労働生産性の国際比較:西欧・北欧・北米

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1. 労働者1人あたりGDPの国際比較

前回までは、ILOのデータベースを基に、189の国・地域での労働生産性について国際順位をご紹介しました。

労働者1人あたりGDPでも、労働時間あたりGDPでも日本は40位台後半で、近年では色々な国に追い抜かれたり、追い上げられたりしている状況のようです。

今回からはもう少し詳細に、各地域ごとに労働生産性の比較をしていきたいと思います。

地域の分け方は外務省の区分をベースとしながら、欧州は西欧・北欧と、東欧・南欧に分けています。また、ロシアなどCIS諸国は欧州の区分になりますが、地域的にも近い中東と合わせて中東・CISとして区分しました。

これらの区分についても、今後ご紹介していきます。

今回は、水準の高い西欧、北欧、北米諸国についてご紹介します。

まずは、労働者1人あたりの最新の順位を見てみましょう。

図1 労働者1人あたりGDP 実質 購買力平価換算値 西欧・北欧・北米 2023年
ILOSTATより

図1が西欧、北欧、北米地域の国々についての労働者1人あたりGDPの国際比較です。

全体的に日本の水準を大きく上回っていますが、ルクセンブルク(23.3万ドル)、アイルランド(23.0万ドル)が突出している様子もわかりますね。

日本(8.0万ドル)の約3倍の水準です。

スイス(13.4万ドル)、アメリカ(13.2万ドル)が続きます。

フランス(10.9万ドル)、ドイツ(10.5万ドル)も高い水準ですが、その間にはノルウェー、ベルギー、デンマークなどの国々もランクインします。

この中ではカナダ(9.5万ドル)やイギリス(9.4万ドル)の水準でも低い方となります。

2. 労働者1人あたりGDPの推移

続いて、西欧・北欧地域の国々の労働者1人あたりGDPの推移を見てみましょう。

図2 労働者1人あたりGDP 実質 購買力平価換算値 西欧・北欧
ILOSTATより

図2が西欧・北欧諸国の労働者1人あたりGDPについての推移です。

概ねほとんどの国では足並みをそろえて上昇している様子がわかりますね。

ルクセンブルクは突出した水準ですが、2000年代後半からやや減少傾向となっています。実質で見ているので、物価上昇による影響などもあるかもしれません。

アイルランドは1991年の時点ではこの地域では中程度の水準でしたが、その後の上昇傾向が大きく、特に2010年代には急激な上昇がありルクセンブルクに近い水準に達しています。

1991年の時点では日本と同程度だったスウェーデン、フィンランドですが、2023年には日本より2割以上高い水準に達しています。

3. 労働時間あたりGDPの国際比較

続いて、もう1つの労働生産性の指標である労働時間あたりGDPについても眺めていきましょう。

図3 労働時間あたりGDP 実質 購買力平価換算値 西欧・北欧・北米 2023年
ILOSTATより

図3が西欧・北欧・北米地域の国々の労働時間あたりGDPについての国際比較です。

日本は41.7ドルですが、全ての国で日本を3割以上上回ります。

G7ではアメリカ(69.7ドル)、ドイツ(68.1ドル)、フランス(67.9ドル)が特に高い水準ですが、ルクセンブルク(146.1ドル)、アイルランド(142.5ドル)以外にもノルウェー、オランダ、デンマーク、スイス、ベルギー、オーストリア、スウェーデンがアメリカを上回ります。

西欧、北欧諸国は平均労働時間が短いため、労働時間あたりだとかなり高い水準となるのが特徴的です。

4. 労働時間あたりGDPの推移

最後に、労働時間あたりGDPの各国の推移を見てみましょう。

図4 労働時間あたりGDP 実質 購買力平価換算値 西欧・北欧
ILOSTATより

図4が西欧・北欧諸国の労働時間あたりGDPの推移です。

やはりルクセンブルクは突出していますが、2000年代後半からやや減少しています。

ただし、労働者1人あたりGDPは減少傾向が続いていたのに対して、労働時間あたりGDPでは140ドル近辺で停滞している状況です。

平均労働時間が短くなっている影響なども考えられそうです。

アイルランドが近年大きく上昇している事と、資源大国でもあるノルウェーが一回り高い水準であること以外は、多くの国で近い水準で推移している事もわかりますね。

基本的には各国で少しずつ上昇傾向が続いている事になります。

日本とは大きく水準が異なっている事も良くわかるのではないでしょうか。

5. 西欧・北欧・北米の労働生産性の特徴

今回は、特に水準の高い西欧・北欧・北米地域の労働生産性についてご紹介しました。

どの国も日本を大きく上回り、労働者1人あたりで見ても、労働時間あたりで見ても非常に高い水準であることがわかりました。

その中でもひときわ水準の高いルクセンブルクとアイルランドですが、ルクセンブルクは2000年代から減少傾向で、逆にアイルランドは急激に上昇傾向となっている点が興味深いですね。

資源大国でもあるノルウェーや、経済水準が高い事で知られるスイスも含め、デンマークやオーストリアなども非常に高い水準に達しているようです。

日本は特に2022年以降円安が進んでいますが、2024年に欧州諸国を回った感触としては、日本と比べると安いものが少なく、生活もやや不便な場合が多いですね。

スーパーマーケットで購入できる食材なども高価だと感じますし、レストランなどで食事すると大変高額になりがちです。レストランで夕食をとると、1人40~80ユーロ(6,000~14000円)くらいにはなります。

生産性や所得水準が高いけど、物価も高いというのは良く言われる事と思います。

ただし、実際のところ感覚としては欧州諸国の物価は高いと思いますが、購買力平価を為替レートで割った物価比率で見ると日本とドイツ、フランスなどはたいして変わりません。

購買力平価が実情をうまく反映できていない可能性もあるかもしれません。

豊かさの感じ方も、日本と欧州諸国では異なるようにも思います。

皆さんはどのように考えますか?


編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2024年12月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。