極右「自由党」は何を考えているのか

中欧の中立国オーストリアで今月29日、ネハンマー現政権の任期満了に伴い連邦議会(国民議会)選挙が実施される。複数の世論調査によると、野党の極右政党「自由党」が支持率約30%で第1党に躍り出ると予想されている。キックル党首(55)は既に連邦首相になったような雰囲気を意識的に漂わせながら選挙戦を戦ってきている。

FPOの選挙プログラムを発表するキックル党首(左から2人目)(2024年8月21日、FPO公式サイトから)

欧州ではフランスやオランダで極右政党が活躍し、欧州政界は右寄り傾向を見せているが、オーストリアでは自由党は今年に入り欧州議会選でも得票率を伸ばし、第1党に躍進するなど、世論調査の結果を裏付けてきた。そしていよいよ連邦議会選まであと1カ月を割った。キックルさん、出番ですよ、といった感じがするほどだ。

そしてキックル自由党が連邦議会選でトップとなり、政権を発足させるならば、欧州ではキックル政権ボイコットの声が広がることはこれまた必至だ。1999年の国民議会選で自由党が第2党に躍進し、第3党の保守党「国民党」と連立を組み、国民党の党首シュルッセル氏を首相に担ぎだして新政権を発足した時、欧州政界はオーストリア・ボイコットの嵐が吹き荒れた。多分、同じようなボイコットの嵐が欧州各地で起きることが十分予想される。

1999年と違うのは、キックル自由党は第2党ではなく、第1党に躍進し、そして選挙後は国民党と連立を組むとしてもネハンマー党首に首相の座を譲る考えはなく、キックル主導の新政権を発足させる方向で固まっていることだ。アドルフ・ヒトラーの生誕国、オーストリアで極右政権の誕生は欧州の他の国での極右政権の発足とは違って欧州政界へのインパクトは大きい。それだけに、キックル政権発足を阻止する声が響き渡ることは間違いない。

さて、キックル政権の誕生を単に恐れていても意味がない。キックル党首が第1党となり、政権を奪取した暁には何をしたいのかを検証すべきだろう。キックル政権は欧州にとって危険か。それとも大衆迎合政権に過ぎず、時間の経過と共に消滅していく一過性の政治的出来事に過ぎないのだろうか。

キッケル党首は8月21日、ウィーンのブルクガルテンのパルメンハウスで同党の選挙プログラムを発表した。そのタイトルは「オーストリア要塞」((Die Festung Osterreich)だ。キックル党首にとってオーストリア要塞は「自由の要塞」であると言明している。

自由党は、移民排斥、ナショナリズム、欧州連合(EU)やグローバリズムに対して強い懐疑心を抱き、イスラムフォビアだ。その一方、厳格な伝統的家族観を支持している。

キックル党首は「自由党は個性、主権、均質性、そして連帯を重視する」と述べ、パンデミック時の基本的権利や自由の制限について批判している。そして「オーストリアは主権国家であり、EU、WHO、または国際裁判所の命令を受ける者であってはならない」と強調し、オーストリア・ファーストを掲げている。

キックル氏は同時に、「民族移動」やイスラム主義、さらには「ジェンダー主義」の脅威について言及し、「民族移動」や「イスラム主義の輸入」に対抗するためには「再移住」が必要であると述べている。そして「連帯はオーストリア人のためにあるべきだ。社会福祉は国民にのみ支給されるべきであり、亡命は限定されるべきだ。そもそもオーストリアではもう亡命申請が行われるべきではない」と説明し、ハンガリーのオルバン首相と同様に、「移民ゼロ」政策を掲げている。

自由党の政策で興味深い点は、子供の世話において「平等な選択の自由」を求めていることだ。子供の世話施設の拡充と家庭内での世話の強化の両方に言及し、「子供が義務教育を開始するまでの世話の時間が年金に加算されるべきだ」という。非常に具体的な提案だ。さらに、憲法によって、男女の二つの性別のみが存在することを明記すべきだと主張している(「民主主義がエモクラシ―となった?」2024年2月6日参考)。

選挙プログラムは党の公約だ。実行できるか否か別問題だ。自由党の選挙プログラムを一瞥すると「オーストリア要塞」というタイトルが間違っていないことを感じるが、キックル党首が信じているように、それが「自由の要塞となる」かは残念ながら不確かだ。

<参考資料>
自由党の選挙プログラム
https://www.fpoe.at/artikel/fpoe-praesentierte-wahlprogramm-festung-oesterreich-festung-der-freiheit-1/


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年9月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。