「紀州のドン・ファン」事件の不思議

aquarius83men/iStock

「紀州のドン・ファン」と呼ばれた和歌山県の資産家が6年前に急性覚醒剤中毒で死亡した事件で、元妻が殺人罪で起訴されました。この事件の報道を見ていると私のような常識人には想像できない不可思議なことがいくつかあります。

まず、その資産家の男性がなぜ会って間もない50歳以上も年下の女性にいきなり結婚を迫ったのかです。

自身の女性遍歴を書籍(写真)にして、自らドン・ファンと名乗るくらいの好色家の男性が、急に特定の女性と結婚したくなる気持ちも理解できません。結婚しないで奔放な女性関係を続けようとしなかったのはなぜなのでしょうか?

また、結婚すれば遺産相続の問題が発生することもわかっているはずです。遺産相続狙いであることは当然理解した上で、それでも良いと思ったのでしょうか?

元妻が検察の主張通り、殺人をしたのかどうかはわかりませんが、起訴内容通りだったとしても腑に落ちない点があります。なぜ、疑われることがわかっているのに殺人を敢えてするのかという疑問です。

完全犯罪で証拠が無ければ、証拠不十分で捕まることは無いと考えたのかもしれませんが、殺害したとするとその手口は極めて稚拙です。

しかも資産家の男性は高齢です。それほど頻繁に会わなくても良い状況にあれば、別居婚のような状態を維持して、相続の発生をじっくり待とうとは思わなかったのでしょうか?

死亡した時の状況も謎が多くあります。死因となった覚せい剤は経口摂取しています。その場には元妻しか一緒にいなかったということですが、一緒にいたとしても、元妻が殺害目的で飲ませたのか、本人が何らかの理由で自ら飲んだのかはわかりません。

飲ませたとしても、強引に強要したのではうまくいかないと思います。では、どうやって飲ませたのか?

元妻は「完全犯罪」「覚醒剤過剰摂取」「殺す」などとウェブで検索していたそうですが、それは殺人の物的証拠にはなりません。

死亡現場にいて、今も生きているのは元妻だけ。真実を知る唯一の人です。

無罪になれば世論の反発は必至でしょうが、世論に押された安易な有罪判決は繰り返してはならない「えん罪」を生むことになりかねません。

この事件は「色と欲」「お金と幸せ」など人間の生き方について、様々なことを考えさせてくれます。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2024年11月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。