決裂した米・ウクライナ首脳会談を「本音トーク」に翻訳してみた

筆者は決着するものと思っていたが、既報のように2月28日、日本時間の1日未明にホワイトハウスのオーバルオフィスで行われた米・ウクライナ首脳会談は激しい口論の末に決裂した。

小一時間に渡るやり取りを、筆者が脳内変換して短く「本音トーク」に翻訳すると、こんな感じになる。

ヴァンス:さっきからずーっとロシアガー、プーチンガー言ってるけど、あんたらはネオコン達に乗せられて前々から代理戦争してるだけだぞ!

ゼレンスキー:始まった以上戦わなきゃならないんだよ! 仮にそうだとしても全部米国がやらせたんじゃないかっ

トランプ:それはオバマとバイデンだ。ロシア、ロシア言うてたら停戦出来んぞ! 悪いようにせえへんから、ここは抑えて俺のディール呑めよ。ロシア抱き込んで早く中露分断したいから急いでるんだよ

ゼレンスキー:ロシアが悪い、ロシアが悪い、プーチンは大悪魔だぁーっ! 少なくともこの場でそう言い続けてないと俺はウクと欧州村に帰れないんだよ!(川浮かぶかも知れんし)

トランプ:そこは分からんでもないが、一旦帰って出直して来い。こんなん言わせたままでプーチンとディール出来る訳ねーだろがっ、ボケ

実際の国際世論としては、2014年のマイダン革命から、クリミア侵攻、今回のウクライナ戦争までを代理戦争と言い切るまでのハードな証拠は認定されておらず、筆者もここで断定はしない。だが状況証拠としては、ジョージ・ソロスに代表されるネオコンの思想としてロシアは強制的に解体されて民主化されるべきだというのはあるし、軍産複合体は戦争を欲して実際にここで利益を得ている。また、英国にとって大陸を分裂させておくことは国益に適うという伝統的な戦略は存在する。

トランプ達はその辺の事を言いたそうだが、そう言い切ってしまうと米国が国家としてやらかした事でもあるので、国益を損ねると考えているように筆者には映った。

ゼレンスキーとヴァンス

さて現実に戻って、ゼレンスキーのキャラクターについて光を当ててみると、2019年の大統領当選時は、当選に導いた映画の中と同じく気弱で実直なイメージでプーチンと対話によって問題解決を図る公約の実行を試みたが、アゾフ大隊に象徴される国内反対勢力に阻まれ支持率維持等のために方針転換。今回のウクライナ戦争でも開戦前夜の時期にバイデンに対して「そんなに煽らないでくれ」と要望していた(その後、バイデンの「警告」通りロシアは侵攻した)。

トランプはゼレンスキーをそこそこ成功したコメディアンと呼んだが、往時の映像を見ると、寸劇や歌やダンスを器用にこなし才気が感じられた。役を与えられたら役に成り切るタイプで、今の戦時大統領も地のキャラクターを自然に消して、役と一体化している印象を受ける。

暴露されている噂が全部本当ではないだろうが、旧ソ連国の例に漏れず少なからず不正蓄財はしているだろう(仮になければ夫人の高級ドレス等が問題にされる)から、「救国の英雄」のイメージの定着を図る前に権力の座から降りたら、亡命以外で平穏に暮らすことは難しいのではないか。

一方、今回の準主役となったJD・ヴァンスについて述べれば、検閲等が罷り通る欧州の民主主義の現状に対して、欧州各国代表に向かって公開説教(2月14日ミュンヘン安全保障会議での演説)を行い、リンカーンの「人民の人民による人民のための政治」ばりに民主主義の基礎の基礎を滔々と教え諭す姿が保守界隈で評価されて株を上げ、次期大統領候補の筆頭と見做されつつあった。だが、直接的にはヴァンスが割り込むような形が切っ掛けで始まった今回の口論により、今後のウクライナ停戦の帰趨如何では、評価を大きく下げる可能性はある。

何れにしても、今回のウクライナ停戦先送りによって、玉突きでその後のイベントにも影響が生じる。予想される大きな要素は、直接間接で習近平が絡んでくる余地が広がった事だ。

5月にモスクワで行われるロシア戦勝記念日の祝賀式典の際に想定されるトランプ・プーチン・習近平による「新ヤルタ会談」とも言われている3首脳会談は、拡大BRICS vs 拡大中国包囲網の瀬踏みの場となる。トランプとしては、中露に楔を入れアジア太平洋平定の礎を固めたい所だし、米露関係の親密化は中東でイランの牽制にも使える。

今回の米・ウクライナ首脳会談決裂を最も喜んでいるのは恐らく習近平だろう。そして世界の不安定化が増した。各国指導者には、俯瞰的視点と一層の主体性が求められる。