悪夢のような「国民民主との部分連合」と弱体官邸の悲劇

『亡国宰相』というタイトルの連載を『夕刊フジ』にしたうち、今回はその第4回と5回をまとめて加筆して紹介したい。

国民民主党の経済政策は旧民主党以下

自公与党が10月の衆院選で過半数割れしたので、国民民主党との部分連合が必要になったが、国民民主党の経済政策は酷すぎる。旧民主党の悪い意味での継承者だ。

とりあえずは仕方ないが、できれば、来年7月に衆参同時選挙をして解消すべきだ。

公明党は地方選挙では堅調だったのに、衆院選では石破茂総裁(首相)の自民党と組んだために惨敗した。長期的にも少し下降線だが、これは創価学会会員数の微減だけでなく、日本維新の会や国民民主党など中道政党の数が増えたことも理由だ。

大阪などでは、かつて公明党が躍進した原動力となった気分を維新がけっこう採り入れているのでとくにダメージが多かったりしている。

それでも、自民党にとっては、公明党は約束したら確実に協力してくれる頼りになる連立相手だから、絶対に大事にすべきだ。

自公与党の不振は、自民党内の足の引っ張り合いの結果で、団結して選挙に臨めば、過半数回復は難しくない。

それから、3党連立は、小選挙区事情から合理的でない。

先の衆院選で、自民党は公明党に11選挙区だけ譲ったが、それでさえ自民党内の不満は強い。東京で選挙区が増えるのでその分を公明党が望んだが、それすら萩生田都連会長に阻止された。

国民民主党は42人が小選挙区に出馬して11人が勝利し、比例代表でも17人が当選した。もし、国民民主党が連立に加わっても、この28人の現職議員すら一部しか小選挙区を譲ってもらえないだろう。

そうなると、かつての保守党のように、解党して議員は自民党に移るしかなくなる。

新進党の解党以来、自民党が野党から多くの有力議員を移籍させたことは、生え抜きの若手議員の育成にはマイナスだった。

一方で、人材を奪った野党が政権を担える党に成長することを妨害した。総裁選を争った石破茂首相も高市早苗前経済安保相も元新進党議員だが、かれらが野党の指導者として自公と対峙したら、それこそ健全野党で二大政党(ないし連合)制が成立したはずだ。

部分連合では、国民民主党が自民党から支持者を奪っているだけで、野党第1党である立憲民主党の延命を助けている。

石破首相と玉木代表 両党HPより

しかも、衆院選での国民民主党の公約を見ると、所得税と消費税の減税や、ガソリン代や電気代値下げの一方、バラマキ政策も並んでいる。歳出削減は所得や金融資産などの能力に応じた医療費負担増ぐらいだ。

現役世代を助ける方向性はいいが、財源軽視では「悪夢のような民主党政権」の再現にならないか。また、「年収103万円の壁」撤廃は消費税3%分の所得減税になる一方、壁の解消策にはならない。逆に、もっと安上がりな解決法もあり、効率の悪さが顕著だ。

壁をなくすのに減税するのは全くお門違いで手段と目的が一致しない愚劣極まりない提案。103万の壁をなくすなら例えば73万から103万の手取りを減らして103万から133万を手取り増にしたら財源はいらない。アルバイト学生が103万を超えないようにセーブさせないという位しか意味ない目的のために消費税3%引き上げる必要がある税改正をするのには絶対に反対だ。愚劣の極みだ。

公明党の提案もしばしばバラマキと言われるが、一時給付金など1回限りのものが多いし、政策の恩恵が広がりすぎない工夫もしている。維新は支出削減や規制緩和も同時に提案しており、それぞれ責任有る提案になっている。

国民民主党は、経済政策以外ではまっとうなだけに、この経済政策のデタラメは残念だ。自称保守派は、178万円の実現へ向けて国民民主党を応援しているが、もはや無駄遣いでをすることが彼らの経済政策かというレベル。

