ジャニーズ問題についてマスコミは会見で「説明責任」を果たせ --- 田中 奏歌

ジャニー喜多川氏の犯罪について、事務所の会見がおこなわれ、所属メンバーの広告などでの使用について、さまざまな企業・団体が会見しコメントしている。しかし、私はマスコミのトップが会見を行ったという話を聞いたことがない。私はあまりエンタメはくわしくはないが、ここに非常な違和感を感じたので今回投稿させていただいた。

彼の行ったことは許されるものではないが、それを助長したと一番疑われるのはマスコミではないか? そのマスコミの経営陣が前面に出ないで、逆にジャニーズ事務所を尻尾切りし、事務所と被害者をいけにえにして(ネタにして)のうのうとしているのは何かおかしいのでは、と感じる次第である。

「ジャニーズ事務所の名前を残すべきか」とか「所属メンバーも被害者だ」とかが、どうでもいいとは言わない。また、被害者への補償も大事ではあるが、この問題の一番の肝は、被害がここまで拡大し、隠蔽されてきたという構造的問題であり、そのうえで一番大事なことは、この構造的な問題の再発防止策であろう。やるべきことは、こういう事態が繰り返されないためにはどうしたらいいか、をきちんと検証し整理し対策をとるべきことのはずである。

ここまで犯罪が大きくなった原因を明確にしないで再発防止ができるわけはない。ジャニーズ事務所について追及するのもいいが、ジャニーズ事務所は、ほうっておいても当分は人権侵害を侵さないだろう。ジャニーズ事務所以外のところに今後も同じ犯罪を生み出す仕組みが残っている点を対策しないと解決にはならず、いずれ同じことがおこるであろうことは間違いない。

多くの方はなぜもっとはっきり言わないのだろう。

こういった犯罪を助長した主たる原因はマスコミにある、・・・と。

わかっている、と言われそうだが、報道だけでなく、アゴラをはじめとするネットなどの意見を見ても、「マスコミにも責任の一端はある」というのが多く、「この犯罪の拡大にマスコミが中心的な役割を果たしている」とはっきりいうものはあまり見かけない。

もちろん実行犯は事務所オーナー個人であり、それを助けるものがいたかもしれないが、本来なら少数の被害で済んだはずである。少数ならいいとは言わないが、ここまで広がってしまったのはなぜなのだろうか。

確かに、犯罪の報道を知っていた企業が気にせず広告に使ったとか、検察が動くのが遅いとかいろいろあるだろうが、私は、ものすごく単純に言ってしまえば、マスコミがきちんと対応していたならば、ここまで被害が広がらなかったのではないかと思っている。

どこの世界にも犯罪を犯す人物はいる、そういう人物に犯罪を犯させないことは大事だが、起こってしまったら、それを拡大させないようにすべきであろう。

例えば、芸能事務所の圧力に屈しない姿勢がマスコミにあれば、また、犯罪事実がわかった時点でその事務所のタレントの使用を中止し事務所にけじめをつけさせていれば、こうまで多数の被害者は出なかったかもしれないし、被害者への対応ももっと早くスムーズにいったはずである。

「芸能事務所の言うことをきけばテレビに出られるが、きかないと出られない」という構造、「テレビ局は売れっ子を出演させたいから事務所の言うことをきく」という構造、こういう本来エンタメ業界が持っている構造をマスコミが何のブレーキもかけずに放置し、または利用したかことが、この問題は拡大したのではないだろうか。

マスコミが毅然とした態度を示さず、ずるずる所属タレントを使い続けファン心理を煽ったから、企業はCMに起用したのであり、マスコミが毅然としていればここまで大きなことにはならなかったろう。

マスコミが、圧力によってか忖度によってかはわからないが、毅然とした対応をせず、ジャニーズ事務所を重宝なタレント供給者として扱ったことが、この犯罪をここまで拡大した一番の原因ではないだろうか。ここをマスコミ自らがきちんと検証し、対策をとらなくては、人権侵害の仕組みは残ったままである。

Clarini/iStock

さて、私の意見は以上のとおりであるが、これについては反論があるかもしれない。私がどうこう言うより、まずはマスコミ各社が自分たちの人権擁護の実態について検証して説明すればいいことである。

番組の中でアナウンサーや司会者、コメンテーターが軽く言っている「私たちも反省しなければいけない」などの口先だけの言葉は聞き飽きた。ジャニーズ事務所だけでなく、企業・経済団体も記者会見をしているのに、タレントと一番関係の深いマスコミの経営陣が自分たちの活動についてだんまりを決め込んでいる今の状態は明らかに変ではないか。

