「緑の党」出身の大統領のミスと「極右党」の躍進

オーストリア南部シュタイアーマルク州で24日、州議会選挙(定数48)が行われ、予想されたことだが、極右政党「自由党」が得票率約35%を獲得して第1党に躍進した。連邦・州レベルでの選挙で自由党が第1党となったのは今年9月29日に実施された国民議会選挙に次いで2回目だ。同国の政界は「自由党」の黄金時代に入ろうとしているのだ。

シュタイアーマルク州議会瀬で大勝利した自由党のマリオ・クナセク州党首(左)とヘルベルト・キックル党首(オーストリア自由党公式サイトから、2024年11月24日)

先ず、投票結果(暫定)を紹介する。同州議会で与党だった国民党は26.8%で前回比で9.3ポイント減と大きく票を失った。社会民主党は21.4%(前回比1.6ポイント減)。一方、自由党は34.8%でプラス17.3%と歴史的な勝利となった。そのほか、「緑の党」は6.2%(5.9ポイント減)、ネオス5.9%(0.5ポイント増)、共産党4.4%(1.6ポイント減)だった。投票率70.3%。

ところで、国民党のクリストファ・ドレクスラー同州知事は選挙後、「敗北の主因は州政治ではなく、連邦からの影響だ。投票直後の調査によると、有権者の60%は投票動機を連邦からの問題と答えていた」と語った。具体的には、ファン・デア・ベレン大統領が9月の総選挙後、投票で第1党となった自由党に政権組閣を要請せず、第2党の国民党のネハンマー首相に要請したことから、自由党関係者ばかりか、メディア関係者や国民から「大統領の決定は民主的ではない」といった声が高まった。民主選挙で第1党となった政党が政権組閣交渉を担当するのがこれまでの通例だったからだ。その結果、多くの国民が自由党に同情。一方、自由党は「わが党は大統領の偏向した判断の犠牲者だ」と主張し、有権者の心を掴んでいき、シュタイアーマルク州議会選の大飛躍をもたらした。

選挙結果が判明した直後、第2党に後退した州知事が選挙戦の敗北の責任を連邦側にあると主張し、それも大統領の政権組閣要請で自由党を恣意的に疎外させたことが自由党の躍進に繋がったと説明したのだ。かなり突っ込んだ発言だ。同州知事は連邦与党「国民党」出身だ。「国民党」党首のネハンマー首相がファン・デア・ベレン大統領の要請を受けて政権組閣交渉に乗り出している時だ。それだけに、同州知事の発言はシュタイアーマルク州を超え、ウィーンの中央政界まで大きく波紋を投じたわけだ。

ファン・デア・ベレン大統領の組閣要請について、少し説明が要るだろう。オーストリアではドイツと同様、極右政党の政権入りについて、国民ばかりか、メディアの中にも強い抵抗がある。だから、他の政党は自由党、「ドイツのための選択肢」(AfD)との連立を拒否している。ただ、オーストリアの場合、連邦レベルでも州レベルでも自由党が入った連立政権は過去、発足したことがある。2000年の国民党と自由党の連立政権発足の際は、欧州全土でオーストリアの新政権ボイコットが起きた。州レベルではオーストリアでは4州(ニーダーエステライヒ州、オーバーエステライヒ州、ザルツブルク州、フォアアルーベルク州)で国民党と自由党の連立政権が発足している。右傾化が囁かれているだけに、欧州では極右政党の動向に少々過敏となっている。

ファン・デア・ベレン大統領は総選挙後、主要3党の党首を大統領府に招き、会談した。そこで国民党のネハンマー党首(首相)、社民党のバブラー党首は「自由党とは連立を組まない」と表明した。それを受け、大統領は「国民党と社民党が自由党と政権を組む意思がないことが判明した。自由党一党では政権を組閣できない」と説明し、連立政権発足の可能性は国民党と社民党の連立に第3政党を加えた場合のみ安定政権ができると判断、政権組閣を第2党の国民党のネハンマー首相に委ねた経緯がある。

大統領の判断は間違いではないが、総選挙で第1党となった自由党の立場を尊重し、たとえ組閣が難しいとしても自由党のキックル党首に組閣を要請すべきだった。それが民主的選挙を尊重するということになるからだ。その点、「緑の党」出身のファン・デア・ベレン大統領はミスをした。同大統領には極右政党への強い抵抗感があるからだ。

「国民の首相」になると宣言してきた自由党のキックル党首は総選挙で第1党に躍り出たが、政権組閣を拒否され、無念だったはずだ。ただし、自由党がその後も躍進し続けるとすれば、自由党抜きで安定した政権は樹立できなくなる。来年1月にはブルゲンランド州議会選が行われる。キックル党首は同州の自由党党首にノルベルト・ホーファー氏(前第3国民議会議長)を送るなど、着実に手を打ってきている。

<参照>
「極右『自由党』は何を考えているか」2024年9月1日
「極右『自由党』に政権を委ねられるか」2024年10月10日


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年11月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。