たかまつななさんのX投稿が1200万インプレッションを集めて炎上している。3000件以上のコメントがついたが、その99%が否定的だった。
標準報酬月額の引き上げは「逆進性」の解消に必要
批判は前半の「高所得者の厚生年金保険料上げ」に集中しているが、これは誤解である。厚生年金の標準報酬月額は報酬比例が原則だが、上限が63.5万円で、それ以上はいくら所得が多くても保険料が同じになっているため逆進的になっている。
標準報酬月額(厚労省の資料)
これについては「保険料が7倍になっても年金受給額は1.5倍ぐらいで不公平だ」という不満が強く、65万円以上は同じ標準報酬月額になっていた。今回はこれを是正し、健康保険料と同じにするものだ。これ自体は年金保険料が事実上の所得税であることを考えると、やむをえない。
本丸は「マクロ経済スライド」の調整期間の一致
問題は、これから高齢化で年金受給額が減ることだ。その影響は低所得者ほど大きく、受給額の目減りが激しい。特に国民年金は34%も減るため、これをどうするかが今回の改正のテーマだった。
年金受給額の予想(週刊エコノミスト)
この最大の原因は高齢化で国民年金の加入者が減ると同時に受給者が増えることだが、もう一つはマクロ経済スライドである。これは年金支給額を徐々に減額して保険料と均衡させるものだが、今回の法案では厚生年金と基礎年金の調整期間を一致させて基礎年金の底上げをはかる。
厚生年金の減額が2026年までなのに対して基礎年金は2057年まで減額が続いて3割以上減るので、調整の終了時期を両方とも2036年とし、厚生年金の支給額を減らして基礎年金を増やす。
たぶんこの説明で理解できる人は、ほとんどいないだろう。たかまつさんもわからなかったようでほとんど言及していないが、これは厚生年金保険料や積立金を基礎年金に流用するものだ。これは2階建ての年金制度を実質的に1階建てに改築する大改正である。おかげで厚生年金の積立金125兆円も、2036年までになくなる見通しだ。
現役世代から高齢者への125兆円以上の「上納金」
つまりこのわかりにくい改正案は、現役世代から高齢者への125兆円以上の上納金なのだ。これは本来の制度設計になかったので、今度の法案では「積立金の基礎年金への拠出」を明記する。この見通しは年金財政検証の楽観的な見通しにもとづいているので、予測がはずれて減額幅は大きくなるおそれが強いが、たかまつさんはそんな心配はないという。
年金で今後一番困るのは、厚生年金に入っていなく、低年金で生活をしなくてはいけない人たちになると思います。人生100年時代。長生きしても安心して生きていけるように、厚生年金に入れる人はできるだけ入って、事業者にも協力してもらい、自分の保険料をあげた方がいいと思います。
年金は積立方式ではなくネズミ講
彼女は「たくさん保険料を払ったらたくさん年金がもらえる」という積立金のようなイメージをもっているが、これは錯覚である。日本の公的年金は賦課方式(pay-as-you-go)つまり今年の年金は今年の保険料で使ってしまうので、払った年金は返ってこないのだ。
これは保険ではなくネズミ講で、たかまつさんが親の世代に上納した保険料は、子の世代から上納してもらい、子は孫から…というしくみだ。これは子供がネズミ算式に増えた高度成長期にはうまく行ったが、子ネズミが親ネズミより少なくなると行き詰まってしまう。
「そうは言っても今さら賦課方式をやめるわけには行かない」と年金官僚や年金部会の「有識者」は言っただろうが、それは今の年金の枠組の中での話だ。少なくとも基礎年金については消費税で置き換える最低保障年金という提案が15年前からある。
日本の公的年金は制度として破綻しており、このままでは将来世代の負担は(政府債務を含めて)際限なく大きくなる。たかまつさんの世代が歯止めをかけないと現役世代の負担は果てしなく大きくなり、社会保障の破綻で日本は終わってしまう。