右派の雑誌2誌の驚くほど大きい新聞広告のなぜ

ChatGPTに聞いてみた

月末になるといつもびっくりするのは、右派雑誌のHANADA、WILLの新聞広告の大きさです。雑誌広告としては、特に産経新聞が破格の扱いで、今月号(26日発売)はHANADAは全ページ(1ページ)広告、WILLは全5段広告でした。全㌻広告はいつものことかどうかは知りません。とにかく超ベストセラー並みです。

私は月刊誌も出している出版社に一時、出向していたもあり、この右派雑誌がなぜ毎号、こんなに大きな広告を出すのか、出せるだけの収益をあげているのか不思議に思っていました。この2誌は日本雑誌協会が発表するデータにも見当たりません。

雑誌の正確な発行部数、実売部数はもともとよく分かりません。日本雑誌協会に加盟している場合は、発行部数(印刷部数)が分かっても、雑誌は返品(発行部数の3-4割)が多いので、実売部数は不明です。

そこでChatGPT(生成AI、人工知能)に聞いてみると、「月刊文芸春秋35万部(芥川賞特集では100万部程度のことも)、伝統的な論壇誌の岩波の世界は1-2万部、同じく中央公論も同程度。WILLは5万部くらい」とのことです。どこまで正確かどうか分かりません。

ウイキペディアによると、「WILLは2014年に20万部」(出版社側の公表データか)とあります。一方、「出版関係者によると、2018年、WILL8万部、HANADA6万部、正論(産経新聞)5万部」などというデータも検索できます。だいだいのことしか分からない。それでも、販売部数から出せる新聞広告費をはるかに上回る金額の広告費が使われていると推測します。

産経新聞の1ページ広告だけならともかく、読売新聞はHANADA、WILLはともに全5段広告、日経も同様で、地方紙にもかなりだしているようです。編集方針が真逆の朝日、毎日には広告は見当たりません。大部数の月刊文芸春秋が主要日刊紙に全5段広告を出しています。

文芸春秋の35万部に対して、右派の2誌は5万部程度と推定すれば、どうしてこのように大々的に広告を出せるのか不思議でなりません。先ほどのChatGPTに聞くと、「右派雑誌の広告費は毎月数千万円、年間では億円単位になるかもしれない」とのことです。

もっとも生成AIはかなり不正確な返事をしてくることが少なくない。さらに、新聞の発行部数は激減が続いていますから、広告料金も値下がりしているうえ、毎号掲載となれば、かなりの値引きに応じていることでしょう。そうであっても、この2誌にとっては、販売部数に釣り合わない金額の広告費を使っていると推測しても、間違いではないでしょう。

ChatGPTとの質疑を続けますと、「右派の支援団体が資金援助をしていることはありうる。日本会議(自民党系)、改憲団体、宗教団体など」とのことでした。情報の真偽は分かりませ。

もう一つ不思議なのは、HANADAもWILLも毎号、同じような傾向の記事が並んでいることです。よく共倒れしないなあと思います。桜井よしこ氏は両誌に載っているし、国会議員は高市早苗、萩生田、世耕氏ら旧安倍派が常連です。トランプ氏には親近感を示し、「トランプを毛嫌いする薄くて軽い知性」、「トランプ完全解説」などが目立ちます。

一方、石破首相批判は過激で「石破首相は辞意表明を」、「石破政権、風前の灯」、「予算成立までの暫定内閣か」と。かつては安倍・元首相のインタビュー記事が頻繁に掲載され、現在は「トップを目指す」と自らかく萩生田氏、「自民党を立て直す」と宣言する高市氏に期待を寄せています。要するに、旧安倍派の拠点のようでもある。

主要新聞は毎月、論壇時評の特集を掲載し、世界、中央公論、各種の月刊誌、最近は週刊誌、新聞掲載の論考などに寄稿する識者の原稿や論評が取り上げられています。それに対し、HANADA、WILLの記事はほどんど見当たりません。論壇時評に値する雑誌とは違う次元の雑誌との判断でしょう。

要約すれば、ChatGPTは「保守的な価値観、歴史観、右派思想など、同じような傾向を持つ論者が毎号のように登場するので、幅広い論者の多様な論考を扱う論壇誌、言論誌と違うから論壇時評の対象にならない」とみています。保守派、右派、旧安倍派などのいわば「機関誌」との位置づけでしょう。

毎号、大々的に新聞広告を掲載し、常連の執筆者、しばしば登場する似たような見出しを読んでもらえれば、存在感を示せると考えているのかもしれない。

それにしても、読売新聞グループの月刊中央公論の広告が読売新聞では全5段の3分の1程度であるのに対し、HANADA、WILLがそれぞれ全5段広告というのは、アンバランスで理解に苦しむ。産経新聞発行の「月刊正論」の広告も、小さかったように思います。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年11月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。