上場企業の自社株買いは禁止にすべきです。利益が出れば自社株買いをして株価を釣り上げることは実体経済に何らの利益ももたらしません。むしろ企業の長期の研究開発や設備や人員に対する投資を蔑ろにし、中長期的にみれば企業の能力や経営基盤を蝕みます。
米国でもレーガン政権まで自社株買いは違法でした。これを合法化したことによって投資家は儲かりましたが、企業の体力は落ちていき、また経済人のモラルも低下していきました。その典型例がボ-イングです。
従業員は利益を上げるために解雇されたり、必要な教育を受けられずに能力の向上がなされない。そして中長期の投資もおこなれない。まるで焼畑農業です。これでは特に製造業では企業としての能力は落ちていきます。そして多くの労働者の賃金を下げることになります。昨今我が国でも内部留保が多いと批判されますが、自社株買いが一つの理由ではないでしょうか。
確かに株主と経営者は儲かるでしょう。ですが特に米国では「経済は好調」とウォールストリートジャーナルが宣伝しても、貧富の差が大きくなり、大多数の国民の生活は苦しくなってきています。
行き過ぎた株主優遇は企業を弱めて、先進国の企業が中国や途上国に負けて行くことになるでしょう。何でもアメリカの猿真似をすればいいわけではありません。
このような極端な株主優先の強欲資本主義は国力を弱めて、経済安全保障と言う観点からも問題です。
自社株買いを擁護できない理由 Edward Hadas ロイター
現代資本主義に批判的な多くの人々にとって自社株買いは制度腐敗の象徴となっており、こと自社株買いについては反対派に理がある。
米証券取引委員会(SEC)が1982年に規則を設けるまで、企業が市場で自社株を買い戻すのは容易ではなかった。専門家の間では、自社株買いは社外の投資家にとって不公平な制度だという見方が大勢を占めていた。社内関係者でなければ自社株買いの有無や価格、規模を知りえないためで、担当する経営幹部が立場を悪用する恐れもある。
しかも株主還元には既に配当という手段もあり、その方が優れていて開放性も高い。配当と自社株買いの主な違いは、配当が公平で公開されているのに対して自社株買いは不透明な点だ。企業が通常の配当を維持したいのなら、特別配当を実施することができる。
しかしSECは1980年代に高まった規制緩和を求める圧力に屈し、おおよその規模や期間を明らかにすることを条件に自社株買いを適法化。他の国の規制当局もSECに追随した。
SECの決定を受けて税務当局は経済的な考察を行い、自社株買いを配当とまったく同じに扱うべきだった。実際には、自社株買いを税制面で優遇し、政府の税収がいくらか減るという副作用も招いた。
株式分割や株式による配当支払いのときに行う調整を自社株買いには適用しなかった。自社株買いによって企業の1株当たり利益を人為的に押し上げることができるから、経営者も自社株買いを好んだ。
ゴ-ルドマンが1880年以降のS&P総合500種構成企業の株主還元を調べたところ、2009年第3・四半期に始まった現在の景気回復局面では総額8兆ドルが株主に還元され、その60%余りを自社株買いが占めた。
ゴ-ルドマンのまとめによると、企業利益に占める株主還元の割合は1971─82年は半分程度だったが1983-2001年には70%に上昇。2002年以降は90%に高まっており、こうした懸念が裏付けられた形だ。
また比較的新しく、あまり知られていないことだが、自社株買いには指数連動型投資を歪曲するという問題もある。非公開の自社株買いで発行済み株式数が減ると当該企業の正確な時価総額が把握できない。
自社株買いは「悪」なのか「新しい資本主義」の迷走が示すもの 朝日新聞
日本では01年の商法改正で自社株買いが自由化された。新規増資で企業が調達する額を上回るようになり、「株式市場はもはや資金調達の場ではなくなった」。賃金や設備投資が伸び悩むなか、利益が株主還元にばかり使われているのでは、と問題視した。
自社株買いは勢いづく。大和総研の中村昌宏氏の集計では、22年1~11月の実施額は943社で計8兆5106億円に上り、データがある02年以降で最多だ。1社あたりの規模も膨らんだ。日立製作所やソフトバンクグループなど1千億円超の実施も目立つ。
国内の上場会社の株式の3割(金額ベース)は外国人投資家が握る。安倍晋三政権で財務省、内閣府参与を務めた事業家の原丈人氏は「会社は外国株主ではなく社員と社会のために経営すべきだ」と苦言を呈す。
ただ、日本では債権者を守るため、米国のような過度な自社株買いは会社法で禁じられている。剰余金の範囲内でだけ許されている。金額も米国の10分の1以下にとどまる。自社株買いが増えていること自体を問題視すべきではない、との見方もある。
はっきりしているのは、「企業は株主のものである」の論理を究極まで推し進めている米国では、多くの企業が弱体化し、持続的成長どころではなくなっていることだ。やれ配当だ、やれ自社株買いだで、企業の内部留保をどんどん取り崩させている。
その横で、強欲株主たちは長期視野の研究開発などの投資は、目先の利益につながらないといって削り落とさせている。それどころか、M&A(合併・買収)やレバレッジドバイアウト(LBO、相手先の資産を担保にした借り入れによる買収)などで短期的に利益を積み上げるように迫る。
厄介なのは、学者先生らが米国での現象は何でもかんでも日本へ導入すべしと主張することだ。例えば、日本企業のROE(自己資本利益率)は低過ぎる、米国レベルまで高めるべしと迫る。
長期的な投資戦略など捨てて、内部留保を自社株の買い入れ消却に回せば、ROEは跳ね上がる。短期志向が極まりない手法で高めたROEの数値をもって、日本企業のROEや株主重視の姿勢は高まってきたと学者先生は言う。
その企業が持続的な成長をするのに必要な先行投資よりも、単にROEを高めたという現象をもって良しとする風潮など、もっての外である。
