私たちは日々、言葉を紡いで生きている。しかし、自分の思いをうまく言語化できずに、もどかしさを感じている人も多いのではないだろうか。
本書は、コピーライターとして数々の賞を受賞し、現在は日本とオランダを拠点にクリエイティブ活動を行なっている著者が、言葉を紡ぐ楽しさを解説している作品である。
「ハッとする言葉の紡ぎ方 コピーライターが教える31の理論」(堤藤成 著)祥伝社
[本書の評価]★★★★(80点)
【評価のレべリング】※ 標準点(合格点)を60点に設定。
★★★★★「レベル5!家宝として置いておきたい本」90点~100点
★★★★ 「レベル4!期待を大きく上回った本」80点~90点未満
★★★ 「レベル3!期待を裏切らない本」70点~80点未満
★★ 「レベル2!読んでも損は無い本」60点~70点未満
★ 「レベル1!評価が難しい本」50点~60点未満
「桃太郎」理論
物語はストーリーと無数のナラティブに分かれるエッセイ的に視点を紡いでいくこと。それは、自分の「物語」を紡ぐことかもしれない。著者は次のように言う。
「『物語を紡ぐ』なんて書くと、いきなりハードルが高く感じられるかもしれません。ですが、物語には2種類あります。『ストーリー』と『ナラティブ』です。いわゆる『ストーリー『とは、 起承転結やあらすじなどの「客観的」な構成要素です。これは一般的に浸透しているし、理解しやすいと思います」(著者)
「対する『ナラティブ』とは、それぞれの個人の視点から語られる『主観的』なものです。 それは、『ナレーター』の語源でもあります。 ナレーターも、ある視点から物事の様子を語っていきます。『自分の物語を紡ぐ』とは、自分の生きてきた人生や、今やりたいことをあなたの視点でまさにナラティブで語ることなのです」(同)
さらに、著者は次のように続ける。
「例えば、『とある親子が、花火を見に出かけた。会場となる河川敷に向かう途中、父は息子を肩車した』。これは、単に起きた出来事を客観的にストーリーとして語っている文章です。しかしこの客観的なストーリーを、父親目線のナラティブで語るとこうなります」(著者)
「あれは息子が小学1年生になった年だった。花火を見たいという息子を連れ、会場に向かった。会場となる駅で降りると、想像した以上の人混み。ゾロゾロとした行列で少しずつしか前に進まず、なかなか会場まで辿り着けない。 もうすぐ花火が上がる時間だ。焦ってスマートフォンで時刻を確認する。ドッカーン! パラパラパラパラ・・・略」(同)
こころの言葉を紡ぐ
世の中には多くの文章術本が存在する。「言葉の紡ぎ方」に焦点を当て、内面を深く洞察する視点は興味深く、ほかにない視点なので評価できる。自分のルーツを探り、子供ころから、どのように考えて育ってきたかを考える自己分析も興味深い。しかし、やりすぎると何のアウトプットでもできないことがあるので程度の問題ではないかと思う。
自己分析とは、過去の経験や出来事から価値観などを整理し、志向タイプをはっきりさせることである。初めての人には新鮮に映るが、「自己分析で見つけた強み」という思い込みは誇大妄想になりかねない。誰もが実績として認めて数値化できるようなものでない限り、他者と一線を画するほどのオリジナリティーにあふれていることはない。
「言葉を紡ぐことは思考を紡ぎ、行動を紡ぎ、習慣を紡ぎ、人格を紡ぎ、運命を紡ぐ」と著者は言う。著者の経験や古今東西の名コピーとともに解説する31の理論を読めば、運命を切り開くあなただけの言葉が見つかるかも知れない。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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2年振りに22冊目の本を出版しました。
「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)