DeepSeek を Deep Think してみよう:無名の中国企業が圧倒的注目を集めたわけ

1月27日を「DeepSeekショック」と呼ぶのでしょう。孫正義氏らが立ち上げたスターゲート プロジェクト発表からわずか1週間、驚異的なコストパフォーマンスを見せるDeepSeekがR1モデルを発表、この無名の中国の会社のAIが圧倒的注目を浴び、世界のAI従事者を脅かせたというわけです。

DeepSeek 創設者の梁文峰氏

驚くべきことはDeepSeek社の創業者、梁文鋒氏はわずか40歳、そして同社を立ち上げたのは2023年。早いペースで新モデルを次々に公開し、今回のR1は7番目のモデルになります。わずか120人程度の従業員ながらも相当ハイレベルな能力を持った人材を集めているようです。またアメリカ発のAIが月に100-200㌦程度の課金方式に対してR1モデルは現時点ではまだ無料であります。

能力的にはChatGPT01と大差ないとされています。あくまでも先方のデータや情報がベースであり、この発表を受けてアメリカをはじめ世界のAI研究者がものすごい勢いで同AIの分析を行っており、そのうちに様々な評価が出てくると思います。ただ、現時点ではオープンAIのサム アルトマン氏はその能力を素直に認めています。(私も登録しようとしましたが地域的にダメと出ました。)

今回のDeepSeekショックがもたらしたポイントは2つあると思います。1つはアメリカで開発するAIり2桁も少ない費用で本当に開発できたのか、もう一つは中国にそれだけの能力があり、これが世界に瞬時に広がるならAI開発競争は今後どのような展開になるのか、であります。

まずコストの点ですが、DeepSeekはオープンソースです。多分現時点では中国源流のオープンソースではないかと思います。梁氏はヘッジファンドの会社の子会社でアルゴリズムトレーディングをしている企業なので無関係とは言いませんが、なぜこのような高性能なAIを開発できたかであります。思うところ、確かに直接コストはアメリカで開発するそれの20分の1といったレベルかもしれませんが、オープンソースが何を物語るのかという気がします。

AI開発のコストがかさむ部分は学習プロセスにあるとされます。例えていうなら学習塾でひたすら勉強するのなら塾代がかかります。ところがDeepSeekは着眼を変え、自分で考える自己進化型を取っているとされます。つまり家で独学で勉強するので塾代がかからないということでしょう。もしもこれが本当ならこれはアメリカのAI研究者には厳しいパンチだと思いますが、金食い虫でAI事業がなかなか収益化できないとされてきたことを考えれば「現状打破への大いなる刺激」とも言えます。

次に中国発の名もなき会社のAI開発は今後どのような影響を与えるかです。もっともありそうなのがまずDeepSeekの否定でしょう。アメリカの開発者がこれを素直に認めるわけにはいかないのだ、ましてやDeepSeekを使えばビッグデータとして中国に情報が流れるという展開になると思います。そのために米中での激しい開発競争と囲い込み、そして孫正義氏のスターゲートプロジェクトの早期展開を促すこともあるかもしれません。

私がこのニュースを見て思い出したのがアメリカとソ連の宇宙船開発競争でした。結局、あの競争はソ連が開発した世界初の人工衛星スプートニック(1957年)やポストーク1号に単身で搭乗したガガーリン大佐が人類初の有人宇宙飛行(1961年)をした話と似ています。その後、アメリカも猛追し、最終的にはアメリカが優位に立ちますが、それでもソ連⇒ロシアは宇宙開発ではアメリカから大幅に劣ることなくライバル同士の壁も下がりました。これが物語るのは開発費という金だけの問題ではないのです。それをやるという強い意志、そして権限と情報の集中であると考えています。

ならばDeepSeekの登場はAI産業を更に加速させることは間違いないと思います。AI産業についてはまだ夜明けから早朝ぐらいの段階であり、20年代は激しく、かつ恐ろしいほどのAI能力の加速度的展開が見込まれています。そうなることが倫理的に正しいかどうか、多くの意見があるわけで、私も意見はあります。ただし、世の中の動きは既にブレーキなき蒸気機関車状態であり、行きつくところまで行くのだろうと思っています。

我々はこれにどう立ち向かうのでしょうか?私のDeep ThinkとしてはDeepSeekにしろアメリカのAIにしろそれに使われずに、うまく利用する意識を持ち続けることだと思います。大半の人はその意識のボーダーラインを守れず、AIに全権を任せるようになるでしょう。その時、あなたはAIに負けたことになります。ここだけは私は誰からどれだけ批判を浴びるとしても言い続けるでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年1月29日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。