スペイン・バレンシアを襲った歴史的洪水被害

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75の自治体を襲った洪水

昨年10月29日から30日にかけてバレンシア県の75の自治体を襲った洪水で、219名の死者が出たとされている。しかし、実際にはその数を上回る可能性が高い。行方不明者の数から推測すると、実際の死者数はさらに多いと考えられるが、遺体が見つからない限り正式に死者として数えられないという事情がある。

氾濫した水により流された車や、水が浸入して使用不能となり廃車となった車の数は約13万台とされている。スペインでは車は人々の生活における「足」に等しい存在である。多くの通勤者が車を利用しており、日常生活でも移動に欠かせない。その結果、公共交通機関を利用して通勤する必要が生じ、通勤時間が大幅に増加した。また、仕事仲間と車を共有するケースが増えた一方で、交通手段が確保できず仕事を辞めざるを得なくなった人もいる。

スペインで年間に廃車として処理される車は60万台から70万台とされているが、今回の洪水ではわずか2日間でその18~20%に相当する台数が廃車となった。

筆者が在住する自治体からバレンシア市へ向かう際に通過する隣接自治体(人口2万人)の工場団地では、空きスペースに廃車が山積みされており、目測で約1000台にのぼる。

今回の洪水では、54箇所の工場団地が被害を受け、6000~6500社が損害を被った。中には、設置したばかりの機械が水に浸かり、使用不能となった工場もある。貯蔵していた原材料はほとんどが廃棄を余儀なくされ、壁面は水の侵入により乾燥処理が必要となった。さらに、倉庫に保管されていた品物が水に浸かり、異臭を放つようになり、清掃作業員の健康を害する事例も発生している。

住宅に関しては、約6万1000戸が全損または一部損壊となっている。

学校では当初、約1万6000人の生徒が通学できない状況に陥った。校舎が授業に適さない状態であることに加え、教師自身が被災して通勤できないという問題もあった。そのため、近隣の被災を免れた学校に一時的に転校させる措置が取られた。しかし、交通手段が限られていたため、通学できず自宅待機を余儀なくされる生徒も多く見られた。

援助金の支給問題

スペイン政府やバレンシア州政府は、被災者への援助金を迅速に発表した。しかし、実際にその資金が被災者に届くまでの道のりは長い。

スペインではよくあることだが、予算が議会で承認されない限り、義援金が支給されない。2025年の国家予算がまだ決まっておらず、与党は野党第1党に予算案の早期承認を迫る形で被災者支援を政治利用している。

一方、バレンシアで1970年代に創業し、現在スペイン最大のスーパーマーケットチェーンとなったメルカドナ(Mercadona)は、被災した従業員に対して即時の義援金支給を実行した。支給額は以下の通り:

  • 住宅の全損:5万ユーロ
  • 一部損壊:2万5000ユーロ
  • 家具の損失:5000ユーロ
  • 車両:1万5000ユーロ
  • オートバイ:5000ユーロ
  • ハンドル付きスケートまたは自転車:500ユーロ

例えば、家が全損した従業員の場合、WhatsAppで写真を送付したところ、わずか3時間後には口座に5万ユーロが振り込まれていたという(1月2日付「Esdiario」より引用)。

バレンシアの大聖堂で行われた合同葬儀の際、多くの政治家が市民から批判され、野次を浴びせられる場面もあった。今回の洪水被害をめぐり、対応の不備を理由に辞任した政治家は一人もいない。

一方で、メルカドナ創業者のフアン・ロッチ氏が大聖堂に入場する際、多くの市民から拍手で迎えられた。