国民民主党が最低保障年金を提案しました。これは民主党政権が提案してつぶれ、3年前にも自民党総裁選挙で河野太郎さんが提案したものです。しくみはとてもシンプルなものです。(2021年9月24日の記事の修正版)
Q. 最低保障年金って何ですか?
この中身は2009年に河野さんや(当時の民主党政権の)枝野幸男さんや岡田克也さんなど超党派の議員が提案したものとほぼ同じで、しくみはシンプルです。今の年金は次の図の左側のように2階建ての年金の1階部分(基礎年金)の半分が税金ですが、右側の最低保障年金は、基礎年金はすべて税金(消費税)でまかなうものです。
Q. 今の制度にはどんな問題があるんですか?
今の国民年金は誰でも年額約20万円ですから、年収100万円の人にとっては20%の重い負担ですが、年収1000万円の人にとっては2%で、大した問題ではありません。つまり国民年金保険料は超逆進的なのです。
また未納率が4割を超え、無年金者がたくさん出ています。こういう人は生活保護を受けるしかありませんが、生活保護の受給額は国民年金の2倍です。保険料をはらわないで政府からお金をもらう「ただ乗り」が増えると、社会保障が崩壊してしまいます。
Q. 厚生労働省は「100年安心」といっていますが?
超高齢化で社会保険料はどんどん増えています。今はお年寄り1人の年金を現役世代2人が負担していますが、2050年にはお年寄り1人に対して現役1人になり、サラリーマンの負担は今の2倍になります。
この負担を減らすために支給額を下げると、お年寄りの生活保障ができなくなります。「100年安心」というのは年金財政が100年破綻しないという意味で、みなさんの老後の生活は破綻するのです。
Q. 最低保障年金で何がよくなるんですか?
1階部分はすべて税金ですから、保険料をはらった人もはらわない人も同じ額を受け取れます。たとえば今の国民年金と同じ月額6万5000円を保障すれば、だれも損しないで、生活保護などの非効率な制度をへらすことができます。
この財源は消費税ですから、お年寄りも負担します。高齢化が進んでも負担と受給の関係は同じなので、現役世代の負担は増えず、同じ支給額をずっと保障できます。
Q. 国民の負担は増えるんでしょうか?
基礎年金(国民年金と厚生年金の1階部分)は約25.6兆円の財源が必要ですが、消費税収は23.8兆円ですから、ほとんど増税の必要はありません。タバコ税やガソリン税などを加えてもいい。その代わり国民年金保険料はなくなります。
負担は今もはらっている消費税だけで、経済全体としては同じです。消費税の年間負担額はひとり37万円で国民年金保険料の20万円より高いので、お金持ちは今よりたくさん払うことになりますが、年間の消費税額が20万円以下(年収300万円以下)の低所得者には減税になるのです。
Q. 東京では毎月6万5000円で最低限度の生活はできないと思いますが?
年金支給額を月額10万円にすることはできますが、この場合は消費税率は20%になります。これはEUの付加価値税(VAT)と同じぐらいで、それほど非常識な率ではありません。負担と給付の関係がわかりやすいので、EUではVATは公平な税として広く支持されています。
Q. 今まで保険料をはらった人もはらわなかった人も同じ金額の年金をもらうのは不公平ではありませんか?
そう思う人が多いでしょうが、今は4割以上の人が年金未納者で、その多くが国民年金の2倍の生活保護(医療費は無制限)をもらえます。今の年金制度をほっておくと、保険料をはらわなかったお年寄りの生活保護費が今の5倍以上になります。財政が破綻しないように生活保護の審査をきびしくすると、お年寄りの生活が破綻します。
Q. 保険料をはらわなくても年金がもらえると決まったら、保険料をはらわない人がふえませんか?
一時的には、そういう問題は避けられません。これは実施までの時間を短くし、不払いに罰則をもうけるなどの方法を考えないといけないでしょう。
Q. お年寄りが今まではらった年金はなくなるんですか?
年金受給権には財産権が認められています。最低保障年金の支給額が国民年金より低いと財産権の侵害になりますが、支給額を同じにすれば問題ないでしょう。
ただし「過去に払った保険料を返せ」という国家賠償訴訟が起こる可能性もあります。オランダのように40年かけて返す国もありますが、これは法律で「払った保険料は返さない」と決めてもいいと思います。保険料を税に変えることで、今後の国民年金の赤字がなくなるからです。
Q. 2階部分はどうするんですか?
これは今の厚生年金の2階部分と同じです。2009年の提案では積立方式に変えることになっていますが、これはもっと大変なので、一度にやらないほうがいいでしょう。
Q. この最低保障はお年寄りだけですが、若い人はどうするんですか?
それは残された問題です。若い人まで一律に毎年75万円を保障するベーシックインカムにすると、95兆円という莫大な財源が必要になるので、消費税だけではまかなえません。その場合も基礎年金を税に置き換える必要があるので、この提案はベーシックインカムの第一歩です。