仏教会の「安全な告解」新ガイドライン

まず、3年前のショッキングなニュースを思い出して頂きたい。欧州最大のカトリック教国、フランスで1950年から2020年の70年間、少なくとも3000人の聖職者、神父、修道院関係者が約21万6000人の未成年者への性的虐待を行っていたことが明らかになった。教会関連内の施設で、学校教師、寄宿舎関係者や一般信者による性犯罪件数を加えると、被害者総数は約33万人に上るというのだ。バチカン教皇庁もその聖職者の性犯罪件数の多さに驚いたといわれている。

CIASEのジャン=マルク・ソーヴェ委員長(CIASE公式サイトから)

バチカンニュース(独語版)は2021年10月5日、仏教会の聖職者の性犯罪報告書の内容をトップで大きく報道した。「フランス、聖職者の性犯罪に関する新しい報告書の恐るべき数字」という見出しだ。公表された報告書は独立調査委員会(CIASE)が2019年2月から2年半余りの調査結果をまとめたもので、約2500頁に及ぶ。犠牲者の80%は10歳から13歳までの少年であり、20%は異なる年齢層の少女だ。ほぼ3分の1はレイプだった。

日々の喧噪の中、フランス教会の不祥事を忘れかかかっていた時、同国カトリック教会司教会議は10日、告解と霊的指導に関する新ガイドラインを制定し、聖職者の性的暴力を防止するための追加措置を決めた、というニュースが入ってきた。これはルルドで開催されてきた司教会議総会で決められたもので、3年前のCIASEの勧告に基づいたものだ。同時に、司教たちは虐待被害者を支援するための基金に追加資金を提供することも発表した。

ローマ・カトリック教会の「告解の守秘義務(Seal of Confession)」は、信者が神父に告白した内容を秘密にする義務であり、13世紀初頭、第4ラテラン公会議(1215年)で正式に施行された。1983年に改訂された現行の教会法典(カノン法)でも、告解における守秘義務が明記されており、神父がこれを破ることは聖職剥奪の対象となる。カノン法第983条で「告白された内容を神父が漏らしてはならない」と定められており、第1388条では、守秘義務を意図的に破ることがあれば自動的破門の対象となると規定されている。一方、カトリック教会の信者たちは洗礼後、神の教えに反して罪を犯した場合、それを聴罪担当の神父の前に告白することで許しを得る。

ちなみに、カトリック教会では、告解の内容を命懸けで守ったネポムクの聖ヨハネ神父の話は有名だ。同神父は1393年、王妃の告解内容を明らかにするのを拒否したため、ボヘミア王ヴァーソラフ4世によってカレル橋から落され、溺死した。それほど聖職者にとって「信者の告解」の遵守は厳格な教えなのだ。

今回の告解に関するガイドラインでは、赦しの秘跡を授ける際の条件が定められている。告解の際は、聖職者の個人的な部屋で行うことはできない。教会、告解室、特別に用意された告解室以外の場所での告解は、巡礼や病者の場合などの例外を除き禁止される。告解は基本的に昼間に行う必要があり、神父はその際に聖職者の衣服、少なくともストラ(聖職者の帯状の衣服)を着用しなければならない。特に感情が高ぶった状況での告解は避けるべきだ、といった具合だ。

また、新ガイドラインでは、告解神父の教育に特に重点を置いている。告解の許可を与える前に、司教は神父を適切に訓練し、告解の務めに適しているかどうかを確認しなければならない。神父証明書には、告解を聞く許可があるかどうかが記される。許可が与えられた後も、神学的、心理的、法的側面に関する定期的な研修が必要とされる。

同時に、告解の秘密の重要性について強調されている。この秘密は絶対的であり、破ることには厳しい教会法上の罰が科される。神父が告解の中で犯罪の疑いを知った場合、自ら通報したり他者に明らかにしたりすることはできない。しかし、告解者に自ら行動を起こすよう促し、必要に応じて教会や民間の当局に通報することを償いの一環として指導することはできる。赦しを拒否することは認められていない。

ところで、なぜ司教会議はここにきて「告解に関する新しいガイドライン」を制定したのだろうか。それは聖職者の「告解守秘義務」が未成年者への性的虐待問題で大きなハードルとなってきたからだ。告解神父が聖職者の性犯罪を告解を通じて知ったとしてもそれを公にすることが出来ない。それが教会の性犯罪の隠蔽に繋がってきたからだ。CIASEのジャン=マルク・ソーヴェ委員長(元裁判官)は報告書の中で教会の「告白の守秘義務」の緩和を提唱している。なぜなら、守秘義務が真相究明の障害となるからだ。

なおエリック・ド・ムーラン=ビューフォート大司教は2021年10月6日、ツイッターで、「教会の告白の守秘義務はフランス共和国の法よりも上位に位置する」と述べた。その内容が報じられると、聖職者の性犯罪の犠牲者ばかりか、各方面の有識者からもブーイングが起きた(「聖職者の性犯罪と『告白と守秘義務』」2021年10月18日参考)。

ローマ・カトリック教会は今日まで「告解の守秘義務」を教会の重要な信条と位置づけ、神父が告解内容を漏らすことは許されないという厳格な姿勢を取り続けているが、児童虐待や重大犯罪が絡むケースにおいて、「告解の守秘義務」と社会的な義務との間で緊張が生じている。その意味で、フランス教会の今回の決定は、告解担当の聖職者への助言という性格が強いが、聖職者の性犯罪を久しく隠蔽してきた教会側がアンタッチャブルな「告解の守秘義務」に対して自ら再考する姿勢を示したものとして評価される。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年11月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。