱりどうしても必要なところはあるわけですよね。
「悪夢の民主党」って言わなきゃいけない時もあるし、「すべての政策課題そっちのけで裏金!って言い続けることが必要」なときもあるだろうし、玉木国民民主党の発言もまあ、あまりお行儀が良いとは言えない部分もあったりした。
一方でそうやって「ポピュリズム的なエネルギーを吸い込みつつそれを形にする」時に、それが「参政党」なのか「国民民主党」なのか、という意味では、後者の方が票が伸びてるということは結構日本社会にとって喜ばしいことなのではないか、という気持ちはありますね。
インテリ目線で「玉木発言のここが許せん」と言ってる人結構いるんですが、ある程度フェアに見ると、
「社会にあふれるポピュリズムエネルギーを吸い込んで28議席取っちゃう政党」が、れいわや参政党や日本保守党でなく国民民主党でほんとうに良かった
・・・という感想を持つべき部分はあるのかもと思います。
4. ”新しい中道路線”の揺るぎない共有が見えてきているというポジティブな見方をしたい
選挙前から言ってることですが、
・自公過半数割れ
・結果として維新・国民の重要性が急激に高まる
・立民は共産党と距離を置く保守寄り野田代表で党勢を伸ばす
・最左翼・最右翼層は少数政党として分離
…という状況は、ものすごく「不安定な政治」になる可能性ももちろんあるけど、一方で巨視的に巨視的に見ると、
「揺るぎない中道路線へ向かう国民の意志」
…が示されているという見方もできるはずですよね。
こういう状況にいずれなるということを、私は10年ぐらい前に出した本で予言していて、以下はその本でも最近の本でも使った図なんですが…
以下の図は右に行くほど「保守派寄りに過激」、左に行くほど「改革派」的に過激、縦軸が「そのポイントのコンセンサスの共有しやすさ」を表しているんですが、民主主義社会というのは普通にやってると以下の「M字」の図みたいになっちゃうんですね。
つまり「改革寄りで夢があるけど現実性が薄い」部分と、「惰性の延長で現実的ではあるが夢も発展性もない」という部分に「コンセンサスの取りやすさ」が集中してしまい、その真中の「両者の意見を取り入れて一歩ずつ変えていく」ような部分が「合意形成のデスバレー(死の谷)」みたいになっちゃうんですね。
ただし、これをやり続けていると、日本においては今後必ず以下のようになるのだ・・・という予言を私は10年前からしていて。
「改革派」「保守派」ともに、最も過激な部分は分離して「シグナルとしての異端者」と呼ばれる部分にはじき出される一方で、真ん中には「新しい中道的共有軸」が20世紀的な党派性とは全然違うところで成立するようになっていく。
「いずれそうなっていくからそれまで頑張って未来を信じて生きていよう」みたいなことを私は延々言い続けてきたんですが、今回選挙の「これどないせえっちゅうねん」みたいな議席数の分配は、「まさにこういう状況」を目指している国民の意志が示されたと言って良いのではないでしょうか?
そういう「大きな変化」の背後には、保守勢力側にも「まあまあリベラルな30代女性議員」みたいな候補が増えたことで、「女性議員がいることが左派の特権」ではなくなり、
若い女性議員の後ろに隠れて決して誰にも掣肘されない特権的立場から自分のエゴを放出するだけだったオールド左翼高齢男性
↑こういう存在が時代の流れに取り残されて消えていく流れが進行中であり、その先で
「中道に集まって、党派的罵りあいではなく具体的な制度改革の積み重ねが必要だ」
…という流れが成立しつつあると見ていいのではないかと思っています。
そうすることで、「あまりにwokeな派閥vsあまりに反動的な派閥」の分極化で社会が引き裂かれてしまいがちな欧米とは違う、「当然にリベラルな風潮を取り入れながらも国としての現実的一貫性を保ち続ける」という方向性を揺るぎなく共有していける情勢になれば、日本の未来は明るいと思います。
「選挙結果」を見て「これどないせえっちゅうねん」という不安を持たれた方は、そういう視点で未来を見ていただければと思っています。
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長い記事をここまで読んでいただいてありがとうございました。
ここ以後は、例のxスペースイベントで
自民党嫌いでずっと立民に入れていたが、立民の候補が「表現規制問題」で規制賛成派だとわかって急激に冷めちゃって、別の党に入れた
…っていう人が二人も連続でいて、それほどまでに投票行動を左右するようなテーマなんだ!?って結構意外に思ったってことがあったんですよね。
ちょっとここ以後はその話について、この「表現規制問題」が想像以上に重要な政治イシューになる「本能的な理由」みたいな部分の話とか、そもそもよく批判される「美少女イラストのゲーム広告」みたいなのの本場はむしろ中国韓国に移りつつあり、日本のオタクコミュニティの想像力はまた別の流行に向かうことで、この問題が根底的に解決されていくのではないか?という話をします。
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つづきはnoteにて(倉本圭造のひとりごとマガジン)。
編集部より:この記事は経営コンサルタント・経済思想家の倉本圭造氏のnote 2024年10月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は倉本圭造氏のnoteをご覧ください。