「あなたの寿命を教えます」と囁かれたたら皆さんどうされますか?それも占い師ではなく、最新のAIが予想すると言われたら、です。
ブルームバーグに「あなたの余命はどのくらいか、AIアプリで探る-老後資金にも影響」という記事があり思わず読み入ってしまったのですが、ブルームバーグなのでビジネスにより密接した観点から記事が書かれているので生命保険会社のビジネス上の情報、年金基金の制度設計などに役に立つのでしょう。医療的見地もありそうです。
一方、本人からすれば自己の財産との兼ね合いが重要になります。多くの方は「何歳まで生きるかわからないからとりあえず節約しなくちゃ」という発想だと思います。自分の財産を死ぬ日までにきれいに使うことはほぼ不可能と言ってよいでしょう。もしもその目安を頂ければより効率的に自分の資産を費消することができるかもしれません。
では質問です。そんな自分の余命テストをしたいでしょうか?
私は嫌です。人生は見えないところに面白みがあるのです。ワクワクもドキドキもしない人生はただ生きているだけです。何歳になっても出会いとかチャレンジとか、刺激があってこそ楽しいと思うのです。
かつての多くの子供たちは親から「良い学校に入り、勉強してよい大学に入り、大きな会社に就職すればあなたの人生は安泰ですよ」と言われたでしょう。あるいは「公務員はいいよ。残業はあまりないし、クビにもならない。定年までストレスも少ない仕事をすればとりあえずお金に困ることはないよ」とも言われたのではないでしょうか?
これは人生をかなり若い時期から固定化し、死ぬまでの枠組みを固めるという発想に近いと思います。いったん枠に入ると枠の外は恐ろしくて出ることは難しくなります。たとえば動物園で飼育し続けた動物を野生に放ったら生きていけるか、という質問と同じです。食べ物を獲ってくる、競合と奪い合いをするという生命保存のダイナミズムに乗れなければ生き延びる確率は低くなります。
さて、寿命の話に戻りますが、人はある程度のlife expectancy(平均余命=どれぐらい生きられるか?)という期待値を持っています。ここで注意したいのは平均ではなく寿命中位年齢(=中央値)で見ることが大切です。平均寿命は病気や事故などで早く亡くなる方も含まれています。それよりも一番多くの方が亡くなる中間値の方が期待値としてはより可能性が高くなります。
日本人の寿命の中央値は男性83.93歳、女性89.96歳です。いわゆる平均と比べおおよそ2.88歳長くなります。では誰でもこの中央値に達成できるかといえばこれがその人が抱えている諸条件によってかなりブレるのであります。その中で結構驚くべき差が生じているのが家族形態です。ある調査によると50歳時点における家族形態ごとの平均寿命は男性の未婚68.2歳、配偶者あり81.2歳、死別87.8歳、女性の未婚84.2歳、配偶者あり78.4歳、死別90.5歳とあります。
これ、正直、統計としてどこまで信用できるのかという疑問がありますが、傾向としては男性の独身はかなり短命、男女とも死別が一番長生きしています。疑問なのは女性の配偶者ありがなぜ未婚より6歳近く短命なのか、これも不思議でコメントできません。
冒頭のブルームバーグが紹介している「AIが教えるあなたの寿命」はThe Death Clockが運営している有料の寿命測定サービスです。現在までに6100万人がサービスを受けたとあります。基本的にAIがその個人情報、国籍、性別、BMI(肥満度体格指数)、性格、アルコールとタバコ、運動やダイエット、ストレスといったエレメント情報から組み合わせ結果を提示するものです。
私はこれにお金を払って試してみたいとは毛頭思わないので、どんな答えが出るのか想像もつきませんが、個人的にはさまざまなエレメントを加味した中央値に近い発想ではないかと思います。というのは個人の既往症や現在治療中の疾病などについて考慮されなけばAIですから平均や中間値以上のもののはないだろうと思うのです。AIは過去のデータをもとに判断しますからこのサービスは個人の疾病など詳細情報に基づいたパーソナルな予見を示すことは社会制度的にできないだろうと推測しています。
ガンで余命〇か月と宣告されると考え方によっては目標値が設定できて楽という意見もあります。あるいは死刑判決が出ている方も同様だと思います。それはそこに至るまでのプロセスを経てその方の一定の覚悟が伴っているからでしょう。どこかで「自分はもうすぐ死ぬのだな」と思い始めているからこそその宣告をある程度しっかり受け止められるのです。
ところが、五体満足の方がこのAI診断を受けて「あなたの余命は〇年」と言われたらその方の人生観は大きく変わるはずです。もちろん前向きになる人ばかりならいいですが、自虐的になる方も当然いらっしゃるわけです。絶望のどん底になり自殺する人もいるかもしれません。
人は健康であれば80歳台後半までは生きるというのが精神論的な期待値なのです。90代まで生きれれば「頑張ったからご褒美だね」であり100歳代は「延長戦だね」ぐらいのものではないでしょうか?
私は100歳まで生きる努力をします。だから運動もするし、食生活にも気を配ります。これでいいのです。私の寿命は教えてくれなくて結構。私の寿命は私しか調整できないのだということを知っていますから。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年12月9日の記事より転載させていただきました。