「年金改悪法案」は現役世代から137兆円以上を搾取する遠大な計画

年金改革法案は自民党でも調整が難航し、完全実施が2035年まで延長されることになったが、これは「先送り」ではない。現役世代の保険料を老人に上納する年金改悪法案の実態は変わらない。

年金問題はあまりにも複雑怪奇なので、日経以外のマスコミは当てにならない。アベマプライムも問題設定がピンぼけで、中身がなかった。

番組のメインは、ネットで炎上した標準報酬月額の上限引き上げだった。今の厚生年金保険料は月収65万円で保険料額が打ち止めになって逆進性が強いので、その上限を75万円に引き上げることは望ましい。今回の法案で唯一、問題のない部分だが、議論がそこに集中し、たかまつななさんもその話しかしなかった。

なぜ2035年まで完全実施を延期したのか

本質的な問題はそこではなく、彼女が「厚生年金の適用拡大」と結構なことのように言っていた中小企業のパート大増税である。厚生年金・健康保険の強制加入の対象がすべての企業の週20時間以上働く労働者に拡大され、厚生年金の加入者が740万人増える見通しだ。

日本経済新聞より

これによってパートの主婦の時給も30%減り、中小企業の経営にも大きな打撃になる。これには中小企業の反対が強く、今回も自民党が難色を示し、完全実施が2035年10月になったが、これは施行期間を4年から10年に延長しただけだ。

社会保険料の増税は法案が国会で成立したとき決まるが、今は「従業員51人以上」となっている厚生年金の強制加入の条件を2027年10月に「36人以上」に拡大し、29年10月に「21人以上」、32年10月に「11人以上」とし、35年に企業規模の要件を撤廃する(従業員5人以下と学生を除く)。

10年も猶予を置くのは、徐々に賃下げするためだ。従業員10人の零細企業の場合、あと10年は社会保険料は任意加入だが、2035年に突然30%賃下げするわけには行かないので、今年から3%ずつ下げる。

その半分が給与明細に書かれるが、残りの半分を企業が負担してくれるわけではない。給与総額が10年かけてゆっくり下がる(インフレの場合は据え置く)ので、10年もたつと30%の社会保険料はほぼすべて手取りの低下になる(これは実証研究でわかっている)。

ほとんどの現役世代の年金保険料は「払い損」

その保険料は将来、年金の増額として戻ってくるのか。それは年収や寿命によって違うが、山田真哉さんの計算では、年収100万円のパート主婦の場合、元が取れるのは年金支給開始から28年後の93歳だ。

これは「労使折半」の建て前で保険料15%として計算しているので、実際にはその2倍、つまり120歳ぐらい生きないと元は取れない。つまり厚生年金は、今の現役世代にとっては必ず損する金融商品なのだ。

「基礎年金の底上げ」に厚生年金の積立金を流用

なぜ厚生年金の強制加入を拡大するのか。それは国民年金の赤字を穴埋めするためだ。八代尚宏氏の指摘するように、国民年金(1号被保険者)の保険料納付率は44%に下がり、半分以上が未納・猶予である。

八代尚宏氏の計算

特に就職氷河期世代は50代になり、彼らがあと10年で退職するころから800万人の無年金老人が出てくる。これをすべて生活保護にすると、一般会計で20兆円の赤字になる。これも現役世代の負担だ。

それを避けるために「基礎年金を底上げ」するというのが厚労省の謳い文句だが、そのトリックがマクロ経済スライドの調整期間の一致である。これは2057年まで減り続ける予定の基礎年金の減額を2036年で止め、その分を年金積立金65兆円の流用で埋めるものだ。

日本経済新聞

おかげで積立金は2036年までになくなるので、その後は国庫負担65兆円で基礎年金の赤字を埋める。これも現役世代の負担だから、100年間で合計137兆円の負担増になる。

厚労省の資料

これは合計特殊出生率が(最悪ケースでも)2070年に1.13という2024年の年金財政検証の推定にもとづいているが、東京の出生率は2023年に0.99になった。つまり実際の負担増は137兆円よりはるかに大きくなる。

賦課方式の年金制度は100年もたない

これを解決するには保険料の納付を65歳まで延長し、支給年齢を平均寿命の85歳からにすればいい。しかしそれはとても政治的な合意が得られず、生活保護の問題は解決できない。

このような矛盾が次々に出てくるのは、超高齢化社会で賦課方式の年金制度を100年後まで続けようとしているからだ。これは人口増加を前提とした年金ネズミ講であり、人口が減少すると破綻することは目に見えている。

代替案としては、基礎年金を消費税に置き換える最低保障年金が民主党政権で提案されたが、年金官僚が葬った。彼らの最大の利権である年金を財務省に渡したくないからだ。これを今も主張しているのは、河野太郎氏だけである。

最大の問題は厚生年金の2階部分をどうするかだ。民主党政権では積立方式が検討されたが、これは「二重の負担」などの難点があり、政治的に不可能だ。民間の参入を認めるしかない。

今でも大企業のサラリーマンは厚生年金とiDeCoの2本立てで積み立てているので、厚生年金を任意加入にすればいいのだが、そうすると「払い損」になる45歳以下や年収500万円以上は厚生年金から脱退し、年金財政が破綻する。それを避けるために、こんな複雑な制度をつくっているのだ。

だが年金制度を破綻させないために、現役世代の生活を破綻させるのは本末転倒である。そもそも公的年金は必要なのか。「国民皆保険」は維持すべきなのか。現役世代と将来世代のために持続可能な制度を再構築する選択が、今国会では問われている。