日経が久々に若者への提言的な特集を組んでいます。「Neo-Company それでも進む 冒険続けよう、逆境こそ活力 2050年の社長に託す言葉」で、2050年の社会やビジネスを想像しながら何が必要になるのか、様々な企業人の提言となっています。記事では25年後の社長に向けて託したい言葉となっていますが、社長ではなくても全ての働く人たち、今の25歳の人が経営幹部になる50歳の時に向けたの話に限らず、これから生まれてくる人が社会人になった時のことを含め、働く人、全般に向けた話題だと考えてよいと思います。
key05/iStock
未来提言、これは実に難しいものです。例えば80年代を謳歌した人が約25年後の2010年の世界を想像できたでしょうか?その当時はようやくパソコンらしきものが一般人に普及し始めた頃です。AIとかITといった言葉はありません。では2000年の時に今日の社会が想像できたでしょうか?戦争が起き、世の中が分断し、人々の働き方に対する意識が大きく変化しました。リモートワークなんて想像もできませんでした。
トヨタが進める静岡県裾野市の実証実験都市、ウーブンシティ第一期開発が報道陣に公開されました。未来都市という前提ですが、写真や記事をみる限りものすごい変化があるようには見えないのです。全ての建物は地下の通路で繋がっていてそこを物流ロボットが動くというのが一つの売りのようです。しかし、地下街が発達したところはいくらでもあります。名古屋や新宿の地下街は好例ですし、寒冷地であるカナダ トロントの地下街も有名です。内陸の極寒地、カナダのエドモントンという街には900を超える店舗から世界最大の屋内ウォータープールや遊園地まで全部屋内にあります。
トヨタの着眼は物流という観点ですが、人が屋内で過ごし、寒暖や天候に左右されない生活環境という意味の地下街や屋内モールという発想は既に何十年も前からあるのです。あるいは大都市に張り巡らされた巨大な地下空間、共同溝はインフラを集約し、地下に収める発想です。よってロボット物流の地下通路はそれらの延長線上でしかないのです。つまり本当の未来都市はだれにも想像できないのです。現時点で与えられていない環境変化に対して想像のしようがないのです。
もっと分かりやすい話をしましょう。皆さんの家にある冷蔵庫と洗濯機、これ、なくなることが想像できますか?テレビは最近無くなりつつあります。冷蔵庫は「料理しないからいつも飲み物しか入っていない」という方もいるので、もしかしたら冷蔵庫も無くなるのでしょうか?しかし、人が住む居住空間は機能の変化はあれど、歴史的に何百年もさほど変わっていないのです。
ということは25年後の想像をするのは着眼としては面白いのですが、それに向けたビジネスをどう考えるか、というのは正直困難だと思うのです。但し、これだけは言えるのです。「人間はロボットにはならない」です。すると人間生活の基本に立ち返ると衣食住という最もベーシックなところは不朽であると言えます。今の技術の進歩は人間生活を楽にする、便利にする、という視点でありますが、人間が生きるという点では人類の歴史の初めから何一つ変わってはいないのです。
当然ながら一人では生きていけないし、ビジネスは顧客や従業員や協力業者など他者がいるからこそ成り立つものです。その根源まで遡ると25年後の社会への提言も基本的には人間が人間として共同生活し、偉くなりたい人はリーダーシップをとるという基本を考えればよいのはないでしょうか?若者が目指すべき25年後への提言という小難しいテーマ故に悩んでしまうのですが、古代ギリシャの人々がどうポリスを維持したのか、という着眼とほぼ変わらない、これが私の思うところです。
但し、古代ギリシャ時代と今ではある違いがあります。それは規制です。人々は共生の中で無言のルールを形成しました。英国には未だに憲法はありません。もともとは道徳を信じたからでしょう。ところがそのルールはしばしば破られ、不正をし、戦争をしてきました。故に社会が様々な約束事を成文化させたのです。これが法律であり、政府の規制であります。バイデン大統領が大統領時代に署名した規制だけでなんと3000件もあるそうです。つまり、我々の社会はどんどん成文化された規制でがんじがらめにされていく、これだけはギリシャ時代と大いに違うのです。
規制は残念ながら今後も増えるでしょう。25年後には人間の自由度はかなり狭められているかもしれません。その狭い枠組みでビジネスをするのはなかなか大変な気もします。今は個人商店やスタートアップと大企業が混在している社会ですが、大企業しか生き残れない社会が来るかもしれません。その時、ニッチで俺にしかできないとか、私は絶対にひとに負けないといった能力を持つことが大事になってくると思います。
とすれば私が「悩む若者への言葉」を一つだけ提示するとすれば「論理的な個性を磨け」ではないかと思います。25年後のことは分からない、だけど自分自身をしっかり磨き上げ、時代の変化に敏感になることが大事ではないでしょうか?
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年2月25日の記事より転載させていただきました。