ドイツ総選挙、保守派政党が第1党に:メルツ党首「復活祭までには新政権を」

ドイツで23日、連邦議会(下院、定数630議席)選挙の投開票が行われた。中央選挙委員会が公表した投票結果によると、野党第1党、保守派政党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)が得票率28.5%を獲得し、政権復帰への第一歩を踏み出した。第2党は右派「ドイツのための選択肢」(AfD)で約20.8%を得て、前回総選挙の2021年比で10.4%増と得票率を倍加させた。一方、ショルツ首相の与党「社会民主党」(SPD)は16.4%で前回比9.3%減、環境保護政党「緑の党」は11.6%(3.1%減)でそれぞれ大きく票を失った。そのほか、左翼党は8.8%と善戦したが、同党から分裂して創設された「サハラ・ワーゲンクネヒト同盟」(BSW)は4.97%に留まり、議席獲得に必要な得票率5%の壁を越えることが出来なかった。また、ショルツ連立政権のジュニアパートナーだった自由民主党(FDP)も4.3%に終わり、連邦議会の議席を失った。

次期首相に躍り出たCDUのメルツ党首、CDU公式サイトから

今回の総選挙は、2021年12月に発足したSPDと緑の党、FDPによる3党連立政権(信号機政権)がFDPの離脱を受け崩壊し、前倒し選挙となった。投票率は82.5%と、国民の選挙への関心の高さを示した(前回76.4%)。

CDUのメルツ党首は同日、「ショルツ政権の3年間は失われた期間だった。国民から政権担当を任された。低迷する国民経済を回復し、欧州のリーダー国としてその指導力を発揮できる国創りをスタートさせる」と勝利宣言と決意を表明した。

CDU/CSUは第1党となったが、過半数316議席からは程遠いから、政権パートナー探しが次の課題となる。メルツ党首は「欧州がさまざまな困難に直面し、米国からはトランプ政権の圧力が強まっている時だ。可能な限りは迅速に新政権を樹立しなければならない」と述べ、「復活祭(4月20日)までには新政権を発足させたい」と述べた。

得票率を連邦議会の議席数でみると、CDU/CSUが208議席、AfD152議席、社民党120議席、緑の党85議席、そして左翼党64議席、その他1議席となる。議会の過半数は316議席だ。メルツ党首はAfDとの連立を拒否しているから、過半数を有する安定政権を樹立するためには、連立パートナーが必要となる。
現地のメディアによると、CDU/CSUと社民党の連立政権(328議席)が最も現実的なシナリオを見なされている。問題は、2党連立に緑の党を加えるかで、CDU/CSU内で意見が分かれている。なお、ショルツ首相は今回の総選挙の結果を受け、CDU/CSUと社民党の連立政権ができたとしても、新政権には加わらないことを明らかにしている。

ドイツが直面している課題は移民政策、リセッションにある国民経済の回復だ。ウクライナ戦争の影響もあってロシアからの天然ガスはストップし、エネルギー・コストは急騰、物価は高騰する一方、輸出大国を誇ってきたメイド・イン・ジャーマニーのドイツ製品がコストアップで競争力を失うなど厳しい状況が続いている。ドイツ産業を支えてきた自動車産業は最大の顧客だった中国の需要が減少する一方、電気自動車分野で他の競争メーカーに後れを取り、工場閉鎖やリストラなどの対応に追われている。

ちなみに、選挙前からその動向が注目されたAfDは連邦議会で第2政党に躍進したことから、その政治的発言力は強まるが、メルツ党首はAfDとの連携を拒否していることもあって、AfDの政権入りは非現実的だ。同党はSNSを利用して支持者する一方、バンス米副大統領、イーロン・マスク氏らトランプ政権からの支援を受け、影響力を広めてきているだけに、同党の今後の動きが注視される。

なお、ドイツのウクライナ支援はメルツ政権となっても変化はないと受け取られている。ただし、空中発射巡航ミサイル「タウルス」のウクライナ供与については、メルツ党首はショルツ政権とは違い供与支持に傾いている。英国やフランスらが主導する欧州軍のウクライナ派遣問題ではドイツ国内でまだ議論が煮詰まっていないのが現状だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年2月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。