同盟関係の歪み
これは多くの専門家が指摘しているように、日本製鐵のUSスティール買収を阻止することで困るのはアメリカ側だ。
いかにアメリカが世界一の経済力を有していると言っても、外国からの投資を呼び込まなければならない点は、大いにある。アメリカ経済の根幹になっているのが個人消費であるが、その個人消費の呼び水になるのが個人の家計を支える企業の経営資源であり資本の流動性だ。その意味で、外資を取り込むことは強力な下支えとなる。
今回の日本製鐵によるUSスティール買収は、アメリカにとっても非常に大きな意味を持ち、トランプ次期大統領が優先課題とするMAGA(アメリカ第一主義)的なものを保護主義政策と捉える見方もある一方で、アメリカ経済のかつての基幹産業であった製造業を呼び覚ます意味でも、非常に大きい。
アメリカの基幹産業の元気を取り戻す為に同盟国の支援を取り付けることを是とすることについての抵抗感は、今のアメリカにはない。むしろ、USスティール側も、労働者も、外資を取り込むことに肯定的な中で、大統領が何をもって安全保障条の懸念となるのかも説明しないまま、今回の買収阻止を打ち出したのは、アメリカにとっても良い選択肢ではなかったと言える。
多くの識者が、2年余りにわたって協議が進められ、USスティールの日本企業による買収が市場や安全保障上の影響について明確な答えが出せないまま、大統領に一任され買収阻止が決定したことは、民主党の票田である全米鉄鋼労働組合(USW)との関係性で決定されたと見るべきで、買収に向けて動いていた日本製鐵が大統領とUSWを提訴したことは当然だ。
USWは、日本製鐵がUSスティールを買収したことによって、世界一の製鉄企業が誕生することで、アメリカ国内の労組加盟組織への賃上げ圧力の高まりや労働者がUSスティール関連企業に集中することを防ぎたかったのだろう。労働組合でありながら賃上げを阻止したいというのは、闇雲な賃上げによる経営圧力は結果的に組合内部のパワーバランスが偏向することを意味する。
民主党にとっての大票田であるUSWの意向は、日本の連合と立憲民主党の関係に近い。連合の意向が立憲民主党の政策に大きく影響するように、USWの意向は民主党に大きな影響を与えている。
バイデン大統領はトランプ次期大統領への置き土産としてUSスティール買収阻止を行ったが、前回の拙稿でも触れたように、これはトランプ次期大統領が日本との交渉に際しての材料を与えたことになる。
日本製鐵がUSスティール側と組んで大統領とUSW相手に訴訟を起こしたとしても、法的には勝ち目が無いだろうというのが専門家の見方で、バイデン大統領も法的に問題が無いと踏んで買収阻止を決定した。法的に問題が無いとなれば、残る道はトップ同士の交渉ということになる。
では、石破茂がトランプ次期大統領と交渉するだけの力量があるだろうか?
今回のUSスティール問題の本質は、石破茂が宰相としての力量不足が露呈しただけに過ぎないのだ。それは自民党が脆弱化したと見ることも出来る。石破茂ごときを選ばなければいけない自民党は、経済の視点でも外交の視点でも、まるで分かっていないことを表している。
石破茂はただ自分が総理総裁になりたい「だけ」の無能だが、総理総裁など神輿だと見れば、石破茂を利用する自民党と日本政府のインテリジェンスが弱いからこそ、今回のUSスティール問題のようなことが起きた時、ただ狼狽えることしか出来ない。石破茂に至っては、安全保障上の問題とは意味が分からないという程度のコメントしか出せない。
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以後、
・アメリカと日本のインテリジェンスの差
・お金儲けさせてくれる人に人望は集まる
続きはnoteにて(倉沢良弦の「ニュースの裏側」)。