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例のフジテレビの問題を見て、「やはり」と思うと同時に、「なんだかなあ」と感じたため、思うところを綴ってみる。
私はエンタメに詳しいわけではないので、タレントとの間に何があったのかについては、正直あまり知りたくもない。しかし、これだけ世間を騒がせている以上、否応なくマスコミの在り方に関心が向いてしまう。そこで、記者会見を追ってみたのだが、驚かされた。あの10時間に及ぶ会見の中で、次の非常に重要な点がほとんど語られていなかったのだ。
それは、ジャニーズ問題との関係である。厳密には質問は出たようだが、その内容は実質的に意味をなしていなかった。
私はジャニーズ問題が起こった時に以下の投稿をした。
この投稿は、ジャニーズ事件における加害者としてのマスコミが、他社に対して要求するような説明責任を自ら果たしていないことを指摘し、再発防止のために社内検証を提言したものである。しかし、文章が冗長であったため、要点を簡潔にまとめると、以下のようになる。
「芸能事務所の意向に従えばテレビに出演できるが、従わなければ出演できない。テレビ局は視聴率を取るために売れっ子を起用したいので、事務所の意向に従う。こうしたエンタメ業界特有の構造に対し、マスコミが何の歯止めもかけずに放置し、あるいは利用してきたことが、この問題を拡大させたのではないか」と指摘。
さらにマスコミが取るべき対策として、「ジャニーズ事務所以外の事務所にも忖度はないのか」などを自ら検証し、対策を講じたうえで、「関係者の人権を守るために、今後どのような施策を会社として実施するのか」を説明すべきであると提言した。
今回は、芸能事務所が単なる一タレントの立場であったが、根本的な構図は変わらない。
当時、私が指摘した点をマスコミが実践していれば、今回の騒動は大きく異なる展開をたどっていたはずである。当時は、テレビ局自身が枕営業を行う可能性については想定していなかったため、タレントとテレビ局の関係まで踏み込んではいなかった(ここで言及しているのは、テレビ局が枕営業をしていると決めつける意図ではなく、そのような疑惑が浮上しているという現実についてである)。
しかし、当時の指摘通りに芸能事務所とテレビ局の関係を精査し、適切なルールがなければ制定し、それを社内外に公表・徹底していれば、この問題は発生しなかった可能性がある。仮に発生したとしても、被害者のケアや被害の拡大を未然に防ぐことができたはずである。
特に、今回の事件がジャニーズ問題のBBC報道直後に発生したことを考えると、その時点でマスコミが自らの問題点を検証し、改善を図っていればと痛感せざるを得ない。
会見では、フジテレビがジャニーズ問題が大きな社会問題となった当時、どのような対策を講じていたのか、そしてそれが今回の問題とどう関連するのかを明確に問いただした記者はいなかった。そこを追及すれば、今回の件に対してフジテレビがどのような対策を講じていたのか(あるいは何もしていなかったのか)が明らかになったはずである。事実の解明も重要だが、最優先すべきは再発防止である。
仮に記者に問われなかったとしても、フジテレビがジャニーズ問題発生後に適切な対策を講じていたならば、今回の会見もここまで迷走せず、その対策に基づいてどのように対応したのかを説明できたはずである。しかし、そうした説明がなかった以上、結局何もしてこなかったのだろう。他者には厳しく、自分たちには甘いというマスコミの常としての姿勢が表れたのかもしれない。
結果として、先の投稿で求めたように、記者を交えた説明が10時間に及ぶ会見で行われることとなったが、現時点では単なる現状報告に留まっている。今後、再発防止策についてどのような説明がなされるのかは不透明である。
マスコミはいつになったら悟るのだろう。
※ 改善のチャンスはダウンタウン松本氏の時にもあったことを申しそえておく(何があったかとか、マスコミが直接かかわったかではなく、騒ぎが起こった時に、構造的な問題対策のきっかけとなりえたということである)。
会見について感じたことは以上であるが、たぶんこれは、フジテレビの問題だけではないような気がする・・・で、もう一つの問題について簡単に触れておきたい。
それは、放送法や電波法との関連である(これはフジテレビにきく話ではないが、会見で「停波」という表現と、「総務省の天下り」の話も出ていたものの突っ込んだ話はなかった)。
総務大臣は「自主的に判断されるべきもの」と発言し、総務省幹部も「フジテレビのガバナンスの問題だ」として、「編集における公序良俗を乱す行為ではないため、法律上の根拠はなく介入できない」との立場を示している。
しかし、総務省が早々に放送法・電波法の適用外と判断するのは適切だろうか。問題となったタレントの番組が複数制作されていたという事実を踏まえれば、局の行為が公序良俗に反していないか、つまり会社ぐるみで枕営業に関与していなかったかを調査・確認し、それを編集の一環(制作過程の一部)とみなすべきかどうかを慎重に検討する必要があるのではないか。
仮に最終的に「編集行為ではない」あるいは「公序良俗に反していない」との結論に至ったとしても、「放送法に違反しているか否かを検討する」こと自体は総務省の責務である。それを実施するだけでも、放送法・電波法が有効な法律であることをフジテレビ以外のマスコミにも明確に示す機会となる。それを早々に放棄するのは、まったくもって不適切な対応と言わざるを得ない。
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田中 奏歌
某企業にて、数年間の海外駐在や医薬関係業界団体副事務局長としての出向を含め、経理・総務関係を中心に勤務。出身企業退職後は関係会社のガバナンスアドバイザーを経て、現在は隠居生活。