原子力エネルギー巡る2件のニュース:世界的に復活を遂げる原子力

原子力エネルギーに関して2件のニュースが16日送られてきた。先ず、原子力エネルギーに関してグットニュースは、パリに本部を置く国際エネルギー機関(IEA)からだ。それによると、電力需要の増加を背景に、原子力エネルギーが世界的に復活を遂げる見通しだという。原子力への関心は1970年代のオイルショック以来の高まりを見せており、40以上の国が原子力の拡大を目指している。IEAは、2025年には世界の原子力発電量が新たな記録を更新すると予測している。

ドイツの脱原発を主導したハベック経済相(右)、独公営放送「ドイチュランドフンク」2023年2月16日から

もう一つのニュースはドイツから届いた。ドイツは2023年4月、原子力発電所の運転を完全に終了したが、脱原発決定のプロセスで情報公開の問題があったという疑惑に対し、ショルツ首相とハベック経済相は16日、調査委員会でその経緯を説明する羽目となったというのだ。脱原発を主導したショルツ政権のハベック経済相(副首相兼任)は昨年4月26日、原子力発電所(原発)の廃止を決定するために恣意的に情報操作していた疑いから、連邦議会の「気候保護とエネルギー問題に関する特別委員会」の会合に呼ばれ、野党側の質疑に答えなければならなかった経緯がある。

パリ発のIEAの情報とベルリンから発信されたニュースは原子力エネルギーの平和利用という観点から見ると好対照だ。IEAは、世界的なエネルギー需要の増加と気候変動対策の必要性を背景に、原子力発電が重要な役割を果たす可能性が高まってきたという一方、ドイツは先進工業国では先駆けて脱原発を実行したのだ。ドイツ政府が進めたエネルギー転換政策(Energiewende)は、再生可能エネルギーへの移行を目指したものであり、原子力発電からの撤退はその中心的な施策だった。しかし、エネルギー価格の高騰もあって、ドイツの国民経済は2年連続リセッション(景気後退)に陥り、エネルギー供給の安定性や経済的な影響をめぐる議論が国内で依然続いている。

IEAによると、電気自動車、人工知能、データーセンターなどは莫大な電力を必要とすることから、世界のエネルギー需要は年々増加してきた。それを受け、原子力発電が世界的に復活してきている。ウィ―ンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)は「原子力エネルギーのルネッサンスを迎えてきた」と述べているほどだ。

40カ国以上が原子力発電の拡大を目指し、約420基の原子炉から生産される原子力発電量は今年、新たな生産記録を達成すると予想されている。日本では原子力発電が再開され、フランスでは原子炉のメンテナンスが完了、新たな原子炉が中国、インド、韓国、ヨーロッパをはじめとする各地で稼働している。IEAは、2025年の原子力発電量を約2,900テラワット時(TWh)と予測しており、これは全電力生産の約10%を占めることになる(2023年には2,742TWh、2024年には暫定的に2,843TWhが生産された)。ちなみに、原子力発電は水力発電に次いで二酸化炭素排出の少ない電力源として第二位の地位を占めている。

原発開発では問題もある。IEAは原子力発電の拡大が中国とロシアの技術やウランといった資源に大きく依存しているため、将来的な依存リスクを伴うと指摘している。2011年に発生した日本の福島原発事故後、原子力発電は一時的に後退したが、現在の発展を主導しているのは中国だ。2017年以降、世界で建設が始まった52基の原子炉のうち、25基が中国製だ。さらに、インド、トルコ、エジプト、ロシア、イギリス、韓国などでも新たな原子炉の計画や建設が進んでいる。アメリカやフランスなどの伝統的な原子力発電国は、原子力発電所の近代化の遅れやコスト増に直面している。原子力発電は従来から政府の資金援助に依存してきたが、IEAは原子力発電の迅速な拡大には民間投資家の参加が求められると指摘している。

一方、ドイツの脱原発路線は2000年代初頭の社会民主党(SPD)と「緑の党」の最初の連合政権下で始まり、CDU/CSU主導のメルケル政権に引き継がれていった。その後、メルケル首相率いる連立政権が2009年、原子炉の稼働期間を大幅に延長したが、2011年の日本・福島での原発事故を受けて政策が転換され、撤退が加速した。そして社会民主党(SPD)、「緑の党」、「自由民主党」(FDP)の3党から成るショルツ連立政権は2021年12月、政権発足直後、「再生可能なエネルギーからより多くのエネルギーを生成する国になる」と表明し、その課題を「巨大な使命」と呼んできた。

ドイツでは2022年にロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機が迫っているにもかかわらず、SPDと「緑の党」は原発操業の延長には強く反対する一方、産業界を支持基盤とする自由民主党(FDP)は3基の原発の23年以降の操業を主張し、3党の間で熾烈な議論が続けられてきたが、最終的に2023年4月15日、最後の原子力発電所が停止された。
70%以上がロシア産エネルギーに依存してきたドイツの産業界は脱原発、再生可能なエネルギーへの転換を強いられ、ショルツ政権が推進するグリーン政策に伴うコストアップと競争力の低下に悩まされてきた。

参考までに、ドイツと同じように脱原発政策を推進してきたのはスイスだ。同国では2011年の福島事故後、2017年の国民投票で原子力廃止が決定された。既存の原発は安全である限り稼働を続けるが、新設は禁じられている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年1月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。