事務職がオワコンになった理由

黒坂岳央です。

「大卒は約4割増え、高卒は7割減少」。誰しも大学進学をするようになったことにより、卒業後の職業選択にも変化が起きている。

製造や建設業界の人手不足が起きているにも関わらず、事務職は人気で限られた枠への応募が続いている状況だ。

システムエンジニアや弁護士、金融関係や広告、コンサルといった高付加価値、高度技能が求められる仕事や大企業の専門性の高いデスクワークは今後も残る可能性は高い。

その一方で、中小零細企業で簡単なワード、エクセル操作程度のそれほど高いスキルが求められない一般事務への就職は、今後は更にオワコン化が進むことはあれど、その逆はないだろうというのが筆者の考えである。

※以下「事務職」という言葉は事務職の全てを指すのではなく、あくまで高度技能や、大企業のオペレーショナル・エクセレンスに基づくデスクワークに該当しない「簡単なデスクワーク」という意味合いだ。その前提で読み進めてもらいたい。

※事務職を否定する意図はなく、あくまで現況を主観的に言語化したものに過ぎない。

andrei_r/iStock

事務職で起きているミスマッチ

冒頭で述べた通り、事務職は人余りの状態が続いている。

厚生労働省の「職業安定業務統計」によると、2023年の平均有効求人倍率は1.31倍で人手不足と言える。一方で同調査における事務職の有効求人倍率は0.45倍だ。これは、求職者1人に対して0.45件の求人しかおらず、事務職が人余りの状態であることを意味する。

「事務職は人余り」というのは我が国に限定した話ではない。韓国、中国の若者、大卒者はいずれもホワイトカラー志向が強く、物流、卸売り、小売り、製造業の現場で人手不足が起きている。

今後、後継者不足、インフレへの対応が出来ず、中小企業の淘汰が進む。

また大企業や一人社長、フリーランサーでも事務や秘書業務をAIに任せるところが増える。加えて、ソロプレナーと呼ばれ、従業員を抱えない起業が注目されている。このように事務職の枠は確実に減少していく。そしてそれは事務職を希望する人口の減少より遥かに早い。

実際、筆者は以前まで人に任せていた一部の業務を、丸ごとAIで代替できるようになった。会計ソフトを新しいものに替えると、ほぼ全自動で正しく仕訳をしてくれる。

こうしたテクノロジーの進化により、これまで人件費に使っていたコストが丸ごと利益になるのはありがたいことだ。しかし、同時に恐ろしいことが起きていると感じる。

今後、日本企業が全体的に本気でAIを駆使しだしたら、働いていた人たちは丸ごとお役御免になることを意味するからだ。

今後の「事務職キャリア」は非常に厳しい

以上の状況を踏まえると事務職でキャリアを作っていく道は、かなり厳しいと言わざるを得ない。

仮にいい会社で事務職を見つけたとしても、一度失業してしまえば、極度の人余りで転職先探しも難航することは確実だ。条件の良い会社によっては10倍以上の倍率で、しかもライバルはデスクワークを求める若手と限られた椅子を争うことになるためだ。

さらに労働条件も決していいものではない。昨今、現場労働者の人手不足がさらに深刻化すれば、賃上げせざるを得ない。そうなると人余り状態の事務職は相対的に薄給のまま、という構図ができる。

企業からすると事務職は募集すれば代わりがいくらでも応募してきて、さらに派遣社員やクラウドソーシングでも代用が可能、今後はAIの進化で出番は更に減る。こうしたマクロ環境により、事務職の待遇を良くするインセンティブがまったく働かない。

思考の転換が必要な時

ここまでの内容を読むと、あたかも悲観論であるように感じられたかもしれない。しかし、言いたいことはそうではない。「時代は変わった。変化に応じて感覚の転換が必要な時がやってきた」といいたいのである。

かつて、19世紀のイギリスでは産業革命によって手工業者が機械化することに反発し、工場を襲撃する「ラッダイト運動」が起こった。しかし、今は誰もが機械化された工場製品で便利な生活を送っている。

事務職も同じ構図と考えている。すでに事務職は限られたニーズを満たしており、テクノロジーの進化で今後の需要はドンドン先細りするだけだ。ここで発想を変え、今の時代に真に求められている仕事へ柔軟にシフトすることが必要ではないだろうか?

事務職はオワコンになり、モラトリアムに数百万円をかけて事務職に就く前提の大学進学もなくなり、再び中卒、高卒が再び金の卵になる日もそう遠くないかもしれない。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。