スーダン人の交流に見る会議研修を通じた人と人のつながりの意味

IGAD(政府間開発機構)という東アフリカの「準地域」機構のLeadership Academyという新設機関の研修の講師(ファシリテーター)を、ケニアのモンバサで三日間にわたって務めた。IGAD構成国である7カ国(スーダン、南スーダン、ウガンダ、エチオピア、ジブチ、ソマリアケニア)から女性リーダーと目される方々20人以上が集まって行われた研修であった。

大変に有意義で、楽しませていただくと同時に、いろいろと学ばせていただいた。それぞれの皆さんが、明るい素振りの裏側に、様々な政治情勢の複雑さを抱えているのは、言うまでもない。

現在進行中の紛争や、紛争後の脆弱な状況を抱える地域も少なくなく、一触即発の国家間関係もある。最も激しい内戦が続行中なのが、スーダンだ。

スーダンからの参加者グループは、スーダンの紅海沿岸の町ポートスーダンからの参加者と、ウガンダのカンパラ在住者がいた。

ポートスーダンからの参加者は、「政府」の課長級の職員であった。スーダンでは、首都ハルツームが激しい戦火の最中にあるので、政府関係者らは紅海沿岸のポートスーダンに拠点を移して、政府活動を続けている。これは一般には「国軍のブルハン」側とされている勢力になる。軍の最高司令官であるブルハン氏が、政変の帰結とはいえ、国家を代表する「主権評議会」の議長を務め続けていることになっているからだ。

ブルハン氏の国軍は、「ハメティ」氏が率いるRSF(即応支援部隊)勢力と激しい戦闘を繰り広げている。この内戦の構図は、日本でもスーダンの事情が報道される際に、まずは言及される点だろう。

だが実は、スーダンの騒乱には、もう一つの大きな要素がある。市民グループと呼ばれる勢力である。その中心にいるのは、ハムドック元首相であるが、市民社会組織の人々も、ウガンダに逃亡して集まっている傾向がある。

長期に渡る独裁政権を運営していたアル・バシール大統領を失脚させた2019年の政変は、市民の抗議活動が中心になって起こったものだった。バシール大統領に近かったRSFは、凄惨な市民の虐殺弾圧を行った。

しかしバシール政権が維持できないと見るや、国軍とともに、クーデターを起こした。その後に軍人と文民が共同で作り上げる主権評議会が出来上がった。その際に「首相」に就任したのが、ハムドック氏であった(ただしより強い権限は主権評議会議長の軍人のブルハン氏が握った)。

「遅れてきた最後のアラブの春」と呼ばれ、スーダンの政変に、期待が寄せられた。2010年末から巻き起こった「アラブの春」のうねりの中で、北アフリカのチュニジア、リビア、エジプト、中東のシリア、イエメンなどで、政変が起こった。結果は、内戦の泥沼でなければ、イスラム原理主義勢力の台頭、さらにそれを封じ込める軍事独裁政権の再登場であった。円滑な民主主義国家の樹立を果たした国はない。

「遅れてきたアラブの春」の実例となるスーダンが、先行例を教訓にしながら、初の成功例を作れるか、が試された。市民組織のリーダーと、軍人のリーダーが、共同で「主権評議会」を形成する仕組みは、教訓を生かした知恵である、と解釈されていた。

だがその期待は、2021年に、主権評議会議長職が初めて文民側に移転される予定になった時期の直前に、ブルハン氏が文民メンバーを主権評議会から追い出すという行為をするに及んで、崩壊した。残った軍人同士が、勢力争いで戦闘を開始したのが、2023年からの内戦である。

首相を解任されたハムドック氏は、軍人中心の主権評議会の強烈な批判者となった。さらに内戦勃発後は、外国に逃れて、国軍のブルハン側の勢力にも、RSFのハメティ側の勢力にも、批判的に対峙する姿勢をとり、市民社会組織を束ねる動きをとっている。ケニアで会議を開いたりするが、ウガンダにいると考えられている。

私は、大学院でスーダン人の大学院生を指導対象の学生として教えている。内戦勃発前に来日したので、故郷が内戦に陥り、戻れなくなってしまった。タリバン政権の復権で故郷に戻る可能性がなくなったアフガニスタン人の学生なども指導していたことがあるが、戦争や政治に翻弄される人々の悲哀は、どんな場合でも切ないものである。

IGADの運営者側は、苦労してスーダンからの研修参加者を選んだうえで、ハラハラしながら様子を見ていた。幸い、研修参加者のレベルでは仲良くやっていただき、共同作業にも協力して取り組んでいただいた。成果がすぐには見えないのだが、将来に向けた布石として、極めて大きな意義を持つことである。そうした点も十分に視野に入れて、研修の意義を見定めて、実施している。

折しも、日本では、石破首相の国際会議での振る舞いが大きな話題となったようだ。会議や研修の大きな意義は、人と人とのつながりを作り、発展させるところにある。読書家であるがゆえに、その点を軽視する傾向があるとしたら、残念である。

硬直した官僚主義と権威主義がはびこる日本社会全体に、人間的なつながりの構築が生み出す可能性の大きさを軽視する風潮が蔓延しているとしたら、それはさらに残念なことである。

篠田英朗国際情勢分析チャンネル」(ニコニコチャンネルプラス)で、月2回の頻度で、国際情勢の分析を行っています。