「紅衛兵」の時代がふたたび来るのか?

ニッポン放送の名物コーナー「私の正論」の収録に行ってきました。前々回の記事で村松剛に触れたタイミングで、彼の旧著と同じタイトルの番組からお声がかかるとは、奇縁を感じます。

1976年刊。
個人的には史論や文芸評論に比べて、
村松の正論(政論)はイマイチですが…

昨年末刊の『正論』2月号に寄せた「斎藤知事再選と「推し選挙」」を基に、お誘いいただいたもので、2/24・3/3・3/10(月)の18:10~20にて、3回に分け放送されます。お楽しみください。

「推し文化」が変えた政治とメディアのリテラシー|Yonaha Jun
12月25日発売の『正論』2025年2月号に、「斎藤知事再選と「推し選挙」 その必然と危険」を寄稿しています。以下のnoteが好評で、ぜひ年内に出しておきたいと急遽お声がけいただきました。御礼申します。 「推し」の文化ってホントは、民主主義と相性悪いよね、とは、一見すると『正論』と真逆の朝日新聞で2021年の夏、延...

その『正論』寄稿の末尾近くで、私はこんな風に時代を診断しています。

純化した現状否定の欲求に憑かれ、極論に基づくカルトで孤独を埋めようとする人の増えた現状を、私は「マルクス主義なき1968年」だと見る。

右は三島由紀夫と楯の会、左は連合赤軍まで行き着いた70年安保の騒乱を越えて、もういちど日常に回帰する道を示したのは、たとえば初期の村上春樹の小説だ。登場する人物はみな「自分のこだわり」を、容易に社会正義と同一視せず、他人に押しつけない節度を保つ(拙著『危機のいま古典をよむ』而立書房も参照)。

『正論』2025年2月号、139頁
(算用数字に改め、強調を付与)

そうなんですよ。ついこの前まで(『正論』は違ったかもしれないけど)、多くのメディアの売れ線は「Z世代は意識が高いッ。うおおお、脱炭素化! うおおお、BLM! うおおお、トランスジェンダー! うおおお、うおおお、うおおおお!」って感じでしたけど、それ要はいまの世界の前提を全否定してやりたいってだけでしょ?

だけど実は、遥かに強い全否定欲求は左じゃなく右にもあったんですね~残念! となったのが、ご存じのトランプ再選であり、その後のJ.D.ヴァンスやイーロン・マスクら「意識高い極右」のやりたい放題なんですな(涙)。

なぜいまポリコレは挫折し、かつもっと「挫折させるべき」であるのか|Yonaha Jun
今週末に発売の『表現者クライテリオン』3月号に、フェミニストの柴田英里さんとの対談「「議論しないフェミニズム」はどこへ向かうのか?」の後編が載っています! 前編の紹介はこちらから。 今回も盛り沢山ですが、特に注目なのは、柴田さんに美術家としての哲学を伺うなかで―― 柴田 アイデンティティを構築する上では排除の段...

幸い日本はそこまで行ってませんが、ヘッダーのように近い動きは出てきています。「政治屋を追い出して政治を変えましょう、でも政策はありません! あと若さが看板なんで8年経ったら辞めてね」みたいな(笑)。

興味深いのは、この石丸伸二氏のブレイクを選挙参謀として支えた藤川晋之助氏は、「政治塾」を開いて本人も支持者も研鑽し、持続性のある集団を作るべきだと助言した。しかし石丸氏にその気がなく、にわかファンを釣りやすいネット配信に入りびたりなので、決裂した…とする報道です。

「石丸君の支援者が“お礼の言葉もない”と離れていった」 元後見人が語る石丸伸二氏の人望のなさ 「大物たちも次々手を引いている」(2ページ目) | デイリー新潮
SNSを駆使したネット選挙の寵児として、昨夏の都知事選で2位に食い込んだ石丸伸二氏(42)。…

しかも同じ藤川氏によると、当初は「ネット発の新しい政治の波!」のように言われた都知事選(24年7月)の際も、ぶっちゃけ単にルールを守ってなかったという疑惑は、真実のようで…。

