総理の施政方針演説と各党の代表質問が終わり、衆議院の予算委員会が始まりました。
予算委員長は立憲民主党の安住淳氏。どうなることかと思いましたが、充実した審議を目指す具体的な動きも出てきました。
来週には、予算委員会で初めての省庁別質疑が行われます。指定された日に、それぞれの省庁に絞った予算審議が行われることになります。
これまで予算委員会と言えば何でもありで、ともすればスキャンダルに偏りがちだった審議が政策本位になれば、大きな成果だと思います。
問題は衆議院で予算案が可決される見通しが立っていないことです。
予算審議と並行して自公国の協議が本格化
自民党の政策審議会では、103万円の壁を123万円まで高める税制改正の案が了承されました。
年末に決定した与党税制大綱に入っている項目ですので、閣議決定まではこのままいくしかありません。
これは、言うならば政府与党の「言い値」です。178万円を目指すという自公国幹事長合意の実現を目指して、交渉がいよいよ本格化します。
今国会の政府提出法案59本の中で最重法案はこれ
予算審議と並行して、予算関連のものから法案審議も始まります。
59本の政府提出法案、13本の条約全てで、いずれかの野党の賛成を得なければならないのですから、各委員会の理事は大変です。
参議院選挙がある今年は通常国会の延長は困難です。全ての法案と条約を今国会で成立させるのは至難の業だと思いますが、何としても成立させなければならないのが能動的サイバー防衛法案です。
サイバー攻撃は国民の身近な問題
2022年の大阪急性期・総合医療センターの業務停止、2023年の名古屋港業務停止など、サイバー攻撃は国民の生活を直撃します。
わが国は、JAXAのサーバーへの侵入を許すなど、国益を毀損するサイバー攻撃にも直面しています。
サイバー空間の安全かつ安定した利用、特に国や重要インフラ等の安全等を確保するために、サイバー安全保障分野での対応能力を欧米主要国と同等以上に向上させる
国家安全保障戦略
サイバー攻撃はこの10年弱で10倍ほどに増加しています。極めて緊急性の高い問題であることは明白です。
国家安全保障戦略に「欧米主要国同等以上に向上」と書かれているのは、現状においてはわが国が大きく後れを取っていることを示しています。
能動的サイバー防衛法案のポイントは4つ
① 官民連携の強化
基幹インフラ事業者やベンダーと協議会を設置
インシデント情報や予兆情報の報告を受ける② 通信情報の利用
国外の攻撃インフラの実態把握のために通信情報を取得③ アクセス・無害化
サイバー攻撃を認めた場合、アクティブサイバーディフェンスを実施
実施主体は警察と自衛隊④ 組織・体制整備
内閣官房にサイバーセキュリティ戦略本部を設置
内閣サイバー官、内閣府特命担当大臣を設置
憲法問題で言えば、公共の福祉の要請(国民の安全)で通信の秘密の例外を認めるところが論点です。
アクティブサイバーディフェンスは、国民の生命財産を守るために必要不可欠です。
わが国が専守防衛の原則の中で、相手国の国民の安全を脅かす可能性をどのように極小化するかも論点になるでしょう。
独立機関は必要だが、機能させるのは難しい
法案が成立すれば、政府が必要な通信情報を入手し、警察および自衛隊がアクティブサイバーディフェンスを行うことができます。
これまでの情報通信政策や安全保障政策の枠を超えた措置を実行する以上、政府から独立した機関のチェックは欠かせません。
しかし、この独立機関を機能させるのは簡単ではありません。
原則、事前承認とされていますが、通信情報を入手するのかを一々個別にお伺いを立てることが現実的とは思えません。どの程度の包括的な承認を認めるのかも難しい問題です。
また、他国からサイバー攻撃をまさに受けんとしている時に、アクティブサイバーディフェンスの許可を得る暇があるとも思えません。例外的に事後承認とされていますが、どのように運用するのかも課題です。
独立性の高い三条委員会が一旦設立されると、政府はその決定に介入することはできません。
肝は人選です。現実の安全保障と人権や憲法の原則をどのように両立させるのか。そうした高度な判断をできる人物とは誰なのか。極めて難しい判断になります。
国会の関与も必要だが…
問題の重要性を考えると、国権の最高機関たる国会の関与も必要になります。
昨年末、国民民主党の玉木雄一郎代表は政府与党に能動的サイバー防衛法案の早期提出を促しました。
日本維新の会も必要性については理解しているのではないかと思いますが、立憲民主党の賛同を得られるかは不透明ですし、れいわ新選組、共産党は難しそうです。
野党の中で国民民主党の賛同が得られれば法案を成立させることはできそうですが、安全保障の根幹にかかわる政策について大きく態度が分かれているのが今の国会なのです。
サイバー防衛のオペレーションについて、国権の最高機関たる国会の関与は必要ですが、やり方を間違うと安全保障の根幹を揺るがすことになる難しさがあります。
自民党の議論の中でも、国会の関与のあり方については意見が出ていましたが、総合的に勘案して年次報告に留めるとの結論となりました。
問題は、少数与党の状況の中で国会審議で野党の理解が得られるかどうかです。国家の安全に関わる問題だけに、何とか野党各党のご理解をいただきたいと思います。
編集部より:この記事は、衆議院議員の細野豪志氏(自民党・静岡5区)のブログ 2025年1月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は細野豪志オフィシャルブログをご覧ください。