心をつなぐ出版オーディション?厚かましさと感謝の境界線

現在、SNS界隈で「きずな出版の出版コンテスト」が話題です。

きずなの出版コンテスト一般投票開始! | きずな出版
本日、2月1日正午より、きずなの出版コンテスト応募作品の公開と、一般投票を開始します。 1日に1票ずつ、応援したい作者のみなさまに投票いただけます。

きずな出版の出版コンテストには、126名が応募し、まずは予選通過者10名がスクリーニングされ、その後、本選で最優秀賞が決定されるという流れです。出版希望者にとってはまたとないチャンスといえるでしょう。

※ 現在の状況

夢をつなごう!きずなの出版コンテスト
◇出版のチャンス◇ 「絆」をテーマにした企画が、 きずな出版から全国書店で発売されるチャンス!応援したい作品すべてに、毎日1票投票できます。

しかしながら、同時に困ったことが散見されております。まったく親しくない方から、一日に何十通もDMが送られてくるのです。文面には「ありがとうございます」「感謝」の言葉が並べられていますが、本人からは、その意識が微塵も感じられません。「厚かましさ」満載です。

SIphotography/iStock

「厚かましい」という言葉は、「恥知らずで遠慮がない、図々しい」という意味を持ちます。他人に迷惑をかけていることに対して恥じることがないという解釈です。「厚かましいお願い」とは、他人に迷惑をかける無遠慮なお願いを指しますから、非常に厄介です。

このようなDMを送る前にぜひ考えてほしいものです。不快感を与える前に一言添えることを。

「大変厚かましいお願いですが~」といった表現を使うことで、「ご迷惑で図々しいお願いとは承知しておりますが~」という謙虚な気持ちを表すことが可能ですから。

つぎに、出版オーディションが人気の理由を考えてみました。一つは、きずな出版のブランド力です。きずな出版は「つなぐ」をモットーとし、実用書、自己啓発書、心理学、ビジネス書など、多彩なジャンルの書籍を出版してます。まさに、垂涎の的でしょう。

しかし、そう簡単なことではありません。

出場者の企画を見ると、明らかに重要な要素が欠けているものが多いのです。落選するだろうと思っていたものが、フォロワーの人気で上位にランクインしているから困ったものです。提出する前に専門家に相談していれば、このような事態は避けられたはずです。

次に出版社のメリットを考えてみました。現在、一冊の本を出版するには約300万円のコストがかかると言われております。定価が1500円の場合、2000部を売り切らないと赤字になります。

出版とは投資であり、投資分の回収と利益が見込めることが重要です。著名人や実績のある人、ネットでの発信力が強い人は有利ですが、今回の出場者はあまり該当しません。

そこで、付加要素が必要になります。今回のようなコンテストは話題になりやすく、マーケティング効果が高いのです。さらに、出場者を競い合わせることで相乗効果が生まれ、本好きのデータベースを構築することができます。上手いビジネスモデルだと思います。

どんなにリスナーに人気があっても、良い企画でなければ出版は難しいでしょう。しかし、心をつなぎ、未来をつなぐ力を持つ企画が生まれれば、それは投資以上の価値を持ちます。

今回のオーディションから、読者に感動や気づきを与える一冊が誕生することを願ってやみません。また、きずな出版の今回の取り組みにも深く敬意を表します。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

2年振りに22冊目の本を出版しました。

読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)