それでもって積極財政でなければ保守でないとか妄言を振りまいているが、伝統的に保守主義とは健全財政主義をその主張の根幹としており、清和会だって、池田内閣の穏健な積極財政に対抗して健全財政と安定成長を主張したのが出発点なのに、頭がどうかしたかといいたい。

玉木雄一郎代表(役職停止)は、ダボス会議に出席して世界に向けて首相たり得ることをアピールするという。自民党の自称「総裁候補」は見習ってほしい。それだけに、経済政策についての安直な取り組みは遺憾だ。

これでは、自公与党は維新などとの連携に傾斜せざるを得なくなる。

石破茂内閣「官邸が機能していない」~トランプ次期米政権対策として、安倍政権を支えた議員に活躍の場を

「官邸主導」という言葉を、安倍晋三内閣のときには、よく耳にした。世界各国では、大統領や首相の官邸スタッフが政策をつくり、与野党や省庁間の調整にあたっている。

しかし、日本では「省あって国なし」とか「事務次官会議が閣議より重要」という状態だった。また、財務省主計局や自民党税調などが過度に財政的見地から政策に介入し、首相の指導力は弱かった。

さまざまな改善案があって、私は「事務次官廃止論」を唱えていた。安倍内閣の菅義偉官房長官は、逆に内閣人事局の権限を強化して各省庁の次官人事を支配することで、統制した。

安倍内閣は再登板でもあり、気心が知れた経産省出身者などを活用して、「強すぎる」と不満が出るほど強力な官邸が実現した。

ところが、石破茂内閣では「官邸が機能していない」と嘆かれている。石破首相は地方創生相を最後に8年間も政府や党本部を離れていたうえ、石破派も解体したので信頼するスタッフがいない。

赤沢亮正経済再生相が石破首相の側近筆頭だが、官房副長官になればいいものを閣僚ポストの拘り、しかも、口出しはして官房長官や副長官の仕事に介入して中途半端な立場だし、その結果、官房副長官も非力だ。

筆頭秘書官は防衛省出身の槌道(つちみち)明宏氏と、政策秘書でマスコミ対応には定評のある吉村麻央氏で首相の気心は知っているが、永田町や霞ヶ関でのネットワークは貧弱だ。

各省庁からの秘書官は以前からの知己ではないので、顔と名前が一致するにも時間がかかったという。斎藤健などかつて石破派から出ていった議員を呼び戻したり、林芳正官房長官にもっと権限を与えたりしたらと思うが実現しない。

ドナルド・トランプ次期米政権対策としても、安倍政権を支えた議員に活躍の場を与えるべきだ。少額の不記載で自身も比例重複から外れた稲田朋美氏は「みんな不利な条件で選挙をして勝利したのだから、もう区切りとすべきだ」と若い議員を気遣う。

トランプ政権とは太いパイプを持ち、いまこそ活躍すべき西村康稔元経産相は、党の処分が継続しているので「エネルギーなど政策面での活動で輪を広げたい」というが、惜しいことだ。

安倍元首相の妻、昭恵さんの斡旋(あっせん)で、やっとトランプ大統領との会談が実現しそうな石破首相が、挙党態勢に踏み切らないとすれば、虫が良すぎるし、トランプ大統領の不信を買うだろう。

トランプ氏邸宅で面会するトランプ夫妻と昭恵夫人 メラニア氏SNSより

派閥解消も、私は拙速に過ぎたと思う。清和会は、不記載問題の責任の所在を明らかにし、けじめをつけないまま解消したので曖昧になった。むしろ、存続させて、徹底的に不記載継続の経緯について明らかにさせるべきだった。

派閥の完全復活はともかく、他党と同じような党内グループはあっていい。落選した若い政治家の再起を支援するためにも、グループとして行動すべきだと思う。

特に、日本保守党、参政党、国民民主党などに票が流れないための防波堤としても、清和会をはじめとする保守派グループはあった方がいい。