〈都知事選「買収」疑惑〉石丸伸二氏(42)の選挙違反を選対責任者が認める 「週刊文春」取材で藤川氏「認定せざるを得ない」 | 文春オンライン
昨夏の東京都知事選挙を巡り石丸伸二氏(42)に浮上している公職選挙法違反(買収)疑惑。2月10日には市民団体から刑事告発されている。 その疑惑を巡り、選挙対策本部の「事務局長」を務めた選挙プランナー…

ラジオで流れるかは編集次第ですが、オリジナルの「若者の叛乱」の時代には、大宅壮一が文化大革命の実態を「ジャリ革命」と評したことがありました。キッズ芸能人をジャリタレ、と呼ぶときのジャリで、紅衛兵なんてただのチンピラ、勢いだけの「ガキのイキリ」だというわけです。

その通りだったのですが、少なくとも、彼らにとっては毛沢東という「父」がいた。現状否定の欲求に動かされつつ、形だけでも一応は、「この人が俺たちにとっての ”大人” だ」として掲げるビジョンはあったんですね。

同書をめぐる講義を配信したことがありますが、1971年に精神科医の書いた土居健郎『「甘え」の構造』は、やがてそうしたモデルも消えてガキしか残らなくなる時代の兆しを巧みに捉えて、ロングセラーになりました。

このことはまた最近の青年の反抗によってもある程度裏書きされていると見ることができよう。なぜならそれは、先にのべたごとく、父親が弱いことに対する憤りであり、強い父親を待望する叫びであると解することができるからである。実際、中国の毛沢東が今日全世界の青年にある種の魅力を保持しているのはこの心理の反映であるのかもしれない。
(中 略)
この虚像が今日最も熱心に信じられている共産社会においてさえ、いつかはそれが崩れる日が来るにちがいない。しかしそれならばなぜ人類はかくも執拗に偉大な父を求めるのであろうか。

この点についてフロイドの父親殺害説は非常に暗示的である。なぜならそれは父親を探し求める努力が父親殺害の記憶を払拭しようとする意図に発することを暗示しているからである。すべての革命はこの人類的な主題の復習であると考えられる。

『「甘え」の構造』新装版、244-5頁
強調を附し、段落を改変
(後日、版を動画のものと合わせます)

さて、イーロン・マスクが私兵のように子分のITキッズを米国政府のクビ切りに動員してるのは事実らしく、「まるで紅衛兵のようだ」とBloombergが指摘してますけど、日本では意外な人がそれをコピペするんですよね。

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この人、コロナの時は「ロックダウンできる権威主義が民主主義より上だ。カネも命も権威主義が守る。人間に代わってAIに政治をやってもらおう。リストラされる老害は集団切腹で解決うおおおお!」とか言ってめっちゃ売れて、日本を代表する論壇誌も持て囃しましたよね。どうしたの?

イーロンは君のビジョンを実現してくれてるのに、なにが問題なんですかね。単にイキってただけで、嘘だったの? あっ、まさかとは思うけど、USAIDから貰ってたお金が来なくなった?(笑)

……何度でも言い続けますが、コロナで「キャンパスを閉じろ」って言われた時はヘコヘコ従ったのに、この人がごくまっとうな批判を世論から受け始めたら、にわかに「うおおお、学問の自由! うおおお、大学の自治!」とか叫び出す大学教員までいたんですよね(苦笑)。君たち、知性ってあるの? ていうかそれ以前に、恥とかないの?

日本人はなぜ、ここまで他人に共感できなくなったのか|Yonaha Jun
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コロナでここまでおかしくなってしまった日本を正道に戻すべく、今後も多様な場面で「正論」を発信してゆければと願っております。多くの方に「私の正論」を、ご聴取賜れるなら幸いです!

ヘッダーの「再生の道」と
ノリがそっくりそのままですね。
ハフポストの記事より


編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2025年2月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください。