国民民主党の玉木雄一郎代表が2月15日、テレビの情報番組で、「高額療養費制度」について「外国人がわずか90日の滞在で数千万円相当の高額療養を受けられるのはおかしい」とし、「社会保険料は原則、日本人の病気や怪我のために使われるべきだ」と持論を展開した。
玉木雄一郎氏 国民民主党HPより
たしかに論理的にそのような可能性はあるし、実際、そんな極端で無くとも如何かと思うケースもある。ただ、こういう滅多にないような可能性を指摘して正当な外国人留学生や就労者が日本人も外国で受けているような福祉制度の恩恵に浴することまで否定するのは行きすぎだ。
そこで、私もこの問題を少し考えて見た。ところが、どうも国民健康保険については、地方自治体の運用による差も大きく、平均的にこうだとはいいにくいのである。しかし、できる限り公平にみるために、玉木氏の指摘に対する公明党の伊佐進一元厚生労働副大臣の解説、そして、私のFacebookの投稿に対して詳細なコメントをくださった谷畑英吾元湖南市長(滋賀県)の意見も紹介したいと思う。
まず、伊佐さんは、『【SNSで話題の事実解説】玉木代表が激論し炎上した来日外国人の高額療養費制度が日本の景気回復につながる可能性になる【高額医療費/玉木雄一郎/バズった話題】』で、「だいぶ誤解もあるとおもうので、事実関係をまとめてみました」ということで玉木さんの指摘には誤解を招くところもあることを指摘している。
詳しくは、短い井動画なのでご覧いただきたいが、伊佐さんがいっているのは、就労ビザや留学ビザをとれば国民健康保険に入れるのは当然であり、医療だけを目的に来るのは医療ビザで適用外だし、偽装の場合はビザの取り消しや返還請求ができる、また、外国人は若い人が多いこともあって、払っている国保料に比べて使う率は低く、むしろ、日本人にとってとくになっているというお話。
これを見て、一般論としてはとてもよくわかる説明ですが、取り消されるのは、たとえば留学生として実際には学校に通ってないとかいう場合ですが、学校に通っていたら、最初から日本で高額療養費制度の適用を受けられるはずですから、少なくとも計画的で金額的にも極端なケースには対処をしないと制度への批判が高まるように思った。
そこで、私なりに考えて見て、以下のような問題提起をFacebookで行って意見を募集した。
私の昨日の投稿
玉木さんが問題提起して話題になっている、外国人が日本に来て短期の滞在で高額医療にかかり、高額療養費制度の適用を受けているという指摘について考えて見ました。詳細に勉強したわけでないですが、少し問題を整理するとこういうことだと思います。
間違いが無いか、また、御意見もいただきたく思います。(具体的な議論をしたいので一般的な外国人問題のコメントは堅くお断りします)
外国人が三ヶ月以上の長さの就労ビザや留学ビザで入国すると国保に加入することができます(というより義務)。そのことは、国際的に普通の制度ですから問題ありません。それどころか、外国人は若い人が多いので、平均より医者にかかることが少なく、国保会計にはむしろ貢献しています。
また、実際には病気の治療が目的で通学や就労してなければビザも取り消されるし、医療費の保険負担も返還請求されます。
しかし、いちおう、通学や就労していると排除できません。
また、高額療養費制度の利用も国保制度の一環ですから外国人だけ排除するのも不適切です。
また、この問題は、日本人にもあるのです。つまり、これまで国保に入る義務があるのに入っていなかったのに、大病になったので急いで入る人もいます。また、若いときは通常、保険料より医療費が安いので入らない人も多く、高齢になったから入る、病気になったら入る人も多いわけです。
こうした不公正な実態を排除しようと思えば、マイナー制度の精緻化を進め、国保に自動的に加入させるとか、加入しない場合に厳しい罰則を課すとかすべきですし、また、高額療養費制度の適用は加入後、一定期間たったのちしかしないとか、加入以前に罹患していたり、事故にあったりしていた場合も排除するとか減額するとかをすべきなのです。そうすれば、外国人の不適当な利用も防げます。
