米国医学界に吹き荒れるトランプ暴風

少し前(2月7日)のNature誌のNews欄に「Have Trump’s anti-DEI orders hit private funders? HHMI halts inclusive science programme」(トランプのDEI大統領令が私的な財団にも影響か?HHMIの包摂的な研究が停止に!)というタイトルの記事が出ていた。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより

HHMIはHoward Hughes Medical Institute(ハワードヒューズ医学研究所)の略称で、世界で最大級のバイオメディカル研究を支える私的な研究機関である。私はユタ大学に5年間在籍していた時、HHMIの研究員でもあり、給料はHHMIから支給されていたので、他人事でもない。公的機関でないHHMIが大統領令にあっさりと従うのかと驚いた。

HHMIは科学研究における研究者の多様性を推進するために約90億円の予算を配分していたが、それを凍結したというのだ。DEIは「Diversity(多様性)・Equity(公平性)・Inclusion(包括性・包摂性)の頭文字をとったものだ。

わかりやすい例を挙げると、大学の入学試験時にアフリカ系の学生をある割合にする義務を課すことや、会社の幹部の女性割合を一定基準以上にすることなどの施策だ。

保守的な人たちは、「AさんはBさんよりも試験評価が高いのに、人種の枠があるためにBさんが入学試験合格で、Aさんが不合格になるのは逆差別だ」と批判してきた。

これまでの歴史の中で、奴隷制度を始め、教育する機会さえ失われてきた人たちの社会的活躍を支援する一環であったが、大統領令なるもので簡単にひっくり返されたのだ。

裁判で紛争中であるが、アメリカの新規科学研究予算は凍結状態である。国の公的研究予算が大統領で凍結される事態はともかく、HHMIのような私的財団の研究費にまで影響が及んでいるのは不思議な感じがした。

まるで、どこかの社会主義国のようだ。Nature誌はこのHHMIのInclusive Excellence 3プログラムで支援を受けている研究者に接触を試みたそうだが、全く返事をよこさない、あるいは、批判をすると何らかの報復を受けるのを恐れてインタビューに応じられないと回答したようだ。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2025年2月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。