YouTube時代にリアルセミナーへ行く価値

黒坂岳央です。

先日、東京ビッグサイトを含む全国開催の大規模イベントに招待されたので参加した。内容は営業やEC事業、AIを含む先端テクノロジーを活用したビジネスについてである。同イベント内では数多くのブースが出展し、多種多様なセミナーも行われた。遠出をしたので宿泊を伴う出張となったが、それだけの価値は大いにあった。

ビジネスについてのメリットは言うまでもないが、それに加えてリアルセミナーの価値を再認識できた。筆者もセミナーを開く側で参加者側に立ったことで大きな気付きを得る事ができたのだ。

YouTube時代にリアルセミナーへ参加する価値はどこにあるのか?

visualspace/iStock

意識的コミットメント

まず、YouTubeとリアルセミナーとでは意識的コミットメントの大きさがケタ違いである。リアルセミナーの場合はわざわざ遠方から移動費、宿泊費をかけて出かけているので「何としても価値を得なければ!とても空手では帰れない」という感覚になる。

複数のセミナーに参加したが、どのセミナーでも持参したMacbookで必死にメモを取り、質疑応答タイムで積極的に質問をし、終了後は講師に具体的アドバイスを受けた。セミナーの内容についても、YouTubeで視聴していたら聞き流していたような話も、根こそぎ拾う気持ちで取り組めた。

リアルセミナーではYouTube視聴時には起きない、圧倒的な意識的コミットメントが起きる。

専門外の内容を学べる

YouTube動画はおすすめ機能などが充実しており、視聴者のニーズをアルゴリズムがよく把握している。そのため、自分が強い興味関心のある動画ばかりが表示される。これ自体は悪いことではないが、ともすると自分の見えている世界が世の中そのものであるかのような錯覚に陥りがちだ。悪く言えば「専門バカ」になってしまうリスクがある。

今回参加したイベントのセミナーではあえて、筆者の知識があまりないビジネス分野ばかりを選んだがこれが良かった。たとえば最先端のAIテクノロジーを活用した対面型営業やコールセンター事業について、全くといっていいほど知識がなかった。それ故に非常に学びが多く満足度が高かった。

正直、そのテーマで検索すればYouTube動画でも出てきそうだが、自宅からは「対面型営業のビジネスプロセスについて検索しよう」とはならない。頭の中にないので検索しようという発想にならない上、仮にYouTubeのアルゴリズムに提案されてもクリックしないからだ。

しかし、リアルセミナーにわざわざ来ているからこそ、「せっかくなので時間、目いっぱい学んで帰ろう。自分の知識がない分野を学ぼう」という発想になったのである。

セミナー講師の技を盗める

これは筆者のように自分がセミナーを開催する側、呼ばれて登壇する側に立つ人間に限られる話だが、講師の技を盗む事ができるのだ。

セミナーをする側は基本的に他人のセミナーに参加することは少ない。その時間があれば、自分が開催した方がビジネスメリットが大きいからだ。しかし、あえてインプットのために参加者側になることで、そこから学べる点は非常に大きい。

今回、セミナー中に突然機材が不具合を起こし、スライドが表示されなくなってしまうトラブルが起きた。講師はよくあることのように慌てず、上手に話し続けて無事にセミナーを終えた。その対処法は自分の頭にない発想だったので万が一の時はこの技は使えるとメモをした(トラブルを起こさない事前対策が重要なのは言うまでもないが)。

また、セミナー開始直後は参加者が緊張しており、空気も硬いことが多い。よくあるセミナーではアイスブレークに自己紹介をする事が多いが、それも型どおりにしてしまうとますますフォーマル感が出て会場の空気が硬くなる。

一方、今回参加したセミナーでは、序盤の時間で積極的に講師と参加者とで簡単な質問を投げかけることでコミュニケーションを取り、笑いを取って一気に場の雰囲気をあたためていた。これも自分が考えたことがなかったし、参加者側の視点で会場の空気感をどのように感じるのかを実感できたのは大きかった。こうした小さな技術をベテランから盗むことができる価値は非常に高いのだ。

YouTube動画を使えば、いくらでも自宅でスキルを学ぶことができる。しかし、だからといってリアルセミナーの価値がなくなったわけではない。一方的に話を聞いて終わり、ではなく実際に実体験するワークショップイベントにしたり、講師と直接会話できる価値は依然として高い。

いや、むしろみんながYouTube動画だけで完結させている今、あえて労力をかけてリアルセミナーを開催する価値は以前より高まったとすら感じる。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。