持ち家vs.賃貸の議論をしばしばメディアで拝見しますが、さすが、最近はそのような記事があっても読まなくなりました。理由は不毛であるからです。双方がそれぞれの利点を述べるため、読み手にとっては「なるほど」と思わせますが、欠点をきちんと考察しなかったり記事で書かないため、まるで政治家が選挙演説をするような内容になってしまうのです。

bee32/iStock
不動産を生業としているお前の目線からどう考えるのだ、と言われれば「人それぞれ。ライフスタイルで考えるべし」だと思っています。それぞれの長所と短所をどう評価するかは個人の価値観の問題なのです。ただし、一点だけ申し上げると「老後のキャッシュフローを考えよ」だと思います。
ところで、私が大のタワマン嫌いなのは読者はご存じかと思います。何を好んでタワマンに住むのか理解できないのです。私に言わせれば「現代版の団地」でしかありません。
まず、タワマンといえば高層階からの眺めです。それは素敵だと思いますが、そこに住みたいかと言われればNOです。理由はタワマン高層階に行くほど外出する心理が遠のくのです。例えばすぐそばのコンビニに行く、散歩する、買い物に行くというちょっとした行為に不精になります。
この心理分析は実は新幹線と在来線の関係にもあります。たとえば東京を中心に考えると在来線で通勤1時間かかる神奈川、千葉、埼玉は東京のベッドタウンです。ところが新幹線で1時間である静岡県の三島や栃木県の宇都宮、群馬県の高崎だと一県、向こう側まで行けるのですが、おっくうという心理が出てきます。これは乗り物に乗っている時間ではなく距離が人の心を左右する心理的な効果が大きいためです。
同様にタワマンの場合、エレベーターで数十秒、途中階に何度か止まっても外まで数分で行けるのにこれが心理的なバリアになるのです。それと地に足がつかないという状態は子供の教育にはよくないとされます。なので申し訳ないですが、湾岸地区に林立するタワマンと子供人口の増加という事実に残念なエリアだと思うのです。
また湾岸周辺の日常の買い物は限られたところしかありません。先日、そのあたりにお住いの方が面白いことを言っていました。「大きな駐車場がある〇〇スーパーは外車と高級車天国で住まいから目と鼻の先にあるスーパーにわざわざこれ見よがしに高級車で乗り付けるんだよねぇ」と。この話を聞いて昔、自分が勤めていたゼネコンの社宅における見え張り競争とそっくり同じだと感じました。つまりそのタワマンの居住者は社宅と同様、極めて似た収入層の極めて似た考え方の持ち主が集まっていて個性が欠ける中でちょっと目立ちたいという行為になりかねないのです。
冒頭、老後のキャッシュフローを考えよ、と申し上げました。働いている間は毎月数十万円の給与収入があります。これがキャッシュフローです。ところが定年退職した途端、このフローが無くなったり、大幅減額されるのでストックの切り崩しをする必要があります。その際、タワマンの管理費と固定資産税が重い負担と感じるようになるでしょう。またタワマンの大規模改修工事はまだ少ないと思いますが、築20年もすれば必ず出てくるわけでその場合は昨今の建築費の高騰を背景に修繕費の特別徴収もあり得るのです。タワマンの共有部は広く、複雑で工事もやりにくいケースが多々あります。ある意味、タワマン大規模修繕は未経験分野だけにこれが将来、サプライズを引き起こす可能性があるのです。
よって私は持ち家なら絶対戸建て主義なのです。戸建てのメンテは自分である程度できる部分もあり、エレベーターやコンシェルジュなどのコストがかかるメンテ項目はないのです。また「腐っても鯛」ではありませんが、「上物が腐っても土地は減価しない」というメリットは大きいのです。
先日ある方と話をしていたところ、都内ながらバス便で20分ぐらいの物件を持っているがまったく売れないと。同様の話はほかの方からも聞きました。逆に言えば買い手から見れば安く物件が得られるチャンスでもあると言えます。
老後を楽に暮らす際に黙っても出ていくお金を減らすことが安全安心につながると思います。毎月かかる携帯代は削りようがない支出でしょう。同様に住まいの関連費もそうなのですが、高い住居費でも無理し続けるのか、先を見越して賢いプランするかは全然気楽さが変わってくると思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年2月23日の記事より転載させていただきました。