もし、マスコミは何も悪くない、企業同士の契約関係であるにすぎないというならば、それこそ、きちんとした検証をしその結果を経営陣の口から報告して、今後も引き続きマスコミが原因の犯罪は起こさせない、と明言すべきである。これこそマスコミの好きな「説明責任」である。

誤解を生まないためにも、もう少し明確にしておくが、芸能事務所とマスコミは会社対会社なので、阿吽の呼吸や利害関係で動いたりギブアンドテイクがあることは悪いことではない。しかし、今回起こったことは、許されることではないし、マスコミはそういうことを許す土壌を仕組みとして持っていることをきちんと説明し、これに対し、どう対策してきたのか、対策していくのか、もきちんと説明すべきである。

マスコミ各社の経営陣が記者会見しないことについて、本来これを追求すべきマスコミが何も言わない、つまり、マスコミ得意の報道しない自由を行使していることが、残念ながら犯罪の再発防止策をあいまいにしてしまっていると考える。

すべてのテレビ局経営陣が会見し、自社がこれまでタレント使用についてどうであったか、まずい点があれば今後どうするのかを明確にすべきである(何も悪いところがなければ、ちゃんと検証したうえで、彼らが言う「反省」の中身だけでも説明すべきであろう)。

ジャニーズ事務所や企業・団体が会見しているのに、タレントを一番使用しているテレビ局が会見しないことは、犯罪に加担したことを認めたと思われても仕方ないはずである。9月24日放送の「そこまで行って委員会」で読売テレビが検証作業をしている、と言っていたが、報道番組の中でのテレビ局の会社コメントの朗読や、検証したという証拠づくりのための反対意見のきけない検証番組などでお茶を濁すのではなく、ジャニーズ事務所や企業・団体と同じレベルの経営陣の会見で、忖度する記者ではないジャーナリストとの丁々発止の質疑をお願いしたい。

※本来は、テレビ局だけでなく、新聞社や雑誌社のトップも会見すべきだと思うが、まずはテレビ局が率先して会見すべきであろう。

では、マスコミが会見をちゃんとするとして、検証すべき内容はどういうものだろうか。今までのマスコミの自社に不都合な事件の対応を見ていると、総論的な表明でお茶を濁しそうな気もするので、あえて、こういうことを検証しなければ検証にはならないと思うことを考えてみた。

以下のようなことをマスコミが自社の活動について調べ、間違っていた点があれば、今後どのように対処すべきかを説明し、対策を明確にすればきちんとした検証になるのではないだろうか。誰でも考えることかもしれないし、ほかにもあるかもしれないがお許し願いたい。

目的はジャニーズ事務所の追求ではなく、今後の他の芸能事務所との関係での再発防止である。

そのすべてが悪いわけではないと思うが、どういうことをマスコミ各社が行っているかを明確にして、会社としての考え方を明確にすればいい。是非は国民が判断するだろう。

【報道をする企業としての会社の考え方】

  1. ジャニー喜多川氏の犯罪事実を会社としていつ知ったのか
  2. 知った後、会社はどういう対応をしたのか
  3. BBCで報道された事実をいつ知ったのか
  4. なぜBBCの報道を知った後すぐに対応しなかったのか(海外での報道をなぜ無視したのか)
  5. なぜ会社としての会見を今までしてこなかったのか
  6. 「結果的に」ではなく、会社のやってきたことに限定して、その部分ではタレントや関係者の人権が守れていたと思っているのか
  7. 今後、こういう問題が発覚した時に会社としてどう対応するのか

【芸能事務所との関係】

  1. ジャニーズ事務所からの圧力はあったのか
  2. ジャニーズ事務所に対する忖度はあったのか
  3. そのほかの芸能事務所からの圧力はあるのか
  4. そのほかの事務所への忖度はないのか
  5. 今後、ジャニーズ事務所のタレント使用をどうしていこうと考えるのか。また、今後、問題を起こしたほかの芸能事務所のタレント使用を原則としてどうすべきと考えているのか
  6. 自社が使用しているタレントの所属芸能事務所ランキングの公開と、そのうちの所属タレントの多い事務所との癒着を防ぐ対策はどうなっているのか
  7. マスコミに出演させないという暗黙の取り決めを事務所と行っているようなタレントはいるのか、それについてどう考えているのか

