ウクライナ問題はどうやら別の意味で台風の目になるのかもしれません。素直に講和して停戦なり終戦なりになると思いきや、アメリカとロシアが接近し、アメリカは欧州と対立関係になる、こんな様相はトランプ氏が大統領になる前は全く想像ができませんでした。
トランプ大統領(ホワイトハウス X)、ゼレンスキー大統領(同大統領インスタグラム)、プーチン大統領(クレムリンHP)
ウクライナ問題は欧州の問題であるはずです。が、その欧州で取りまとができるカリスマ性のあるリーダーがいないことは政治的に大きな差となって現れました。本来であればマクロン氏がもう少しリーダーシップをとるべきでしょう。同氏はフランス国内で不人気ながら大統領の在任期間は2期10年で現在、2027年までの任期となっています。本人は国内情勢があれほど不安定ながらも辞める気は一切ないのであと2年半の辛抱になります。
ドイツはようやく総選挙で中道右派が主導することになりましたが、連立を組む相手は中道左派であり、政策は極めて中庸なものにならざるを得ないと思います。英国は労働党であり、これまた欧州という括りで見れば「英国ってあったよな」という存在感の薄さ。イタリアのメローニ氏は元気が良いのですが、G7や欧州連合でリーダーシップをとるほどではありません。つまり小粒。
欧州は昔から戦争が多く、民族的背景はその一因でありました。戦後、経済復興という一丸となった動きが最終的にEUという結束力となったのですが、私が見る近年の欧州は戦争をしていた時と同じようにそれぞれの地域から様々な声が上がり、各国の方針がばらばらになりつつあるように見えます。スロバキアはウクライナ経由の天然ガスが止められたことに対してウクライナへの激しい怒りを見せていますし、ハンガリーもロシア寄りとされます。東ヨーロッパのスラブ地域の諸国では親ロシア派と欧州派がまだらに存在し、火種になりやすい状況になっています。
トランプ氏がこれほどロシアの肩を持つとは思わなかったのですが、私から見るトランプ氏のウクライナ政策とは「終戦になれば何でもよい」という感じにも見えなくはありません。一方でウクライナの鉱物資源について当初、5000億ドルまでアメリカにその採掘販売権益をよこせといっていましたが、これではワシントンポストが報じるようにトランプ氏はマフィアと思われてしまいます。
アメリカが今日までにウクライナに投じた支援は約900億ドルとされます。それを回収し、更に儲けるためにコストの5倍の利益を要求するように見えるのです。金曜日の激しい口論はヴァンス副大統領の揶揄がきっかけともされますが、ゼレンスキー氏もそこに出向いたならそれなりの決意があったはずなのに相手のペースにはまってしまったのでしょう。それにしてもアメリカだけが利権を確保する、そんな話があってよいとは思われず、現在、英仏で調整している欧州案がどう出てくるのか、そしてウクライナを含む欧州連合とアメリカロシアという新たな構図がとなればややっこしくなりそうです。
金曜日までのシナリオはロシアは戦略的地域であるウクライナ東部とクリミア半島までを支配する、アメリカはウクライナの鉱物資源の利権を確保することで両大国がウクライナを分捕ることになります。(ただ、実際にアメリカが手にする鉱物資源権益がどれだけあるのか、私に聞こえてくるのはそんなにないのでは、という情報です。)鉱物資源のディールはアメリカとウクライナの二国間問題です。よって誰とどう合意形成しようが構いません。一方、ゼレンスキー氏は戦争期間を通じて世界各国に援助を求め、各国は相当の支援をしてきたはずです。それなのにアメリカだけとディールをするのは圧力に屈したか、裏取引があると思われても仕方がないかもしれません。
終わったばかりの国連総会で何故これがもっと掘り下げられなかったのかも不思議ですが、アメリカへの不信感は当然募ってくるでしょう。この片棒を担いだのがイーロンマスク氏であり、ドイツ総選挙で極右政党のAfDが第二党に躍進した陰の立役者であります。一方、マスク氏への批判は日増しに強まっており、それは欧州や北米におけるテスラ販売の激減に表れています。これはEVが売れなくなった一環ではなく、EVの売り上げ全般は伸びている中でテスラだけ蚊帳の外に置かれたのです。世界の軋みが民間企業の売り上げに響いている好例でしょう。
ウクライナをめぐる世界の軋みとは米ロ大国とつんぼ桟敷にされた中国というだけではなく、欧州内部の意見不一致で世界各国が一枚岩になれない厳しい状況の結果とも言えます。戦争をするほどの勇気はないが、経済や政治的敵対関係があちらこちらに生まれる不和の世界なのでしょうか?ふと思うのは安倍さんが生きていたらどういう采配をしていたのでしょうね?残念です。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年3月3日の記事より転載させていただきました。