欧州最大のカトリック教国、フランスで1950年から2020年の70年間、少なくとも3000人の聖職者、神父、修道院関係者が約21万6000人の未成年者への性的虐待を行っていたことが明らかになった。教会関連内の施設で、学校教師、寄宿舎関係者や一般信者による性犯罪件数を加えると、被害者総数は約33万人に上るという。フランス教会の聖職者の未成年者への性的犯罪件数の数字に驚かされた。そして今、米国のカトリック教会が過去20年間、聖職者の性的虐待事件に関連して約50億㌦の賠償金を支払ってきたという。ジョージタウン大学の「応用使徒職研究センター(CARA)」が最近発表した研究結果によるものだ。
50億㌦の金額には、被害者への賠償金、法的費用、治療やカウンセリングのための費用、さらには予防措置や研修の費用が含まれる。その中でも最大の割合は被害者への賠償金であり、次いで弁護士費用や裁判費用などの法的・防御費用が続く。総費用の約4分の1は保険によって賄われたというのだ。
CARAの研究によれば、2004年から2023年の調査期間中、合計15,000件の信憑性のある告発が報告された。聖職者による虐待事件の80%は1990年以前の数十年間に発生しており、1970年代にピークを迎えた。2000年以降に発生した事件はわずか3%に過ぎない。被害者の5人に4人は少年であり、被害を受けた当時の年齢は半数以上が10歳から14歳、約5分の1が9歳以下だったという。
研究によると、告発件数は合計4,490人の加害者に対して行われ、そのうち95%が神父、4%が修道会や霊的共同体の男性、1%が助祭だった。86%の加害者は、虐待が報告された時点ですでに死亡していたり、聖職を解かれていたり、現役を退いており、そのため司法手続きが難航するケースが多かった。さらに多くの加害者が複数の被害者を持っていた。
また、教会関連機関は2004年以降、性的虐待防止のために総額7億2,799万4,390ドルを費やしており、そのうちの5分の4が過去10年間に支出された。CARAの研究によれば、未成年者への性的虐待に対する取り組みでこれほど高額を費やした非政府組織は他にないという。以上、カトリック通信(KNA)の報道に基づく。
ところで、米教会がどこから性犯罪の犠牲者への賠償金50億ドルを工面したのだろうか。20年間、50億㌦といえば、年間約2億5000万㌦だ。信者の献金には感謝献金やペテロ献金などその目的、対象こそ異なるが神への喜捨だ。その献金で教会側は聖職者の生活活動や関連施設の運営を行ってきた。信者が働いてきた給料の一部を教会側に献金する場合、この献金が神の御心に基づいて使用されることを願うものだ。聖職者が未成年者への性的虐待を犯した時の犠牲者への賠償金に使われるとは考えもしないだろう。事前に分っていたら、多くの平信者は教会に献金することを躊躇するだろう。
米教会の中には、聖職者の性犯罪への賠償金を支払うことが出来ずに破産宣言した教会も出てきている。訴訟大国・米国では未成年者への性犯罪への賠償金も他の国のそれより数段高額だ。教会側は教会所有の不動産を売って資金を集めるケースも出てきているほどだ。
例えば、ドイツ教会の場合だ。ある男性が子供の頃、神父から長年にわたって性的暴行を受けていたとドイツのトリーア司教区を相手取って訴訟を起こした。彼の求めた慰謝料は30万ユーロだ。それに対し、トリーア地方裁判所は犯罪行為が数十年前のものであり、時効が成立しているとして賠償を認めなかった。原告の男性は、トリーア近郊ロンギヒで学校に通っていた子供の頃に、神父から長期間にわたり性的暴行を受けたと主張している。男性(1961年生まれ)は「その体験で深刻なダメージを受けた、その影響は学業や職業訓練における学習障害、結婚生活の破綻、身体的および精神的な深刻な影響、さらには自殺未遂にまで及んだというのだ。
それに対し、トリーア司教区は、2024年7月2日のアーヘン地方裁判所の類似判決を基に時効を主張した。同司教区の広報担当者によると、訴状で提起された主張に対しては「知り得ない」として反論し、告発された神父に対する他の苦情や非難が確認されていない点を強調。また、神父の人事記録にも性的虐待に関する不正行為の証拠は見つからなかったという。
地元の被害者支援団体「Missbit」は地方裁判所の判決をコブレンツ高等裁判所に提訴する意向を示した。問題となっている犯罪行為は50年以上前だが、「カトリック教会の立場、特に聖職者が無限の信頼を享受していたこと、そして隠蔽や妨害行為があったため、成功する訴訟は2010年以降に初めて可能になった」と述べ、被害者の請求権はまだ時効にかかっていないとの見解を示している。
聖職者の性犯罪の犠牲者にとって、裁判で争って賠償金を得るためには、教会側の隠蔽、告解の守備義務(Sealof Confession)、そして時効の壁といったように、多くのハードルがある。もちろん、教会側の事件の全容解明への協力が欠かせられないことは言うまでもない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年1月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。