『強運をつくる干支の知恵』増補改訂版の刊行にあたって

株式会社致知出版社から『強運をつくる干支の知恵[増補改訂版]』という本を上梓しました。本書では、干支の原点に遡って由来を述べるとともに、干支の意義を論じ、過去二〇〇二年から二〇二五年までの各年のSBIグループ年賀式で干支による年相として私が発表した年相を御紹介しています。

我がグループでは二〇〇〇年から毎年一月の最初の出社日に年賀式を行うことにしています。そこで私は今年の年相ということで干支(かんし)学をもとに三〇分程度話をしてきました。役職員の中には、うちのグループの総帥は占いが好きなんだとか今年の占いは当たるのかとそういった興味本位で聞いている者達もいると思います。筮竹(ぜいちく)などを用いた易占(えきせん)が干支を用いて普及したため、わけがわからず易占と混同しているのでしょう。

私がその年の干支から読み解いた年相を毎年の年賀式で話しているのは、言うまでもなく干支による年回りが歴史に関わり、天変地異に作用していると思うからこそであります。干支は巷(ちまた)で話題にされる神がかり的な予言や「当たるも八卦(はっけ)、当たらぬも八卦」的な俗っぽい易占とは全く異なるものです。

自然の摂理あるいは造化(ぞうか)のハタラキから古代中国人が経験的に宇宙の原則として学んだ集積が結実したものが干支です。それを啓示的に意味を持つものとして長い歳月を費やし古代から今日まで伝承してきたのです。そうしたものが非科学的な占いにすぎないとするのはあまりにも浅解であり曲解であると言わざるを得ません。

私は尚古主義者では決してなく、『論語』で孔子が言われているのと同じで「述べて作らず、信じて古(いにしえ)を好む」という心境なのです。ただ古代からの伝承を信じ、その中の不変の真理を愛好しているのです。

干支には古代からの英知と経験の集積が凝縮されており、未来に対する判断の拠りどころとして活かすことが出来るものです。詩人のジョージ・ゴードン・バイロンの「最良の予言者は過去なり」という言葉は真に至言だと思います。また初代ドイツ帝国宰相のオットー・フォン・ビスマルクが「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という有名な言葉を残していますが、このビスマルクが実際に演説で言ったドイツ語を直訳すると「愚者だけが自分の経験から学ぶと信じている。私はむしろ、最初から自分の誤りを避けるため、他人の経験から学ぶのを好む」ということでした。歴史とは、まさに他人の経験であり、古代から今日まで時空を超えた無数の人々の経験の集積なのです。我々はこうした経験知から謙虚に学ばなければなりません。

干支は、何千年という長い「過去」を整理・分析してそれを蓋然(がいぜん)性の上で吟味し、人生社会を考察する上での一つの規準として発達してきたものです。それは実に活学と言えるもので、我々の運命、社運、国運をより良きものにするための予知学の一種とも言えるものなのです。人間は常に先を慮(おもんばか)り、反省をし、警戒をし、そして起こるかもしれない事象に備えることが大事だと思います。この意味において干支は大きな役割を果たしてくれると信じています。読者の皆様の御役に立てれば幸甚です。また小生何分浅学非才の故、多くの誤りがあろうかと思いますが、御宥恕(ゆうじょ)いただきたく御願い申し上げます。


編集部より:この記事は、「北尾吉孝日記」2025年2月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。