外国人についての問題の多くは国民についても、義務を怠ったり不正を放置している、不正をしてもやった者勝ちになっている現状にあります。
生活保護についても年金受給者とのバランスでおかしいことも多く、たとえば、医療費が無料なので、生活保護であるが故に庶民は諦めざるを得ないような高額医療を受けられるケースも現実にあります。
また、かつてみたいに本当の最低生活のみを保障するのでなく、もうすこし人間らしい生活ができるようになっていますから(かつては車やエアコンも大学進学もダメでした)、生活保護を複数段階にして、生命維持がぎりぎりできる程度から、それなりの水準の内容まで段階をつけていいように思います。
そうした手当をしたうえで、外国人特有の問題があれば対処すべきかと思います。生命保険,医療保険に入る場合でも既往症などについてチェックはありますし、保険金が払われない例もあるので同様の対応は可能かと思います。
そうしたところ、いろんな方から意見をいただいたが、とくに、元滋賀県湖南市長の谷畑英吾さんから、詳細なコメントを頂いた。素晴らしい内容だったので、紹介します。
また、ほかの方の指摘や私が少し調べたところ、日本人が国保に入るべきなのに入っていない場合に、論理的には市町村から催告が行われ、場合によっては差し押さえがされルはずだが、現実には見逃されることが多いようだ(市町村によって扱いに大きな差がある)。また、入らないとか、入っても保険料を滞納した場合も2年で時効となる。
私は高額医療については、不慮の事故とか別にすると、日本人も含めて加入後たとえば1年以上経たないと適用しないとか、減額給付しかしないようにしたら、外国人の問題もだいたい解決するように思うのである。
私は外国人問題のほとんどは、日本人の一部に行われているような、ずるしてもやり得になることが多い制度を高額のペナルティなどで阻止する制度の欠陥を改める契機にすればいいし、そのことで解決すると思うのである。
谷畑さんは、湖南市長のとき、福岡県行橋市の小坪慎也市議が外国人による国保生保年金の不正受給問題に気がついて問題提起してから協力して、厚生省令改正の不備の指摘、2014年の海外療養費制度の厳格化、出産一時金の不正利用の強制停止までなどを実現する原動力になった方である。
また、新型コロナの水際対策は谷畑さんと小坪議員、無年金問題は小坪議員と稲田朋美代議士と谷畑さんと吉田本庄市長、入管法改正と特定技能の警鐘と政府方針への反映は谷畑さんが努力したと谷畑さんから聞いたことを添えた上で、以下の谷畑元市長のコメントを紹介する。より精緻な議論のきかっけになれば幸いだ。
谷畑英吾元湖南市長からのコメント
こんばんは、八幡先生。玉木雄一郎代表の議論は実は周回遅れです。まずは90日と言っていますが正確には90日を超えてなので3ヶ月ではなく4ヶ月なのです。その点すら知らずに議論をしているのはどうかなと思います。多くの制度的不備はこれまでも修正が重ねられてきています。
まずは麻生政権の宿題として、外国人登録を住民基本台帳に統合した際に、あわせて国保の支給要件を1年以上の滞在ビザから90日を超えて滞在する外国人へと厚生労働「省令」改正をしたのは民主党政権下でした。小宮山洋子厚生労働大臣の決裁だけで変更されています。しかも再入国手続の申請期間が5年間へと延長され、本国に戻ってから施された治療費も自治体国保にツケ回される危険性すらありました。そのとき玉木代表は民主党代議士として政権側にいながら、しかも財務省出身であるにもかかわらず何の指摘もしていません。おそらく基礎自治体の特別会計のことだくらいにしか思っていなかったのではないでしょうか。その点、基礎自治体は国保財政上の不安に苛まれました。
その後、2014年に海外療養費制度における女性タレントの外国籍父による不正請求事件から、会計検査院検査でほとんどの自治体が書類を整備していないことが発覚しました。実際に外国人が外国で高額療養費を使った事件を反省し、制度的対応としては厚労省課長通知や国保担当マニュアルで厳格化されることになりました。ただし、あくまでも弥縫策ですので、経営・管理ビザ、就労ビザを用いた医療ツアーの可能性は残っています(医療ツーリズムとは別の)。これは制度上合法ですが、大量に利用されると基礎自治体の小さな国保財政を直撃することになります。
