韓国の非常戒厳っていったい何だったのか?

唐突感が否めなかったのが韓国の尹錫悦大統領の非常戒厳宣言。その布告令第1号が発表され日本語訳を読む限り、すべての韓国人にとって「一夜明けずして全然違う世界」と言ってもよいのでしょう。

非常戒厳の布告令第1号は6条からなっており、その要旨は以下の通りです。

  1. 国会と地方議会、政党の活動と政治的結社、集会、デモなど一切の政治活動の禁止
  2. 自由民主主義体制の否定、転覆、フェイクニュース、世論操作、虚偽扇動の禁止
  3. すべてのメディアと出版は戒厳令によって管理
  4. 社会混乱を助長するストライキ、怠業、集会行為の禁止
  5. すべての医療関係者は、48時間以内に本業に復帰、勤務。違反時は戒厳法によって処罰
  6. 体制に従順な善良な一般国民は、日常生活に不便を最小化できるように措置す

以上に対し違反者は、大韓民国戒厳法第9条(戒厳司令官特別措置権)により令状なしに逮捕・拘禁・押収捜索ができ、戒厳法第14条(罰則)により処罰。

これ、日本人からすれば戦前の話のような極めて厳しい戒厳措置に見えます。ましてや政治活動の禁止となれば議論をさせないので一種の軍国国家のような硬直型国家運営を当面行いたいということでしょう。医療関係者へのくだりは医療関係者のストライキが長く継続し、医療活動に大いなる支障が起きているためです。

尹錫悦大統領インスタグラムより

これを受け韓国国会は4日未明に決議を行い、非常戒厳の解除要求決議案を可決させています。憲法の規定により大統領は戒厳を宣布できるものの国会で過半数を持って解除を支持した場合、解除せざるを得ないとあります。また尹大統領はその判断を尊重し、戒厳を解除しています。ただ、本件予断を許さない状況でまだこの行方は何処に行くともわからない状態です。

尹大統領が焦った背景は何なのでしょうか?

この戒厳宣言、実は夏の終わりごろから噂はあったようで与野党のトップ同士が「そんな噂を耳にするが…」に対して「まさかそれはないよね」で流していたとされます。大統領府もその噂をもちろん一蹴。しかし、火のない所に煙は立たぬわけでなぜその頃からそんな噂があったのでしょうか?いくつかの要因の組み合わせではないかと思います。

最大の理由は尹錫悦大統領の支持率低下と弾劾の可能性。これは朴槿恵氏が弾劾された際、その直前に彼女も非常戒厳の検討をしていたとされ、尹大統領に発想のヒントを与えたとみています。もう少しさかのぼると韓国で4月10日に行われた総選挙で議席数300のうち、「共に民主党」など野党が192議席を確保しており、少数与党による議会運営どころか国会で高官の弾劾を求めるなど紛糾し続け、ほぼ機能しない状態に陥っていることに嫌気がさしたのだとみています。

2つ目に国内経済が極めて深刻な停滞に陥っていることがあります。GDPを見ると2024年の各四半期はそれぞれ1.3%、マイナス0.2%、0.1%成長となっており当初期待されていた年間2.5%程度の成長には全く届かない状況にあります。

経済成長が鈍化している理由はインフレなどさまざまだと思いますが、個人的には韓国独特の2つ根本的理由があるとみています。1つは国民の貧富の差と高齢者の老後問題が重たくなってきていること、2つ目は異様なほどの少子化で長期的に見た国家の維持計画ができず、年金問題などあらゆる制度上の問題が噴出していることがあります。

3つ目は北朝鮮の動きです。金正恩氏が水を得た魚のように元気になった最大の理由はロシアとの関係強化でしょう。

それまで中国は北朝鮮を支配下のような位置づけにし、習近平氏は金正恩氏を小僧扱いにしていました。そこにプーチン氏がビジネスディールを持ってきてくれたことで「自分を対等な立場で扱ってくれた」という喜びと共に一気に勢力を盛り返しました。併せて韓国に対する圧力、敵対視はより強化され、韓国の一般国民を不安に陥れます。韓国内には北との摩擦を避けたい従順派と強硬派があり、野党は従順的であるとされます。それにくさびを打ちたかったのはないかと考えています。

更にもう一つ加えるなら尹大統領と与党「国民の力」の韓東勲代表との関係悪化もありそうです。とにかくこの2人のウマが合わないのです。とすれば現状、韓国は尹大統領の意のなすがままという感じにも見えますが、もちろん、政界や国民が黙っているわけがないのが韓国であります。

日本では自民党の菅副総裁を中心とする日韓議員連盟幹部の韓国訪問が12月15-16日に予定されています。これは2025年が日韓国交正常化60周年となるため、1月に石破総理が韓国に行き尹大統領と会談するための下地作りの予定でした。この韓国の状況ではそれどころではないという気もします。つまり日韓関係の交渉も停滞する公算があるとみています。

個人的には尹大統領が尽力した日韓関係の再構築は重要なポイントだったと思います。また現在の保守政権が日韓関係や米韓関係には重要で、リベラルに再び戻ることを繰り返していれば韓国は成長の壁を打ち破ることができなくなり、長期的に見て極めて深刻、かつ北朝鮮に対峙すらできなくなるでしょう。

一方、日本の国防という観点からは不安材料となります。故に気持ちとしては尹大統領をどうにかして支えたいところではありますが、今回の問題は国内事情が大きく、今回の顛末としては尹大統領への責任問題と統率力への影響が不可避で、今後、相当の騒動になるとみられ、海外諸国も当面は傍観する以外仕方がないという感じに見えます。

韓国人のケンカ好きは世に知れていますが、私からすれば「またやってくれたな」という残念な思いであります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年12月4日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。