【検証結果について】

  1. 上記を検証をしたうえで、タレント・関係者の人権を守るために、今後どういう施策を会社として行うつもりなのか
  2. 今回のことについて、会社に責任の一端があるとしたら、補償や社内の処罰を含め、口先だけではない責任の取り方はどうすることだと考えるか

本当はこれくらいで本論を終わりにしたいのだが、マスコミ経営陣がきちんと検証会見をやったとして、上記をマスコミがきちんと自己検証し説明してもらえるならいいが、やはり総論だけでまとめていい抜けしそうな気がする。

例えば、結果としてそういう事実になった可能性があるので今後は気をつけていきたい・・・的な説明である。しかも、ひょっとすると追及するジャーナリストも同じ側なので、甘くなるかもしれない。

なので、以下に述べるような具体例での公開質問を事前にマスコミ各社に行い、会見の場で答えを準備しておいてもらう、くらいをしないと再発は防げないような気がしている。私自身はそういう会見に出るような立場ではないので、勝手な提案ではあるが、こういったことに答えることで、マスコミ各社が人権についてどう考えているかを明確にしてもらいたいと思う。

再度言うが、マスコミのやっていることがすべて悪いわけではない。上記の検証のためにも、以下のような具体的な観点が入らなければ、再発防止ができないと思うのである。「個別の話や事件に関係ない仮定の話には答えられない」などという言い訳は、マスコミがほかの事件について誰かを叩くときには許さなかったはずである。

① 社内にジャニーズ事務所担当がいるのか、過去の担当者が優遇されている事実はないのか

→担当者がいても問題はないが、その理由などを説明し、少なくとも癒着でないことを明確にすべきである。大きな企業では購買担当は定期的に交代している。

② 吉本興業との関係に問題はないか

→吉本興業に問題があるとは思ってもいない。しかし、お笑い業界での吉本興業の影響力は非常に強いはずである。吉本興業でなくてもいいのだが、歌謡界でのジャニーズ事務所と同じような影響力をもっているように思えるので、悪いことをしているとは思ってはいないけれども、あえて吉本興業を例に挙げた。例えば吉本興業との関係でジャニーズ事務所と同じ轍を踏まない(犯罪のことではなく、マスコミへの圧力またはマスコミ側の忖度を許さない)ためにも、吉本興業を実例としてその関係を明確にし、どう歪められないようにタレントや関係者の人権を守る対策をしているか、を明確にするとこの問題に対する会社の本気度がわかるであろう。

③ 事務所企画ではないと所属タレントを出演させないという芸能事務所がある、という事実はあるのか、それについて会社はどう考え、どう対応しているのか。

→アゴラで池田信夫氏は「ビートたけしの事務所は『たけしの企画した番組以外は出ない』と公言している(だからNHKには出ない)」と芸能事務所の影響力の大きさについて述べておられる。会社対会社であるので、そういうことがあってもおかしくはないが、そういう影響力に対し、公共の電波を使用する会社として、事務所による私的な電波使用を許してはいないかどうかを説明すべきであろう。

④ 例えば、芸能事務所の圧力に屈して出演が忌避されたと言われる例として、渡辺プロと伊東ゆかり・小柳ルミ子、太田プロと爆笑問題、のんに改名した能年玲奈など、素人でも耳にするが、こういった芸能事務所とタレントとのトラブルでマスコミがかかわったとされることについて、それはあったのか、また、それについてどう考えるのか。

→芸能事務所とのトラブルでタレントが干される話はよく耳にする(Wikipediaにも載っているレベル)。こういった事務所との関係をマスコミがどう考えているのかを、事実関係をもとに明確にし、マスコミが加担した人権侵害になっていないことを説明すべきである。

ここまでしても芸能界とマスコミの不透明な関係は断てないかもしれないが、今までのように適当に逃げ切るのではなく、経営陣が矢面に立ち、ここまですることでようやく、構造的な問題が少しは解決でき、再発が防止できるのではないかと思う。

いかがであろうか。ぜひマスコミ各社には、メディアとしてのいわゆる「説明責任」を果たしてもらいたいものである。やましい点がなくとも、コンプライアンス活動の一環として、ジャニーズ事務所や企業・団体なみの検証と経営陣による説明をしてほしいものである。

もっとも、マスコミに自浄作用を期待するほうが間違っているのかもしれないが・・・。

田中 奏歌
某企業にて、数年間の海外駐在や医薬関係業界団体副事務局長としての出向を含め、経理・総務関係を中心に勤務。出身企業退職後は関係会社のガバナンスアドバイザーを経て、現在は隠居生活。