2018年には外国で四つ子を出産した外国人が来日して出産一時金を請求しようとしたため、福岡県行橋市は国保法上対応ができないため、住基から職権消除するという荒業で対応しています。
2020年1月3日の外電で武漢に新型肺炎発生と伝わったとき、おそらくそれは大規模な感染爆発になると想定して注視していました。しかも、1月15日に中国人観光客から初めて国内での感染が確認されましたが、2月の春節には大陸から「治療に逃げて来たい」とするTwitter投稿をたくさん見つけて、外国人で国保がパンクするのではと危機感を持ち、1月中旬に数人の仲間で国会方面と厚労省と法務省を密かに押さえて入国時の手続の厳格化をしてもらいました。
コロナが収まり喉元過ぎればで、政府はバカみたいにインバウンドで外国人観光客を呼び寄せ、特定技能制度を拡充して外国人労働者を呼び寄せるとともに、高度人材としても外国人材を集めていますので、この内どれが制度の穴を抜けるかわからないのが今の状態です。
八幡先生のご指摘のように相互性や制度上対応すべき合法的なところまで締め出すのは問題です。確かに高額療養費制度の利用を国保加入後一定期間必要とすれば多くの課題は解決すると思います。とてもよい案だと思います。実は高額療養費は高い薬価の方がよほど深刻です。
その一方で外国人労働者の無年金問題から将来の生活保護一直線による財源不足地獄という課題もありました。これも1/4は基礎自治体の財源であるだけでなく、国が3/4を持つわけですが、ビザが切れて帰国する度に脱退一時金をもらい、最後に定住した際には無年金になり、生活保護に陥るという欠陥制度でした。しかも、実はそれまで入管と自治体がリンクしていなかったために、自治体から出国手続きをしても実際に帰国したかどうかは確認できず、脱退一時金をもらい在留し放題という状況でした。
これは2023年に国に対して厳しく指摘し、今では入管と自治体がリンクするように対応するという厚生労働大臣答弁が2024年の衆院本会議場でなされました。総務省自治財政局と厚労省年金局、労働局、法務省出入国在留管理庁がパンドラの箱を開けまいと責任のなすりつけあいをしていましたが、そのときは最終的に稲田朋美代議士が官僚を厳しく問い詰めて実態を白状させ、武見敬三厚労相から代表質問で答弁を取っていました。
そういえば2018年の入管法改正で特定技能制度が導入されたとき、国は何が起きるか、何をしたらよいかまったくわかっていませんでした。財界から安い労働者を大量に入れろとだけ言われて入れようとしたのですが、技能実習生とは違い、制度上、将来の定住から家族呼び寄せまでセットになっていました。これは地方の言語、生活、教育、衛生、治安などあらゆる側面に影響が生じるのに、安倍政権と中央省庁は物事の本質をまったく知りませんでした。
そのとき、全国市長会ではいい加減な政権公約だった幼児教育無償化を現場に落とし込むのに安倍政権(というより「市町村には迷惑はかけませんから」と言った菅義偉官房長官を裏切って半額を地方に負担させようとした財務省)と戦っていたので、外国人問題までは目が届きませんでした。法改正が一気に通って、これはまずいと官邸や自民党に詰め寄りましたが、それまでどこが窓口になるかもようやく法務省入管局を外庁化して出入国在留管理庁とすると決まったばかりでしたが、在留庁自体は現場である基礎自治体とのつながりがなく、肝心の司令塔が全国市長会に何をしたらよいか教えてほしいと泣きつくほど大混乱していたものでした。
外国人問題は国が勝手に制度をかき回し、責任を押しつけられる地方が反発して適正化を図ってきた歴史です。国の官僚は責任を持とうとしませんが、国保にしろ生保にしろ自治体は財政を直撃されますから、敏感にならざるを得ないのです。最初に戻り、玉木代表は今の混乱の元となった民主党政権の一員であったのですから、今さら何を言っているのかと思います。