フォルクスワーゲンの行く末:時代の変化にアジャストできない大企業病

ドイツのクルマのイメージはアウトバーンで鍛えた堅固さ、長時間乗っていても疲れない、安全さなど日本が車づくりをするにおいて長年、お手本としてきました。そんなドイツの自動車産業ですが、ドイツメーカーは大きく3つの陣営があります。メルセデス、BMW、そしてフォルクスワーゲングループ(VW)です。グループと名をつけたのはVW本体が大衆車を主たるマーケットにしているのに対し、同じグループ会社にはポルシェ、アウディなどドイツ系企業のみならず、ベントレー、ランボルギーニや商用車から大衆車まで幅広いブランドを抱えているからです。

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VWの影響力はドイツ国内だけで10工場12万人、世界規模だと68万人が雇用されており極めて社会的存在感がある企業であります。かつて中国ではVWのサンタナがずっと販売されていたのを覚えている方もいらっしゃるでしょう。サンタナは日本では1984年に日産の座間工場で組み立て販売されており、一時かなり話題になりました。そのノックダウン生産もとうの昔に終わったのちも中国ではずっと生産し続け、いつの間にか中国仕様のサンタナが生まれ、VWと中国の蜜月の関係の始まりだったとも言えます。

同社が中国市場をずっと大事にしてきたのはベンツやBMWのような中国の近代化と一部の富裕層からの需要で販売を伸ばした企業と違い、ずっと中国に根付いたビジネスをしてきたことが大きかったのです。スズキとインド市場の様な関係でしょうか?ところがその中国市場でVW車が売れなくなった、これが同社にとってのつまづきの一つ目だったと思います。中国市場におけるEV化は政府の圧倒的後押しと内燃機関のクルマは抽選で当たらないとナンバープレートをもらえない北京市の政策などもありEVが異様なスピードで展開されます。

ところがVWはEV化は正直上手ではなかったと思います。VWは排ガス不正問題を引き起こしたした際、本来であれば先頭に立ってEVを開発すべきでした。ところがそれが出来なかったのは社内に硬直性があり、時代の変化についていけない事態に陥っていたのです。その為、中国で売れるEVを出すこともできませんでした。

もう1つは中国のEVの進化ぶりが独特であったこともドイツ企業を悩ませたと思います。我々にとって車とは移動手段でありますが、中国の開発コンセプトはもはやエンターテイメントの場と化しています。カラオケ、マッサージ、冷蔵庫、中にはインパネに48インチ横長スクリーンといった感じで車の基本性能とは明らかに違うプラスアルファが好まれており、別次元の大競争時代に入っています。もちろん、このような装備に中国以外のメーカー、ドイツ企業に限らず、日本もアメリカもさすが手が出ないという状況にあります。

VW社にとって非常に大きな市場であった中国は今後、縮小が止まらなくなると言えそうです。では欧州市場に活路は見出せるのか、と言えば欧州全体の自動車市場が1600万台から1400万台に向けて縮小の道を辿っているとされています。とすればVW社がかつて世界トップをトヨタと争った時と同じ規模の販売台数を維持するには新たなる市場を見つけなくては生き残れないのです。

それも車が魅力的であれば同じパイの争いでも優勝劣敗の勝ち組になれます。ところが大衆車市場はそれこそレッドオーシャンであり、会社の販売台数は減り、利益も減る、故に一度も手を付けたことがないドイツ国内の工場閉鎖に追い込まれるという状況にあるのです。

7-9月期の決算を見れば営業利益は前年同期比44%減、手元の現金は88%も減ってしまったのです。それでもドイツで工場を閉鎖するのは容易ではなく、労働組合は経営陣の不始末であり、工場労働者にその責任を押し付けるのはナンセンスだと頑なな態度を示しています。

大企業が大企業故に時代の流れにフレキシビリティをなくしてとん挫するケースは枚挙にいとまがありません。アメリカではインテル、ボーイングが苦境に陥っているのは報じられている通りですが、今後、似たようなケースは続出するとみています。私が真の意味での大企業病を定義するなら時代の変化に機敏なアジャストできないケースです。ついこの前までの繁栄が突然崩壊することはごく普通に起きるのです。

例えば私が大丈夫かな、と昔から思っているのがスターバックスです。コーヒーを通じたコミュニティをつくるというコンセプトはいくらでも生まれるし、フェイスブック同様、スタバ世代から離れていく若者も当然生まれてくるはずです。また同社はオーストラリアやイタリアでは手も足も出ないのは逆に言えばコーヒーを通じた文化の創成はいくらでもできるし、時代と共に変化するとも言えるのです。

VW社が再生できるかは経営者とその従業員次第です。最近はBMWもイマイチで自動車産業の戦略は本当に難しくなったと思います。我々が知る自動車メーカーはほぼ全て崖っぷちに立っていると言ってもよいのではないでしょうか?

フォルクスワーゲンHPより

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年11月6日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。