主席研究員 冨樫 篤史
フラット型組織における最大の問題は、規模拡大が難しいこと
会社の組織形態において、トップダウン(三角形)とフラット(文鎮)は、そのメリット・デメリット、ひいてはどちらが優れているかなどでよく比較されるテーマです。
組織形態とは、集団が外部に、つまり企業が市場に価値提供をするために、最高責任者である経営トップが自由に選択するものです。
しかし、市場への価値最大化という大きなミッションを達成するためには、いわば身内であるこの「組織」の形態は効率的であるべきでしょう。逆に、ここに問題があって本来届けるべき人に自社の商品・サービスが届いていないとしたら、これはその組織形態を選択した経営トップの重大な責任であるとも言えます。
よって、身内の話かつ自由に選択すればよいテーマでありつつも、組織形態はその有用性を明確に捉えたうえで選択するべきです。
識学のフラット組織に対する結論は、「否定はしないが実現可能性は低い」となり、“おすすめ”しません。
ここからは、その理由を紐解いていきましょう。
フラット組織の実現に向けた難所 ①:組織を構成する全員の能力が高い必要がある
最もありがちでイメージしやすいフラット組織の例としては、映画「踊る大捜査線ーレインボーブリッジを封鎖せよー」に登場する犯人グループがわかりやすいでしょう。目的だけ共有して、あとは構成員の自由、というフラット組織が、編成組織型の象徴とも言うべき警察組織と対決し、敗れるというストーリーです。
織田裕二演じる青島刑事が最後「リーダーが優秀なら組織も悪くない」というセリフである種、柳葉敏郎演じる上司・室井管理官を‟評価”してしまっているわけですが、リーダーが決定権限を行使し、生じた結果責任を負う、というピラミッド組織が機能した場合、フラットはピラミッド組織に勝てない、ということを示唆しています。
同映画の犯人グループは、リストラされた‟用無し”人材で構成され、犯行現場に洋ナシを置くという社会風刺をまじえていますが、転じて、フラットが存続・維持される要件に
構成する人員が、全員おしなべて能力が高いこと
が条件になってくることがわかります。つまり、同映画の犯人グループが「洋ナシ」ではなく能力の高い人材(=ハイスペック人材)で構成された場合の勝敗は実はわからない、ということです。
ここでいうハイスペック人材のイメージは、フラット組織が目的だけ共有して上司も部下も目標も設定されないと定義する場合、例えば砂漠に落とされても、ゴール・方向性の設定ができ、やり方を取捨選択し、実行し、やり切ることでゴールに到達できるレベルの人間、ということになり、かなりのレベル感であることがわかります。
フラット組織において、集団に所属意識を醸成させているのは”目的”(=理念)のみということになります。
フラット組織の実現に向けた難所 ②:優秀な人材を引き留めることが難しい
企業組織におきかえた場合、フラット組織を目指して、このハイスペック人材を揃えることが瞬間的にできたとしても、やはり課題が残ります。それは、
能力の高い人間にそのコミュニティに居続ける有益性を継続的に提供できるか
というものです。
実際に、ベンチャー界隈でもこの少数精鋭のフラットに挑んだ経営者に数名面識がありますが、2年と持たずに、ハイスペック人材の離脱とともにコミュニティが消滅の危機に瀕しています。
繰り返しですが、組織マネジメントそれ自体は、コミュニティが市場に価値を発揮するための‟手段”であり、目的は外部有益性(=市場への価値提供)という前提に立つと、フラット組織を選択することは、全責任を負う経営者の意思決定であり、絶対的価値観としてフラットが悪、編成組織が善という一元論を主張しているわけではありません。
ただ、実現可能性という観点から見た時、上記のような大きな難所があることを理解しておく必要があるでしょう。
ピラミッド組織における自主性自立性は、ルールに依存している
同映画のラストでは、SWAT組織が命令で無いのに‟自主的に”行動し、犯人グループを追い詰めていきます。
これはある種、犯人逮捕という組織目標を踏まえて自主的に出動するという自律性が発揮される、というシーンです。
これは、組織の構成員一人一人に役割が明確に規定されている=目標が明確で、かつ役割の遂行に対してルール(枠組み)や権限が明確な場合の方がむしろ自主性・自立性が発揮されることを意味します。
つまり、しばしば語られるピラミッド組織の弊害=社員の自主性を奪う、という主張は必ずしも組織形態(ハード)から生じる構造的な要因ではないことがわかります。原因は、不明確な目標・責任範囲・権限といったルール(ソフト)の問題なのです。
ピラミッド組織においても、適正なルールがあれば自主的なPDCAを回すことができる
女優:真矢みき演じる沖田管理官がごりごりのマイクロマネジメント(=手段・手法を細かく規定する管理)をしている間、犯人の特定にすらいたらず、潜伏場所の特定に苦慮します。
しかし、室井管理官に指揮権が移り、目標の設定のみを行い「やり方はこのエリアに詳しい君たちに任す」とした瞬間から、解決に向けて現場の警察官たちの動きが活性化されました。このシーンからも、一般的に言われているピラミッド組織のデメリットは構造的な問題ではないことが言えます。
株式会社識学も設立4年で東証マザーズを果たしましたが、経営者界隈で「あそこはマーケティングがうまかった」と評価されています。
これは厳密にいうと誤りで、何もマーケティングの大家が社内にいたとか、特別なノウハウをもったコンサルがついていた、ということではありません。
あくまで、「見込み客を単月○○件獲得しなさい」という明確な目標=責任があり、それに向けた予算権限があり、手段手法はマーケティングチームがトライアンドエラーを繰り返しながら正解にたどり着く、この繰り返しから生み出された成果なのです。
■
冨樫 篤史
2002年、立教大学経済学部を卒業後、株式会社ジェイエイシージャパン(現ジェイエイシーリクルートメント)に入社。おもに幹部クラスの人材斡旋や企業の課題解決を提案。12年従事したのち2015年10月に識学に入社。大阪支店の支店長などを経て、現在は品質管理部の部長および識学マネジメントカレッジの主席研究員として従事。