「お小遣い制」の真の問題点

黒坂岳央です。

「お小遣い制は経済的DV。少子化の原因」という意見が話題になっている。この話題について色んな人がたくさんの意見を出しており、「日本の男性は弱い」「お小遣い制なんて世界でも日本と韓国くらい」といった反応を見せている。

だが「夫の弱い立場が~」といった意見は正直、真の問題ではない。各家庭で話し合いをして納得しているなら、もはや外野が口を挟む話ではなく当人たちからすれば「余計なお世話」としか言いようがないからだ。

目を向けるべきはもっと別の問題だ。

takasuu/iStock

一生収入が増えない

お小遣い制の最大の問題点、それは「収入が一生変わらず低いままになる」ということだ。

お金の最も価値ある使い方は「貯金」ではなく「投資」で間違いない。とはいえ、インデックス投資とか不動産投資をしろというのではなく、何よりも第一優先は単価を高めるためのビジネススキルへの投資だ。過去記事で繰り返し伝えているが、ビジネススキルへの投資は最も確実性、即効性が高いリターンが約束されているフロンティアだ。

資産運用は元手が小さければ大したリターンもなく、複利効果は数十年の経過を待たなければならず、そしてそのリターンも確約されているわけではない。その一方で、ビジネススキルへの投資は「未来の値段」がしっかり見えている。

たとえば簡単な会計仕訳業務をやっていた経理担当者が会計スキルアップをして、税務、連結決算などができるようになれば現在より100万円、200万円くらいはほぼ確実に年収アップして転職ができる。このような労働市場における待遇は募集要項で数字として記載されており、「このスキルはこの価格で取引されている」ということが確実にわかる。

それなら手元の資金を使ってビジネススキルを高めて、単価アップをした方がいい。そしてこれは独立、起業しても同じ話だ。ビジネスというのはスキル勝負なので、スキルが高ければそれだけ単価の高い仕事ができる。人によっては起業資金に当てることで、サラリーマン時代の20倍、30倍の収入になる事例はまったく珍しくない。とにかく手元のお金はドンドン自己投資にまわして収入を増やしたいところである。

ところがお小遣い制で月3万円のやりくりになると、自己投資にかける資金が捻出できなくなる。そうなれば低い単価のまま年を取り、勤務先が倒産した時点で相当に厳しい局面になる。これまで周囲の人間を見てきて、お小遣い制でビジネス収入を増やしていった人物を自分は一人も知らない。

お小遣い制とは「この先も安定的に収入が維持できる」という砂上の楼閣のような極めて脆弱な前提条件の下に作られた戦略なのだ。

金銭感覚がおかしくなる

基本的に何でもそうだが、お金も使えば使うほど熟練して使い方が上手になっていくものだ。

誰しも子どもの時は本当につまらないお金の使い方をしてしまった経験があるだろう。筆者もなけなしのお小遣いであれこれ画策しておもちゃやゲームを買って遊んでいたが、時には後悔するようなお金の使い方をしてしまったこともあった。

そして20代の社会人になると少々余裕を得て、見栄の消費といったなんの価値もない使い方をしてしまう道は誰しもは一度は通る。しかし、歳を重ねるとそうした本質的に無価値な使い方にバカバカしくなっていき、生産的な使い道、活用法を学習していくのだ普通だ。

ところがお小遣い制になるととにかくお金を使わなくなるのでお金を使うスキルが錆びついていく。その結果、待っているのは「節約」ということしか考えられなくなる未来だ。

たとえば年を取るともう友達を新しく作る、ということが難しくなるので人によっては既存の旧友を大事にメンテナンスする、ということもあるはずだ。ところがお小遣い制でお金を自由に使えず、旧友との再会も出費で渋るようになれば完全に孤立していく。

これは人間関係だけに限った話ではない。思い切った自己投資、若い頃にしかできない年齢相応の思い出づくりなどあらゆる活動をケチケチしてしまうと恐ろしいことになる。とりあえず名目上の金額はそこそこあるが、ファイナンシャルリテラシーが低く、人生経験が薄く、大して思い出もない年寄りが出来上がってしまうのだ。

通貨安、インフレ負け

それだけではない。お小遣い制は日本円の通貨安、インフレという局面に極端に弱いという特徴を持つ。これまでの過去30年間はずっとデフレ経済だった。デフレということは通貨高を意味するので、日本国内での運用方法としては余計な投資などせず、投資スキルに優れた人を除けばとにかく貯金が最適解だったということになる。

だが、パンデミック後に時代は変わった。今後は明確にインフレ経済に対応しなければいけなくなったのだ。そうなると10年、20年、人によっては30年スパンで貯金などしてしまえば、貯金のお金の価値は無視できないレベルでどんどん下がっていく。長期的な資産運用で最も価値が減るのが貯金なので最も分の悪い戦略となる。

お金はドンドン自己投資に使ってビジネス単価を高めて、高めた収益性を資産運用にまわす。そして余剰資金をその時にしかできない思い出づくりに使いたいものである。個人的にお小遣い制は「刹那的な安心感」を除けば、何一ついいことがないように思える。そして多くの場合、その安心感は全くの幻影である。

 

■最新刊絶賛発売中!

■Twitterアカウントはこちら→@takeokurosaka

YouTube動画で英語学習ノウハウを配信中!

 

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。