年金など機関投資家もあまり表面には出さないが、米国直輸入の株主重視経営を支持する。企業が配当金を高め自社株の買い入れ消却を積極化すれば、株価は上昇するから歓迎というわけだ。たとえ、そういった短絡的な経営戦略が企業の長期的な成長の芽を摘んでいっているとしても、運用者たちは目先の運用成績の方が大事とするからだ。
この「迷走するボーイング」はお勧めです。
マグドネル・ダグラスを吸収した
は、ジャック・ウエルチの子分の旧マグドネル・ダグラスの経営陣に支配されて、それまでのものづくりモノづくり優先の企業文化が破壊されて、株主と株価連動で報酬が増える経営者のため、研究開発や従業員、そして安全性が蔑ろにされてきました。その様子が克明に書かれています。
我が国でもジャック・ウエルチはもてはやされましたが、ぼくはずっと否定的でした。このような経営は企業を長期にわたって繁栄させることはできないからです。その流れを汲むマクドナルドの原田泳幸も名経営者と謳われましたが、会社の経営をめちゃくちゃにして去っていきました。
ボ-イングはかつてのようなものづくりの誇りを忘れて、短期の利益のみを追求した結果従業員の質も落ちていきました。また旅客機にしろ。軍用機にしろ中長期の開発をしなくなり、技術的に後退していきました。このためシステムインテグレ-タ-としての能力も落ちて、軍用装備の面で、開発期間が伸びたり、開発費が高騰するようになりました。レイセオンを含めて、大なり小なり、米国の巨大航空防衛産業は同じ病を抱えています。このため国防総省の開発投資は極めて効率が悪くなりました。
また多くの装備を海外企業に頼るようにもなりました。米国大企業はそれらの装備を「インテグレ-タ-」といえば聞こえはいいですが、「口入屋」「手配師」として利益を得ているわけです。
これは西側先進国にとっても由々しき問題で、米国の軍事技術の衰退と装備の高騰は同盟国である我が国にとっても他人事でありません。またこれは経済安全保障上でも大きな問題です。
航空自衛隊はKC-46Aが多くの問題を抱えているにもかかわらず、「米空軍と同じおもちゃが欲しい」と一択で買いました。
エアバスにもA330 MRTTの情報提供を求めましたが断られました。それは空自救難ヘリで露骨な官製談合やってエアバスは当て馬にされたからです。
軍オタさんたちはA330 MRTTは日本の運用に合致していないと主張しますが、であればなんで空自が情報提供を求めたのか?当局の決定を盲目的に信じるのは反知性主義です。
そもそも現用のKC767も多くのトラブルがあります。その結果米国までの戦闘機訓練の給油ができずに米空軍の給油機にお世話になったことも多々あるとのことです。
それもでも「米空軍と同じおもちゃが欲しい」と選んだわけです。知性があるんでしょうか?
中長期的にみて米国の軍事技術の優位性、そして装備の信頼性は危うくなってきているのではないでしょうか。F-15Jの近代化もイスラエルなどボ-イング以外の企業に任せるべきかもしれません。
いずれしても自社株買い代表される強欲資本主義は経済と国力を疲弊させることなり、経済、安全保障、経済安全保障のいずれの面でもたいへん大きな問題だと言えます。
■本日の市ケ谷の噂■
その昔、医官のバイト規制はなかった。平成10年くらいまで防衛医大の内科外科救急の医局では、研修医の昼間の仕事が終わると、近隣の救急病院の当直医として派遣していた。
これは腕を磨かせる意味合いとこずかい稼ぎの意味合いがあった。当直、バイトがエスカレ-トして、昼間の本業までさぼって、所沢近隣の長者番付(高額納税者)に乗った研修医もいた。当時はマイナンバ-も無く、多少のバイトでは、税務署や職場にばれることもあまりなかった。
この救急当直をこなすことで、救急医療、外傷医療などの実践力がついたのも事実。だが平成10年を超えるあたりから、内科外科救急の医局入局者の減少、腕を磨くよりも金儲けに走る医官が増えてきて、防衛省でもバイトを禁止。これに反発するように医官の退職増加から、許可制でバイトを許可するようになった。
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月刊「紙の爆弾」12月号に以下の記事を寄稿しました。
東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。
Merkmal(メルクマール)に以下の記事を寄稿しました。
- 自衛隊「職務中の死亡事故」はなぜ止まらないのか?4月のヘリ墜落で8人死亡、背後に潜む人災の実態とは
- 航空自衛隊のT-7後継機取得 「官製談合」疑惑が再燃するなか、透明な入札は実現できるのか?
- 率直に言う 陸上自衛隊の戦車は「全廃」すべきだ
- 「石破首相 = 軍事オタク」は本当か? 防衛知識ゼロの他政治家が国を守れるのか? 石破氏を長年知るジャーナリストが“真実”を語る
月刊軍事研究に「ユーロサトリでみた最新MBTの方向性」を寄稿しました。
Japan in Depthに以下の記事を寄稿しました。
European Security & Defenceに寄稿しました。
JGSDF calls for numerous AFVs within Japanese MoD’s largest ever budget request
東京新聞にコメントしました。
兵器向け部品の値段「見積り高めでも通る」 防衛予算増額で受注業者の利益かさ上げ 「ばらまき」と指摘も
東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。
海上自衛隊の潜水艦メーカーは2社も必要あるか川重の裏金問題で注目される潜水艦の実態
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2024年12月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。