社会保障審議会の年金改革案を読み解く

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11月25日の第21回社会保障審議会年金部会にて将来的な年金改革案が提示された。

直近で導入されそうなのは現状2026年に終了するマクロ経済スライドによる報酬比例部分の調整と関連した、比例報酬部分の調整期間延長と基礎年金調整の早期切り上げによるマクロ経済スライドの2036年終了(21年前倒し)だ。(下図・同資料より引用)

これは要するに「今後の厚生年金の目減りを多くして、基礎年金の目減りを小さくする」と言い換えることができる。そういった改革案は、私たち現役世代にとって有益であるか、反対すべき改悪であるのかを論じてみたいとおもう。結論は個々人違ってくると思うが、判断材料は共有したい。

さて前提のお話として、マクロ経済スライドとは日本年金機構によると平成16年に決まった制度で、「将来の現役世代の負担が過重なものとならないよう、(略)年金の給付水準を調整」するというもので、ようは将来インフレが起こった場合は年金支給額は引き下げますよという、現役世代の存亡にかかわる素晴らしい制度だ。

この制度があるから官僚たちは「年金制度は100年安心」と豪語する。そりゃ給付を引き下げれば制度は存続するでしょうよ。ウラを返せば現役世代が受け取れる年金は雀の涙ですよという意味でもあるが、とりあえず年金保険料が無制限に上がらないという点では評価できる。

で、実際インフレが起こったため、年金給付水準は引き下げられることが決まっている。だがこのままだと基礎年金が減りすぎるため、国民年金加入者だった高齢者たちの生活が困窮してしまう。

一方で、現状でも低年金・無資産高齢者は年金だけで生活が維持できなくなると生活保護を受給している。

知り合いにインフラ肉体労働系社長がいるのだが、彼の話によると日雇い労働などで私たちの生活基盤であるインフラをマジメに黙々と支えてきた肉体労働者たちは、高齢者になったとき低年金・無資産になりがちだ。高齢になり関節痛や事故等で働くことができなくなった場合、しばしば生活保護申請につきそうという。

そういった観点から考えると、高齢者の困窮を防ぐために重要なのは基礎年金あるいは生活保護であり、厚生年金(比例報酬部分・二階建て部分)はあくまで豊かさである「オマケ」ともいえる。

社会保障審議会の資料によると、基礎年金部分が24.6兆円であるのに対し、報酬比例部分は28.8兆円。「オマケ」のほうが大きいのが現状だ。

もちろん政府は「払った分だけお得」といって厚生年金制度加入を拡大してきた背景があるから、この「オマケ」部分が重要で目減りするのは耐え難いという声は、現役世代からもあがるだろう。

しかし今の年金は賦課方式といって、”いまの高齢者への給付分は今現在の現役世代が支払う”という仕組みになっている。現役世代に支払い側の役割を求めるのであれば、現役世代が不在だった過去に交わされた受給関係について、ちょっと見直してくれないかと声を上げる資格はあるはずだ。

そもそもマクロ経済スライドで基礎年金が目減りすれば、厚生年金加入者の年金も目減りする。どうせ目減りするなら生活困窮者を支えるという本来の目的を尊重したほうが良いのではないか

一方で重大な懸念がある。最初に示した図では基礎年金を維持するために、厚生年金財源の活用あるいは国庫負担率を上昇させると記載がある。これはすなわち増税もしくはサラリーマン厚生年金保険料の増額を示唆している可能性が高い。

現役世代としてはこれ以上の国民負担増 = あらゆる増税は受け入れがたい。もし年金本来の目的を機能させるために基礎年金部分を確保したいならば”増税に徹底的に反対”し、比例報酬部分(厚生年金における二階建て部分)の目減りを加速して対応すべきだと、私は考える。

それを極限まで推し進めた形が、自民党 河野太郎氏が提唱する最低保障年金だ。

全ての国民は最低保障年金(およそ基礎年金と同義)の給付が保証され、二階建て部分はNISAやiDecoへとその役割を譲る

無年金・低年金でも結局は高齢で働けなくなったら生活保護を受給させないわけにもいかないのだから、だれがどれだけ払ったかというのはナンセンスだ。「払った分だけ得をする」というネズミ講そのものの売り文句も、すでにほとんどの労働者が強制加入している現状において役割を終えているだろう。

もし最低保障年金に移行するならば、基礎年金部分よりも大きい報酬比例部分は半減させることができる。その分年金保険料が減額となれば、いうことなしだ。

もちろん今現在年金受給している高齢者や、すでに年金受給間近の高齢者に対する配慮は必要だろう。政府お得意の激変緩和策、テーパリングによるソフトランディングの財源は、年金積立機構がもつおよそ100兆円で良いだろう。

いまの35~50歳代は多少の払い損を生むだろうが、給与所得の源泉徴収の中でも特に大きい年金保険料が減額されるなら、私は賛成だ。